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殴り込みサマーバケーション



 俺は蘇生魔法で勇者パーティーを赤いカーペットに並べて正座させた。


 ちなみに、ぴーちゃんはというと記憶水晶ごと赤い鞄に引っ込んでしまった。仕事はすべて俺に押しつけるという、彼女の岩よりも硬い引き籠もり的意志を感じずにはいられない。


 情報収集に世界を飛び回ってみせたかと思えば、コレである。


 シスターぴーちゃんのことは諦めて、俺はトリオ・ザ・ポンコツたちに確認した。


「それでまた、いったいどうして全滅したのですか?」


 火山地帯と言えば、魔物も凶暴で強力なものが多くなる冒険の難所だ。新戦力キルシュが加入したとはいえ、ただの腕試しに挑むにはリスクが大きいだろうに。


 カノンが眼鏡のブリッジを指で押し上げる。


「実は……獲物がたくさんいるのでありますよ」


 珍しくドヤ顔だ。


「レベル上げも結構ですが、自分たちの実力に見合った相手と戦うようにと、あれほど口を酸っぱくしてまで申し上げたではありませんか?」


 アコが人差し指を立てて、チッチと揺らした。


「もちろん魔物はメッチャ強いし、今のボクらじゃ刃が立たないよ。というかそれで全滅した! けど、今回ボクらが海を渡って狙う獲物っていうのはね……人間なのさ」


 おいこら勇者こらおいこら。


「人間を襲うだなんて、それでは盗賊か強盗ではありませんか」


 アコがビシッと俺の顔を指差した。


「襲えって言ったのセイクリッドじゃん? そーだよねーキルシュ?」


「そ、そそそそうですとも! わたしたちは、王都より遠く離れた南の火山島にある、ビーチリゾートに行ったんです」


 キルシュが足のしびれに耐えかねたのか、立ち上がった。


 膝がガクガクと笑っている。隣でカノンが「まだまだセイクリッド殿の説教慣れしてないでありますなぁ」と、レンズ越しに目を細めた。


 正座させられるような真似を繰り返した結果、アコもカノンも慣れてしまったようだ。遥か東の果てにあるワっぽい国に行っても安心だな。


 ともあれ、キルシュはじっと俺を見つめたまま、なんとか愛用の暗殺傘を杖にして立ち続けた。


 生まれたての子鹿のようなキルシュから、ひとまず話を最後まで訊くとしよう。


「そのビーチリゾートな島で、いったいなにを?」


「新婚旅行や婚前旅行や熟年カップルに地元の少年と少女まで、みんなみんな楽しんでいるので、全員別れさせて暗殺者の徳を積もうと……まさに武者修行です! 右を見ても左を見ても、みんなカップル……カップルカップルカップルカップル……むきいい!」


 だんだんとキルシュのテンションがおかしな上がり方をし始めたな。


 カノンが冷静な口振りで付け加えた。


「以前、無人島にみんなで海水浴に行ったでありますよね? あちらの海もエメラルドグリーンでマリンブルーな感じなうえに、村では漁業も盛んで魚介類も豊富なのであります。とってもイイトコロでありますよ。温暖な気候だから、服なんて着てられないって感じで……もう毎日が海の日なのであります!」


 なん……だと。


 アコが腕組みしながらうんうんと頷きつつ、胸を縦にゆっさり揺らした。


「火山島だけあって、なんと温泉まであるんだよねー! 海際の露天風呂で、大海原に向かって愛を叫んじゃったりとか? そりゃあカップルの旅行客で賑わうのも無理ないよ。なんかもう、水着が普段着みたいな?」


 うんうんと、カノンも同意したように首を縦に振る。


「一説によると、どこかにヌーディストビーチもあるとかないとかで……キルシュ殿の修行にはうってつけでありましょう」


「それを探して迷子になったら、火山の魔物に襲われて全滅しちゃったってわけ」


 俺は雄弁に語った二人に手を差し伸べ立たせた。


「アコさん、カノンさん。それにキルシュさんも、事情はよくわかりました」


 この三人が平和な観光島を無茶苦茶に荒らしてしまわないか、大神官的にはとても心配である。


 本来なら、このような事はするべきではないのだが、なにせ“最後の教会”に祈りにやってくるのは、せいぜいお隣に住む魔王様くらいなものなのだ。


「ここはお三方が普段、どのような活動をしているのか見守るためにも、私も島へと同行いたしましょう」


 こちらの提案が意外というか予想外だったらしく、アコもカノンもキルシュも「「「――ッ!?」」」と言葉を失った。


 しばらく教会を空にすることになるのだが、留守番はマーク2と、ぴーちゃんにお願いしよう。


 勇者を導けとせっついた手前、あのメイド兼シスターゴーレム(現在、身体募集中)も嫌とは言えない言わせない。


 と、その時――


「話は聞かせてもらったわ!」


 聖堂の正面口扉を開いて魔王ステラが乗り込んできた。


「あたしも行くわよ! その新婚旅行の聖地とやらに」


 だれも聖地などとは言っていないのだが、いったいどういう風の吹き回しだ?


「ステラさん。無理にお付き合いいただかなくても、アコさんたちが心配というのは重々承知しておりますが、私がいれば大丈夫ですから」


 講壇の前までやってきた魔王はキッと俺を睨み上げた。


「アコたちの他に心配な人がもう一人いるんですー。すぐ脱ごうとする人なんですー」


 アコとカノンが「めっちゃわかるー」と、俺をじっと見つめる。


 キルシュは「え? え?」と、困惑していたが、どうやら俺のことだと察したようで、遅れて「わ、わかるー」と、アコとカノンと同じように口を揃えた。


 年頃の女子たちがよってたかって……大神官イジメ反対。イジメかっこ悪い。


 俺は溜息交じりにステラに返した。


「えー、ステラさんが行くとなると、ニーナさんやベリアルさんが寂しがるのでは?」


 赤毛の少女は手で髪を掻き上げるようにして胸を張った。震度0は相変わらずだ。


「ふっふーん♪ あたしにはね、この前、マリクハの賢人超会議でやってた魔法大会の優勝賞品……全国共通温泉宿泊券があるのよ! 家族旅行のチャンスじゃない?」


 そういえば、そんなものをゲットしていたな、この魔王様は。便宜を図ったのが教皇ヨハネというのも、舌打ち案件である。


「ともかく、あたしも……ううん! あたしたちも一緒にいくからね!」


 アコもカノンも「歓迎するよ」「きっと楽しいでありますよ」とステラさんご一家の参加に乗り気である。


 キルシュは「じゃあ、ステラさんもカップル殺したいんですね」と、相変わらずズレた反応だが「そのお手並み、拝見させていただきます! ライバルですねふっふっふ!」と、なぜかる気をみなぎらせた。


 もはや俺が逆らって止められる流れではなさそうだ。


 視察旅行ということで、教皇庁に旅費を経費として申告できないだろうか? いや、できろ!

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