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ベリアルさんお嫁にいけなくなる

 ベリアルの背中に紫色の薔薇のつぼみが浮かび上がった。


 花弁がふわりと開くとともに、女騎士の欲望が虚空に浮かび上がる。


「見るなッ! 見るなあああああああッ!!」


 妄想イメージの中でも、ベリアルは闘っていた。てっきり酒の海に溺れて麦酒の瓶を両手に振り回しながら、口から虹でも吹くのかと思って……もとい、心配していたのだが、騎士の本懐とは戦うことだったらしい。


 俺と――


 まるで魔王のような邪悪な笑みを浮かべた黒衣の大神官が、風の刃を次々放って少しずつ、ベリアルの鎧を削り、剥ぎ取っていく。


 女騎士の背後には、ステラとニーナの姉妹が足を竦ませて、互いに抱き合いながら震えていた。


 まるで俺が襲い掛かっているようじゃないか。


 現実世界のベリアルが、しゃがみこんだまま胸をブルンと揺らしながら身悶える。


「頼む! とめてくれ! この映像を止めてくれお願いします!」


 妄想の中のベリアルが黒衣の悪魔神官をにらみつけた。


『これ以上、ステラ様にもニーナ様にも手出しはさせぬ! いたぶりたいというのであれば、わたしをいたぶればいい!』


『ふっふっふ……では、貴方でたっぷりと楽しませていただきましょう。さあ、あと一撃で胸を覆う装甲が砕けてしまいますね』


『やめろこの変態神官! あ、アーッ!』


 見た目だけは俺そっくりな、中身はまったく俺に似ても似つかない悪魔神官の無慈悲な一撃で、ベリアル(映像)は大きく仰け反り胸をはだけさせた。


 俺はすかさず、ニーナの視線を遮る。


「おにーちゃ? 見ちゃだめなのです?」


「あれはベリアルさんの願望が映し出されたものですから。どうやらニーナさんを守るために、身を挺することが幸せなようです」


「説明するなセイクリッド! は、は、恥ずかしすぎるうううう!」


 頭を抱えるベリアルの背に咲いた薔薇が、さらに大きく花開いた。


 どうやらベリアル妄想劇場はクライマックスが近いらしい。


『お逃げくださいステラ様、ニーナ様!』


 二人を逃がすと、俺……ではなく、悪魔神官がおもむろに近づいて、ぐいっとベリアルの顎を親指と人差し指でつかんで引き寄せる。


『二人を見逃す代わりに、これからは私のものになっていただきますよ』


『す、す、好きにしろ……』


 二人の唇がゆっくり近づく。現実のステラは顔を真っ赤にして「え、ちょ、え、ええ!?」と困惑しっぱなしだ。


 俺は現実のベリアルに声をかけた。


「あの、ご愁傷様です。大丈夫ですよ。ええ、ええ、大丈夫ですとも。刷毛水車が出てこないだけでよかったではありませんか」


 俺の言葉にベリアルはビクンと反応した。


 そして、彼女の妄想が生み出した悪魔神官の手には、刷毛水車がいつの間にか用意されていたのだ。


「余計なことを言うなああああああああ!」


 ぶつんと音を立てたように、ベリアル(現実)の体から力が抜けて崩れ落ちる。


 パピメリオがストロー片手にため息を吐いた。


「あーん、もうちょっと見てたかったけど、しょうがないね」


 ベリアルの妄想を蝶魔族はストローで吸い取る。


「なんだか不思議な味だなぁ。けど、すごいパワーだ」


 このまま吸わせるほどお人よしでもない。


 俺は光弾魔法をパピメリオの顔面に撃ち込んだ。


「おっと! 危ない危ない」


 パピメリオは全身を無数の蝶に分解して、俺の光弾をかわす。こういうタイプは厄介だ。ステラの範囲ごと殲滅する超火力なら焼き尽くすこともできそうだが、アコにつかまったままである。


 しかもベリアルの妄想を目の当たりにして、魔王様は耳まで赤くなっていた。


「べ、べ、べ、ベリアルがセイクリッドと……こ、子供できちゃううう!?」


「あれは私ではありません。しっかりしてください」


 分離したパピメリオが再び像を結んだ。


「ふぅ。そうだ面白いこと思いついた! 次こそ赤毛さんの番だけど、せっかくだからギャラリーを増やしてあげるよ。恥ずかしい妄想って誰かに見られるとぎゅっと濃厚な味わいになるんだね」


 蝶魔族がパチンと指を鳴らすと、死んだ魚の目をしていたアコの瞳に輝きが戻った。


 俺がぶっ飛ばしたカノンとキルシュも、むくりと起き上がったが、俺に対して臨戦態勢のまま、首から上だけ正気を取り戻している。


 アコが叫んだ。


「うわわわわわ! ステラさん誤解なんだ。ボクは無理やり後ろから押さえつけてアレコレするつもりなんてなくて、けど、体が勝手に」


 カノンも「うう、セイクリッド殿! 当方に攻撃の意思はないでありますよ!」と涙目である。


 キルシュだけは「えっと、そういうことなんですけど、殺しちゃったらまあ、それはそれでラッキー? みたいな」と、結果オーライ的な反応だ。


 あとでみっちり教育が必要だな。


 しかし、ベリアルの妄想を吸収しただけでなく、これまで島で集めた人間の欲望の力は存外大きいらしい。


 見た目に反して強さが計り知れないのは不気味だった。


「じゃあ、次は赤毛さんね」


 これは迷ってはいられないか。ステラの妄想がどのようなものかはわからないが、仮に魔王としての夢を見られるのはまずい。


 以前使った手だが、パピメリオに強制転移魔法を使ってどこかに飛ばすにも、蝶になって分身する特性が転移魔法の難易度を格段に上げていた。


 下手をすれば、分裂したパピメリオという存在を世界中にばらまき兼ねない。


 ニーナもいてステラが人質の今は、勝機を探る我慢の時間に甘んじるより他無かった。

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