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到着! 火山島

今日は多忙にて短めで

「わああ! おにーちゃ! あれ! あれ! お山がモクモクなのです!」


 甲板でニーナが遠方にそびえる火山の山頂を指差した。


 客船は無事、火山島の海域に到達し、視界には赤茶色の山体が広がる。


 麓の海際には客船を受け入れるための港が見えた。


 俺は興奮してピョンピョン跳ねるニーナに告げる。


「あれは火山といって、時には炎を吹き上げる山です」


「へー。お山も怒るんだぁ」


 ニーナは「はえぇ」と声を上げて山頂の煙を目で追った。


 ステラはと言えば――


「ほら、ベリアル着いたわよ」


「わたしは自分が情けない」


 要介護だった女騎士に肩を貸し、魔王様はお疲れの模様だ。


 ともあれ、シャチ魔族の襲撃に遭ったものの「お客様の中に魔物や魔族に強い方はいらっしゃいませんか?」的な要望にお応えした俺の活躍もあり、無事、客船は火山島の村――ムーラムーラに入港した。


 別に誰も俺に魔族の撃退を依頼していないことは、この際、細かい事なので問題にはならない。




 船を降りると港で早速歓迎を受けた。


 軽快なリズムの打楽器の音色が響き渡り、客船を歓迎する村の若い男たちは、炎が両端についたスティックを手に回転させて、ファイアーダンスで乗客たちを魅了した。


 おへそ丸出しの美女たちが南国の花々で作った花輪レイを、次々と降船客の首にかけていく。


 さらに、男性客には美女からほっぺにキスのサービスだ。


 客の大半がカップルなので、これに同伴の女性たちから「ちょ!」やら「あーんやめて!」といった、軽い批難の声があがった。


 俺にもショートカットのツンツン頭な美女が、大きな胸を揺らしてやってくるなり、花輪を首に掛けて右頬に口づけした。


「あろは~! ようこそ火山が織りなす自然のダイナミックなアドベンチャーが待つ、スリル満点のムーラムーラ村へ!」


 アコだった。


 ステラがなぜか「ひぎにゃああああああああっ!」と、悲鳴をあげる中、アコは俺の頬からちゅぱっと音を立てて離れる。


「あの、アコさん……いったいこんなところでなにを?」


 アコはヘソ丸だしの腰蓑ルックで、胸もほとんど隠せているかいないかという際どい水着のような布一枚だった。


 走るたびに揺れる胸のたわわな果実が、そこかしこの男性の視線を釘付けにする。


 頭には色とりどりの花で作った頭飾りをしている。


 はにかんだ笑みを浮かべて、アコは俺に上目遣いで告げた。


「実は渡航費用でいっぱいいっぱいで、お金ないんでバイトさせてってお願いしたら、なんかお客さんの男にチューするお仕事紹介されちゃって」


 みればカノンとキルシュも同じようなへそ出し腰蓑姿ながら、降りる客の誰にもアタックできずに、その場で右往左往していた。


「あー! ずるいでありますアコ殿!」


「セイクリッドさん! わたしもいいですか?」


 キルシュが俺に向かって走ってくるのだが、ステラが回り込んで静止した。


「お、落着きましょう。いくら南国だからって、浮かれ気分はいけないわ」


 キルシュが榛色はしばみいろの瞳で、魔王様をにらみ返した。


「けど、ちゅっとするだけでボーナスがもらえるんですよ? わたしたちの養分になってください。お覚悟!」


「だめったらだめー!」


 ステラに羽交い締めにされてキルシュがジタバタする間に、俺の隣にカノンが立った。


「セイクリッド殿。ここは一つ、内密にご相談したい事がありまして。耳打ちして良いでありますか?」


「ええまあ。いいでしょう」


 俺が膝を折って高さをカノンに合わせると、カノンは俺の左頬に唇をそっと触れさせた。


「は、はは、恥ずかしいでありますが、これでボーナスゲットでありますよ」


「貴方もですか。まったく……」


 どうやら勇者パーティーは観光地でアルバイトして稼いで遊ぶつもりらしい。


 ステラに羽交い締めにされたキルシュが腰蓑を揺らして吼える。


「でしたら! でしたらお命頂戴させてくださいよ!」


 到着早々、これでは先が思いやられるな。


 ちなみにベリアルはといえば、ようやく揺れない地面に足をついて安堵したものの、今度は揺れなくなった地面に酔って波止場で口から虹を吹いていた。


 ご愁傷様である。

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