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ハイスコア幼女

 俺が聖堂の清掃を終えたところで、今朝もニーナがやってきた。


 お気に入りの赤い鞄を背負って、カーペットの上を跳ねるように俺のところまでやってくる。


「おはようございますセイおにーちゃ!」


「おはようございますニーナさん。本日は当教会にどのようなご用事で?」


「遊びにきました!」


 両腕を万歳させるニーナに、つい気持ちがほっこりとしてしまう。


 俺は講壇から降りながら「さて、今日は何をしましょうか」と腕組み思案した。


 今日のニーナはおままごとセット一式を持ってきていない。


 となると、本を読むかオルガンに合わせて歌を歌うか、もしくはダンスといったところである。


 ニーナは「よいしょ」と鞄を下ろして長椅子の上に置いた。


「あのねあのね! おにーちゃ! すごいんだよ!」


 興奮気味なニーナに俺は首を傾げる。


「なにがすごいのか、詳しくお話していただけますか?」


「うん! ぴーちゃんがね、ばーじょんあっぷしたのです! 今日はつながってるかな~? もしもーし! もしもーし!」


 幼女の問いかけに、長椅子の上に置かれた赤い鞄が独りでに開き、中から記憶水晶が姿を現した。


 光が投射されて四角くなったぴーちゃんが浮かび上がる。


「おはようございます。ニーナ様にセイクリッド様」


 ぴーちゃんがちょこんとお辞儀をすると、ニーナのほっぺたがぷくーっと膨らんだ。


「ニーナはおねーちゃでしょ? しっかりなのです」


 幼女の姉妹設定は未だに有効で、ぴーちゃんは妹のままのようだ。


 四角い棒状の手足をメイドゴーレムはバタバタさせた。


「そ、それは失礼しましたわ。に、ニーナおねーちゃ様」


 ニーナがムムっとした顔のまま「たにんぎょーぎなー」と呟いた。


 そんな言葉、一体誰から教わったのだろう。


 しかしそれはそれとして――


「特に変わったようなところは見受けられませんが?」


 先日、四角くなる呪い事件で四角い姿を気に入ってから、目立って変わったようなところはない。


 が、ぴーちゃんはスカートの裾をつまむようなお辞儀の仕草をした。四角いのでつまむ裾もないのだが、恭しく下げた頭を上げると、不意に俺とニーナの手元に小さな光る取っ手のようなものが浮かび上がる。


 半月のような孤を描いたそれには、十字の印と小さなマッシュルームのような小さな突起に、ボタンが四つついている。


「なんでしょうかこれは?」


 ニーナが俺にお手本を見せるように、その取っ手の投影を両手で掴んだ。


「こうやって持つのです。コントローラーというのです」


「はあ……そうですか」


 言われるまま投影映像の取っ手を握る。と、光弾魔法の応用だろうか、映像のはずなのに実際に手で触れているような感触が伝わった。


 ぴーちゃんが、そっと一礼する。


「では、さっそく始めるといたしますわね。しばらく処理の関係で、わたくしはお喋りできませんけれど、楽しんでくださいませ」


 言い残すとぴーちゃんの姿が消えて、投影映像が切り替わった。




「ぴーちゃファイター2 Remix」




 と、タイトルが表示されると、ニーナが「えい!」と手にしたコントローラーのボタンを押した。


「これは何をするものなのでしょう?」


「えっとぉ……ゲームっていうんだって! 好きな人を選んで戦うじっせんしみゅれーたーって、ぴーちゃんが言ってたの」


 投影された映像に、四角い枠に囲まれた俺を始めとした“最後の教会”の関係者がずらりと並んだ。


 大神官、勇者、神官見習い、魔王、幼女、女騎士、メイドゴーレム、占い師という八人が選択可能だった。


「なるほど。ルルーナさんが使えるのは意外ですね」


 踊り子のラヴィーナの方が向いていそうなものだが、ピッグミー討伐以来、彼女がこの教会に姿を見せることはなかった。選出基準は、ぴーちゃんが直接会ったことあるかどうかといったところか。


 ちなみに、キャラクター選択のカーソルをルルーナに合わせると、タロットカードと水晶玉の神秘の力で戦うトリッキータイプと、説明書きがある。


「どうやらほどほど、虚構フィクションも混ざっているようです」


 ニーナはさっそく“幼女”を選んだ。ぴーちゃんの三次元映像の造形から線の数を半分にしたような、のっぺりとした姿をしているが、金髪碧眼の小さな女の子のモデルはまさしくニーナだ。


 説明書きを見るに、非力さをスピードと手数で補い、小さな身体のため攻撃が当たりにくいという特徴のようだ。


 つい、俺は溜息を漏らした。


「遊びとはいえ、ニーナさんと戦うのは気が引けてしまいます」


 ニーナは笑顔で俺に告げる。


「だいじょーぶだよ。ニーナつよいからぁ。おにーちゃは心配性だなぁ」


 経験者のアドバンテージなど、大人が相手ではすぐに埋まってしまいそうなものだ。


 勝ちすぎてニーナが泣かないか心配だが、とりあえず俺は“大神官”を選択した。


 その説明書きには、カウンター型のテクニカルキャラクターで極度のロリコンとある。


 後半の説明、内容と関係ないのでは?




 スティックで移動。ボタンはパンチ、キック、ガードの三種類。それらを組み合わせることで技が出る。


 パンチとガードの同時押しで、ガードを無視して、近くにいる相手を掴んで投げることもできるらしい。


 これらの技を駆使して、お互いの体力ゲージを先に削りきった方の勝利となる。


「おにーちゃ? せったいですか?」


 幼女がぽかんとした顔で俺を見上げる。


 現在のところ、十戦十敗。ニーナはこちらに隙があれば、最大威力の連続攻撃を正確なボタン連打と、的確なスティックさばきで叩き込んでくる。


 俺が投げようとすれば、きっちりその初動を出るのが早いパンチで潰して、そこからたたみかけるような連撃コンボでKOしてきた。


 恐るべし幼女。初心者狩りもいいところだ。


「もう一度、お願いします」


「はーい!」


 幼女の反射神経は凄まじく、戦いの流れを読む力も一流の格闘家のようだった。


 再戦するも惨敗だ。手も足も出ないというか、手が着けられない。


「おにーちゃ、練習する?」


 ついには一人プレイでの練習を推奨されてしまった。


「すいません。今日一日、ぴーちゃんをお貸し願えますか」


「いいよー。セイおにーちゃなら、ぴーちゃんも安心だし」


 一旦、対戦は止めにして、そのあとはいつも通りニーナに本を読んであげることにした。




 都合良くアコとカノンもやってこなかったため、ニーナが魔王城に帰ったあとはずっと私室で“ぴーちゃファイター”の練習に明け暮れた。


 一人で遊ぶ場合は、相手側をぴーちゃんが制御している。


 難易度ノーマルで始めたが、途中で行き詰まったのでイージーに下げることにした。


 食事も忘れてイージーを制覇したのが午後八時。


 熱いシャワーを浴びて再びノーマルに挑む。大神官の動かし方や、技のつなげ方をメモして練習を続けた。


 そして深夜三時――


 ハードモードをクリアすると、最後に登場した隠しボスに俺は戦慄を覚えた。


「教皇……だと」


 すべての技性能が高レベルでまとまっている教皇に挑んでは敗れを繰り返すうちに、いつの間にか朝になる。


 敗北数は100を越えたあたりで数えるのをやめていた。


 それでも諦めず、挑み続け、接戦の末こちらの体力が残り1ミリというところで、うつらうつらとした状態から偶然のようなカウンター技で、ついに俺は教皇を倒した。


「はは……ははは! 初めて……勝ちましたね……」


 とても気分が良い。達成感に充足感と心地よい疲労感の中、ぴーちゃんの残酷な一言が私室に響く。


「ベリーハードが解禁されましたわ。ちなみにニーナ様はその上のウルトラハードをノーダメージクリアしましてよ」


 俺の意識は闇の底に沈んでいった。




 翌日――


 昼まで寝るという司祭としての責務を放棄してしまった俺の元に、ニーナがやってきたのだが……さっそく対戦したところ、昨日よりは善戦できるという結果に終わった。


「おにーちゃ、ゲームは苦手なのかもしれないね?」


 幼女に気遣われてしまった。大変心苦しい。


 と、その時である。




『セイクリッドきたよー!』


『もうなにも怖く無いであります!』




 お気楽勇者と神官見習いが死に戻ってきた。


「ニーナさん。私が弱いのではないということを、今から証明して差し上げますね」


 手を組んで指をポキポキ鳴らしながら、俺は二人を蘇生魔法で甦らせた。


 さあ、初心者狩りの始まりだ。




 ちなみに、このあと対戦してみたところアコとカノンを俺は完封するという、大変大人げない戦いをしたのだが、なんとアコがニーナと対戦して勝ってしまったのだ。


 初心者のレバガチャというランダムな動きに、精密機械のようなニーナの読みが外されたこともあるのだが、どうやら勇者は幼女に強いという相性があるらしい。


 そして大神官はといえば――説明書き通り、幼女にとって養分という味付けがなされていた。


 ぴーちゃん曰く「紹介文が書き換えられることはありませんわ」とのことである。


 ぁぁょぅι゛ょっょぃ。

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