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木箱の中身はプロ○○○

『セイクリッド様、ラステ様。お元気にしていらっしゃるでしょうか。


 クラウディアです。


 先日は遊びに来てくださって、とっても嬉しくて、こうしてお礼の手紙を差し上げようと、筆をとったしだいです。


 また、いつでも遊びにいらしてくださいね。美味しい紅茶とお菓子を用意してお待ちしております。


 手紙と一緒に、お礼の品というのもおかしな話なのですが、ぜひお二人に使っていただけるようにと、健康グッズをお送りいたします。


 日々のお忙しい聖職者としてのお仕事の合間に、気分転換などしていただければ幸いです』




 大神樹の芽を通じて手紙と一緒に送られてきたのは、ニーナくらいの子供が一人くらいなら屈んで入りそうな木箱だった。


 赤いカーペットの真ん中に、どんと鎮座まします箱からは、なぜだか嫌な気配が滲んでいた。


 送り主である第十三王女クラウディアは、善良で善人である。


 どこかおっとりとした雰囲気ではあるが、美貌に加えて“王族だから”と、世間知らずを自負できるくらいにも常識と良識を兼ね備えていた。


 が、俺を湖上のボートから突き落とす、謎の思い切りの良さの持ち主でもあった。


 そういった女性だからこそ、木箱にどんな爆弾が入っているかわからない。


 俺は腕組みして溜息交じりに言葉を漏らす。


「とはいえ、王族からの贈り物を送り返すのは失礼でしょうし」


 見なかったことにして、教会裏に穴を掘って埋めてしまおうか。


 基本的には、生き物は送り込めないので、せいぜい中身が食べ物だった場合には、土に還るだけである。


 と、思い悩んでいるところで、聖堂正面の入り口が小さく開いた。


「こんにちは~セイおにーちゃはございたくですか~?」


 これはまた難しい言い回しを、どこで覚えてきたのだろうか。


 金髪を揺らしてエメラルドグリーンの瞳の幼女が、ひょっこり扉の隙間から顔を出した。


「こんにちはニーナさん。ようこそ教会へおいでくださいました」


「わあぁ! おにーちゃいたのです」


 軽い足取りでニーナは俺の元へとやってきた。


「今日は赤い鞄は背負ってこなかったのですね」


「うん! 使用中なのです。あのね、ステラおねーちゃとベリアルおねーちゃが対戦ぷれい? してるの。はまっちゃったんだって。それでそれで、今度大会開くってがんばってるの」


「そうでしたか。ニーナさんも参加するのですか?」


「うん! おにーちゃもふるってご参加くださいねー」


 まあ、そうなるだろうな。


 ニーナはじっと木箱を見つめていた。


「なにかな? なにかな? おにーちゃ、箱だよ?」


「ええ、箱ですね」


「開けないの?」


 好奇心旺盛な幼女に見られてしまったのが運の尽きか。


「まあ、危険はないと思うのですが、ニーナさんは講壇の上へ。マーク2さん、もしもの時はよろしくお願いします」


 壇上に配備されっぱなしで、もはや一日のほとんどを俺よりも長く講壇に立たされている案山子のマーク2が、何度か記憶水晶を発光させた。


 ニーナがトテトテと講壇に上がると、彼女を守るように防壁魔法を展開させる。


 実に頼もしい。


 幼女が万歳した。


「準備おっけーなのです」


「では、開封しますか」


 木箱は釘で止められていた。バールのようなものがあいにく教会には無かったため、風刃魔法で木箱の上面を切断する……と。


「おや、なんでしょうこれは」


 とりあえず危険はなさそうだと、ニーナが壇上からこちらに駆けてくる。


「ストップ! お待ちくださいニーナさん」


「はうっ! おにーちゃ……危ないの?」


 ぴたっと足を止めたニーナに、俺は「爆発物や得体の知れない魔導具の類いではないようです」と、確認してから手招いた。


 前魔王のコレクション的なものではないかと、危惧してしまったわけだが、そこはそれ王女様の贈り物である。


 中には様々な器具が納められていた。


 左右から棒が飛び出た小さなローラー。左右にハンドルのついたバネ。柄の両方から弾力性のある樹脂を固めてつくったようなブレード。小さなものから大きなものまで、重さ毎に色分けされたダンベルセット。


 ボードの下にお椀型のドームがついた器具は、上に乗るだけでバランス感覚が鍛えられそうだ。


 他にも、膨らませると直径一メートルほどにはなるであろうボールやら、組み立て式の腰をサポートする腹筋台などなど。


 一緒に“飲み物などに混ぜてお召し上がりください”と、一筆したためられた瓶入りの白い粉も入っていた。なにやら怪しげだが、筋力増強の役に立つらしい。


 ニーナの瞳がキラキラ輝く。


「わあああ! おもちゃがいっぱいだね、おにーちゃ!」


 ボールなどは、ニーナにしてみれば遊具といって差し支えない。


 ニーナはうずうずもじもじし始めた。


「おにーちゃは一人で遊ぶの?」


「ええと……そうですね。一緒に遊びますかニーナさん」


「はい!」


 とっても良いお返事で幼女は笑顔を見せるなり、ぺたんこのボールを手に取った。


「えっとえっと、これはきっと……ぷーっ!」


 空気の吹き込み口を見つけて、ニーナは顔を真っ赤にしながらボールを膨らませ始めるのだが、いかんせん小さな女の子の肺活量では、なかなか膨らみきらない。


「はうぅ。おにーちゃぁ」


 涙目で俺を見上げて幼女は膨らみかけのボールを差し出した。


「ここに空気をフーフーしてほしいなぁ」


 幼女と間接的にああなってしまうのである。


「ここはベリアルさんかステラさんにお願いした方が良いかもしれませんね」


「二人ともずーっとぴーちゃふぁいたーだからぁ」


 なんということだ。こんな時に限ってアコもカノンも新加入のキルシュも死に戻ってこないのである。


 俺はボールの吹き込み口と、大神樹の芽を交互に見てから……。


「わかりました。仕方ありませんね。他にできる人間がいない以上は、大人である私がこのボールを膨らませる必要があるようです」


「あ! おにーちゃ箱の中にポンプあったよー! よかったねー」


 ニーナが木箱から押込式の空気入れを手にして戻ってきた。


 ああ、良かった。本当に良かった。


 俺はポンプをボールの空気穴に接続すると、一心不乱にハンドルを動かす。


 あっという間にボールは膨らんだ。


「わああ! ポインポインだね。じゃーんぷ!」


 赤いカーペットの上に、通路を塞ぐように巨大なボールが転がった。それ目がけてニーナが飛び込み、掴むとそのままゴロゴロと回転する。


「きゃー! たーのしー!」


 ごろんごろんとニーナ自身も前転する要領で、長椅子にぶつかったり正面口の扉に跳ね返ったりした。進路上にモンスターがいたらストライク待った無し。


 というか、こちらに転がってきた。




 ゴロンゴロンゴロンゴロン……ガシッ!




 と、ボールごと幼女を受け止める。ニーナはキャッキャと楽しげに笑い声を上げっぱなしだ。


 あれだけ回転して気持ち悪くならないとは、三半規管の強いお子様である。


「はーおもしろかった」


 そして、もう飽きてしまったのか。


「おにーちゃもごろごろする?」


「いいえ、私は遠慮しておきましょう。しかし、二人で楽しめそうなものがあればいいのですが……」


 いかんせん、入っているのは筋トレグッズだ。


 だが、ニーナにかかればどれもオモチャになってしまうらしい。


「うーん、じゃあ次はこのローラーね! ニーナが持つから、おにーちゃがニーナの足を持って!」


 最初は意味がわからなかったのだが、ニーナは赤いカーペットに腹ばいになって、両手で腹筋ローラーを手にした。


 どうやら手押し車の要領らしい。ニーナの足を掴んで押すと――


「ぐるぐるごーごー! ぱからんぱからん! ニーナがとおります! おにーちゃ右カーブだよ?」


「あの、ニーナさんこの遊びは?」


 顔をこちらに向けて幼女は「馬車ごっこ!」と嬉しそうに笑う。


 ニーナが馬で俺が馬車か。なにこれ……なにこれ……。


「次は終点~! 魔王城前~!」


「あの、ニーナさん苦しくないですか?」


「そういえば、腕とお腹がちょっとつらいかも」


「馬車ごっこはやめておきましょう」


 俺はそっとニーナの足を地面に下ろした。


 すぐにひょいっと立ち上がって、幼女は木箱に向かう。


「今度はこれにします」


 柄の左右に樹脂でできた弾力性のあるブレードがついた道具である。


「剣士ごっこですかニーナさん?」


「おにーちゃ……こよいのニーナは血にうえてるの」


 闇夜の辻斬りかなにかですか?


「ふっはっは。良いでしょうお相手いたしますとも」


 まさか幼女に対して光の撲殺剣を抜く日が来ようとは。だが、こうなった以上は後にも引けない。


「おにーちゃの悪のめいみゃくはここでつきるのです!」


 あれ? 俺が悪役なのか? まあいい。


「はーっはっはっは! 悪は滅びぬ! この地に満ちて世界を闇の底へと沈めてくれよう!」


「ニーナの剣で、止めて見せますからぁ!」


 ニーナが剣(?)を振るうと、ブレードがビヨンビヨンと揺れた。その反動と振動が幼女の上腕や二の腕の筋肉を刺激する。


 俺はそっと優しくニーナの攻撃を撲殺剣で受け止めた。


「どうしました? 貴方の力はその程度ですか?」


「はうっ! なんという強さ!? だけどニーナだって……えい!」




 ビヨンビヨンビヨンビヨン!




 揺れて震えるブレードを受けて、俺は大きく後ろにのけぞってみせた。


「ぐあああ! なんだ今の攻撃は?」


「ひっさつのニーナビヨンビヨン剣が、かんぜんにはいったのです!」


 完全に入っても相手が生きているというのは、むしろ死亡フラグだ。


 俺が身構え直す間も、ニーナはブレードをビヨンビヨンと振り続けた。


「なんだか、なんだかニーナ……ホントに強くなれちゃうかも」


 実際に強くなれちゃうかもしれない道具類には違いないが、いや待てよ。


 このままニーナに遊ばせておいて良いものだろうか。


 もし、ニーナが飽きずに毎日これらの道具を使い続けたら――


 腹筋が六つに割れたムキムキ幼女の出来上がりだ。


 俺は勝負の決着を急いだ。


「次の一撃が最後だ!」


「受けて立つのです」




「「うおおおおおおおお!!」」




 赤いカーペットの上を二つの影が駆け抜け、交錯した瞬間に全てが決した。


 幼女の手から聖剣ビヨンド(仮名)が落ちる。


 が、彼女は立ち続けた。一方、男は膝を屈してその場にゆらりと倒れる。


「どうやら私は……永く……生きすぎたらしい……」


 バタリと倒れると俺はそっと目を閉じる。


「はっ! おにーちゃ! しっかりしておにーちゃ!」


 ニーナが駆け寄り俺の背中を両手で揺すった。もう配役もなにもあったものではないが、ステラの妹だけあってか、なんだかんだでノリが良い幼女であった。




 それから、ニーナがどうしてもというので、ティータイムに木箱の中にあった瓶入りの白い粉をいれてみたのだが、紅茶の味が変わってしまって不評である。


 俺としてはほっと一安心だ。


 淹れ直した紅茶とお菓子で休憩すると、ニーナは大満足で「今日はとおっっても楽しかったです。セイおにーちゃありがとうございました!」と、ペコリとお辞儀をするなり、スキップしながら魔王城へと帰っていった。


 幼女の気配が完全に無くなったところで、俺はクラウディアからの贈り物をすべて木箱に収納すると、木の蓋をして密閉しなおす。


 クラウディア王女とニーナには悪いが、危険なので夜中に教会裏に埋葬することにしよう。


 ああ、贈り物のお礼の手紙を書かねばならない。


 一応、一度は使ったのだから、大変充実した時間を過ごせたという感じで返信することにした。




 ――後日、倍の数と種類の筋トレグッズが届いた時の、ニーナの喜びようについては言わずもがなである。

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