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A

 聖堂内無言タイム。


 の、後に俺は咳払いを挟んで告げた。


「では、そろそろお送りいたしましょう。王都でよろしいですかカノンさん?」


「ま、待って欲しいであります! 上官としての命令・・でなければ、どうかお待ちを!」


 カノンの表情は真剣だ。俺の隣にやってきてステラがひじで軽く小突いてくる。


「いいじゃないセイクリッド? カノンはあなたに聞きたい事があるみたいだし。相談に乗るのも先輩の役目でしょ?」


 ステラの助け船にカノンは「ステラ殿はとても人間ができたお方であります」と、瞳を潤ませた。


 こちらにおわすは、人間でもなければ人格者でもないぞ後輩カノンよ。


 哀願するような見習い神官の視線が俺に突き刺さる。


「そわそわ……そわそわ……で、あります」


 直立不動だったカノンが、お尻の辺りをもぞもぞもじもじとしだした。


「ここは迷える子羊のお悩み相談所ですか?」


 隣で赤い髪の少女がニヤリと口元を緩ませる。


「教会ってそういうものじゃない?」


 ステラの「俺をイラっとさせる発言」で打線レイドが組める件。


 カノンは「ご、ご迷惑でありましたか?」と、俺を心配し始めた。


「いいえ。ですが私も噂で耳にした程度なので、カノンさんが知る以上のことは存じ上げないかもしれませんよ」


 見習い神官は深呼吸をすると、深くゆっくりうなずいた。


 眼鏡のレンズがキランと光る。


「単刀直入でうかがうであります。あのお方のお名前をご存知ないでありますか()()()()()()殿!?」


 今、自分の口で言った() () () ()


 カノンに背中を向けると尻尾をブンブン揺らして、ステラはお腹を抱えて前屈みになりながら笑いをこらえるのに必死だ。


「プークスクス! あひゃひゃ! ら、らめ! 面白すぎぃ!」


 生き埋めにしたい魔王ランキング(die)一位(※俺調べ)おめでとうございます。


 さらにステラは言う。


「聖職者なんだから、光の神の御前で嘘などつかず正直に話してあげたらいいわよ! あひゃ! あふっ! 呼吸いきが……」


 過呼吸に陥るステラを横目に、俺はカノンに告げる。


「存じ上げませんね」


 ステラが俺の顔を指さす。


「神様こいつです!」


 急募:光の神に告げ口する魔王への対処法。


 ここまで俺に攻め込んでくるとは、大神官を相手に良い度胸の魔王だな。


 カノンは俺とステラのやりとりに目を細めた。


「お二人はとても仲がよろしいのでありますな」


 言われた瞬間――魔王の顔が真っ赤に染まる。


「い、いい、いいわけなでしょ! セイクリッドはら、らら、ライバルよ!」


「そのようには見えないであります。まるで長らく連れ添った夫婦めおとのような呼吸いきの合いっぷり。それにお互い遠慮することなく、本心を言い合える関係はうらやましいであります。自分もいつか、あのお方に相棒と呼ばれるような立派な神官になって、教皇庁でバリバリ仕事をするのが夢でありますから!」


 希望に胸を膨らませ天を仰ぐカノンに幸アレ。


 と、ステラが唇をプルプルと震えさせた。


「え? ええ? カノンはその憧れの人のこと、顔も名前も知らないのに好きになっちゃったの?」


「じ、自分などおこがましいにもほどがあるのでありますが、尊敬の念を禁じ得ないのであります。噂ばかりですが、大変お優しい方だったともうかがっております。私財から孤児院に多額の寄付をなされたり、薬草学にも精通しておられて薬効のある植物を集めた花園を造られたとか……。あげればいとまはないのであります。自分はなにより、あのお方の強さにも増してにじみ出る優しさに心打たれたのでありますよ」


 悪行を並べられた方が万倍マシだ。


 ステラの表情が真顔になった。


「…………」


 何か言えよ。感心してるんじゃあない。


 カノンは「?」と、首をかしげたままだ。


 そろそろお引き取り願おう。


「では神官見習いカノンよ。再び立ち上がり使命を果たすのです。ちなみにこの教会のレートは半分です」


「どうかこれをお納めいただきたいのであります!」


 律儀にカノンは所持金の半額を寄付した。


 この教会に赴任して以来、初めてまともな収入だ。


「半分とはいいましたが、学割を適用しましょう。半分の半分をお返ししますね」


 この教会のルールは俺だ。異論は認めない。


 ステラから「身内ひいきね! そういう甘さが組織を腐敗させるのよ!」と指摘が飛んだ。


「妹に激甘な貴方が言っても説得力はありませんよ」


 カノンが眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら「ステラ殿には妹君いもうとぎみがいらっしゃるのでありますな。さぞやかわいいのでありましょう」と、興味津々だ。


「ええ! とっても可愛いの! 天使ね!」


 魔王よ天使という言葉を使うことに、なんのためらいもないのか。


 自慢げに胸を張るステラの頭をカノンはじーっと見つめる。


「それにしても、やっぱり気になるであります。その頭のはつのでありましょうか?」


 ステラが失言するより早く、俺が解答する。


「カノンさん。ステラさんの頭飾りは魔族を模したものです。黒魔法の威力を高める、特別なサークレット……でしたよねステラさん?」


「え? そうなの?」


 キョトンとするステラに俺は笑顔で続けた。


「そ う で す よ ね?」


「え、ええそうそう! そうよ! 魔王モデルなんだから!」


 カノンがいぶかしげに眉をひそめる。


「作り物のようには見えないであります」


 ステラが慌てて口を滑らせた。


「ほ、本物の魔王から剥ぎ取った素材で作ったのよ!」


 いやいや、無いだろその言い訳は。


 キャスケット帽の少女はカッと目を見開いた。


「それはすごいでありますな!」


 カノンもしっかりしているようで、残念系女子の予感がしてきた。


 この教会にやってくる女子、幼女をのぞいてまともなやつ0人説。


 軽く頭を抱える俺の顔を、魔王と神官見習いが揃ってのぞき込む。


「どうしたのよセイクリッド? 元気がないわね?」


「大丈夫でありますか? なにかお気にさわるようなことを言ってしまったでありましょうか?」


「いいえ。両手に花で薄暗い聖堂が華やかだと、幸せな溜息が漏れてしまっただけですから」


 ステラは「当然じゃない!」と笑顔になり、カノンは「は、恥ずかしいであります。恐縮であります」と、肩身を自分から狭くしてうつむいた。


 そんな神官見習いの視線が、ステラの自慢げに揺れる尻尾に注がれる。


「ところでステラ殿のお尻のそれは……」


「あ、これはしっ……」


「それはアクセサリーですよカノンさん」


 ステラの返答に声を大にしてかぶせて、強引に打ち消した。


 発言の邪魔をされてステラはムウッと俺をにらむ。が、無視しよう。


「動くアクセサリーとは不思議でありますな? これも黒魔法を強化する装備でありましょうか?」


 ステラのお尻の側に回り込んで、しゃがんで観察するカノン。


「ちょ、ちょっとあんまりマジマジ見ないで恥ずかしいじゃない!」


「自分は気になると放っておけないタチなのであります! まるで生き物……いや、これはもう身体の一部みたいでありますな」


 ツンツンと遠慮無しにカノンが指で尻尾をつつくと、途端にステラがビクン! と、肩を揺らした。


「や、やめて! そっと触るのダメ!」


 俺のスネをローキック攻めしておいて、人に触られるのは嫌だというのか。


「失礼したであります! けど、気になるでありますよ! どうやって動かしているのでありましょう? できれば自分もつけてみたいであります!」


 このままではステラをゆで卵のからのように引んいて、尻尾が本物だと判明しかねない。


「ちょっとセイクリッド! あなたの後輩をなんとかなさいよ!」


 仕方ない。俺はカノンに耳打ちした。


「ですから……で……こうなって……という感じなのです」


 俺が説明を終えると、神官見習いの顔が耳まで真っ赤にゆであがる。


「そ、そのような方法で。本来出すべき器官に挿入……結合しているとは……大変失礼したであります!」


 頭を下げる神官見習いに、ステラの顔が軽く青ざめた。


「え、ちょっと……何を言ったのセイクリッド?」


 俺の代わりにカノンが言う。


「黒魔法を極めるというのは大変なのでありますな! どうかお尻を大切にしてあげるでありますよステラ殿!」


「ああああああああああああああああああああああああああああッ!」


 穴があったら入りたい。と、魔王はその場で膝から崩れ落ちるようにして、神の御前にひざまずいた。




 このあと、カノンが無事王都に帰ってから魔王ステラにめちゃくちゃ怒られた。

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