【更新100回記念】 いきなり水着回!
王都から遙か遠くの南の島――
そこは天然のリゾート地だった。浜辺に降り立てば目の前には一面の白砂が広がり、青い海が静かに波を寄せる。
この島にも大神樹の芽があるのだが、小さな祠に祀られているだけで教会は無い。浜辺の裏手に広がる熱帯の森を探せば、水源だの果物だのは見つかるかもしれないが、今日用事があるのは貸し切りのビーチである。
濃紺のワンピース水着を身にまとい、浮き輪を手にしたニーナが瞳をまん丸くさせた。
「わあああ! おにーちゃ! 海すごくきれいだね」
本日はプチ海水浴ということで、いつも背負っている赤い鞄(inぴーちゃん)はお休みだ。
紺色ワンピに赤い乱弩背留……二つ揃うと危険な取り合わせに思えてならないので、仕方ない。
ニーナは膝をスリスリモジモジしながら、俺の顔をじーっと見上げる。早くゴーサインが欲しいようだ。
「もちろん泳げますよ」
「い、いいの!? ニーナ海で泳いでいいの!?」
大興奮の幼女に俺は小さく頷いて返す。
「いってきまああああす!」
砂浜に小さな歩幅の軌跡を残して、ニーナはあっという間に波打ち際へと走っていった。
すぐにベリアルが追いかける。
「おまちくださいニーナ様! 海に入る前に、まずは準備運動をなさらないと!」
薄い褐色肌の美女の水着は白Vストリングワンピースだった。
布地に隠されている部分は非常に少なく、軽く動いただけで胸がこぼれてしまいそうだ。
横から見ると、トップとアンダーの差が大きすぎる胸は、大きさに比してツンとしたハリがあり、白い薄布で隠されているのは頭頂部だけである。
胸から腹部にかけて、自然と“空間”が生まれていた。
隙間にニーナの腕くらいなら楽々通ってしまいそうだ。
「あまりじろじろ見るな……は、恥ずかしいだろう」
俺に気づいてベリアルは、上腕で白い布地と胸の隙間を隠すようにした。
酒が入れば惜しげもない脱ぎっぷりを披露するので、今さらという気がしないでもない。
「無理に海水浴に参加されなくても良かったのでは?」
「う、うるさい! この水着しか無かったのだ……仕方なかろう」
下唇を小さく噛んでベリアルは頬を紅潮させたまま、ぷいっとそっぽを向く。
王都の水着専門店でも、ベリアルが着られるサイズはこの”きわどい水着”だけだった。
「護衛でしたら、私がいたしますよ?」
「きさまが一番危険な監視対象なのだ」
フンッと鼻を鳴らしてベリアルはニーナを駆け足で追いかける。胸がゆっさり上下するたびに、見ているこちらがハラハラさせられた。
続けて勇者アコとカノンがやってくる。
アコは青いマイクロビキニだった。こちらも胸のサイズがぴったり合うものを探した結果だそうな。
リボンのような紐がボトムの両サイドについており、これがほどけると大変なことになるのは間違い無い。
トップも覆う布の面積は猫の額という感じだ。
なにぶん、勇者様は太陽のようにカラッとした性格なこともあって、ベリアルのような色気は皆無だった。健康的とはまさに彼女の事だ。
「あっ! 待ってよ二人とも! ほらほら! 恥ずかしがってないでカノンも行こうよ!」
アコの後ろに隠れるようにして、うつむいているのは眼鏡の神官見習いである。
「あ、あううぅ……恥ずかしいであります」
カノンはちらりと上目遣いで俺を見る。彼女の水着はボーダー柄のタックトップタイプだ。ボトムもホットパンツで控えめな彼女らしい。普段、あまり肌をさらすようなことがないカノンだからこそ、水着姿は希少だった。
アコがぐいぐい引っ張ってカノンが引きずられる様を見ていると、大型犬を散歩して引きずり回される飼い主に見えてくる。
俺はアコとカノンに告げた。
「お二人とも水着が大変よく似合っていますよ。アコさんは元気はつらつで眩しいくらいですし、カノンさんはとても愛らしいです。もっと胸を張って自信をもってください」
途端にカノンの眼鏡が真っ白に曇る。
「じ、じじ自分は張れるほど胸はないでありますからあああああ!」
「あっ! 待ってよカノン! もう、本当は泳ぎたくてウズウズしてたんだね!?」
かたくなに前に出るのを拒んでいたかと思えば、カノンは風のように海へと走って行ってしまった。アコがやれやれ顔で追いかける。
海際に四人が揃うと、さっそくわいわいと水の掛け合いが始まった。
俺は振り返って残る少女に訊く。
「パラソルの設営は私がやっておきますから、ステラさんも皆さんに合流してはいかがですか?」
魔王は椰子の木の裏に隠れっぱなしだ。彼女は着替えの時もずっと独りだった。
赤いツインテールを揺らして顔だけ見せる。
「な、なんでみんな水着なのよ!?」
「そういうステラさんも水着姿ではありませんか」
「い、勢いよ! みんなで水着を見に行って、あたしだけ買わないとか変だもの。それに買ったら着なきゃもったいないし」
木陰からじーっと俺を見つめる魔王だが、背中側で尻尾が激しく左右に揺れている。
「そうですね」
「ちょ、そうですねって……返す言葉がないじゃないの! えっと……ほら、セイクリッドも一応は男でしょ? あたしのセクシーな姿に誘惑されちゃうんじゃないかしら?」
ベリアルやアコを越える実力があると、魔王様は仰りたいらしい。
「ああ、怖い怖い。魔王様に魅了されてしまうとは、このセイクリッド一生の不覚」
「こ、怖がらないでよ! っていうか、まだ見せてないし」
浜辺でニーナたちがこちらに手を振っている。
「ほら、ステラさん、みなさんお待ちかねですよ」
「あ、あのね……セイクリッド……絶対褒めてね。あたしって褒められて伸びるタイプの魔王だから」
「はい。もちろんですとも。しかし不思議ですね。先日、猫化の呪いが解けた時に水着どころか何も着ていらっしゃらない姿で、聖堂にお出ましになられたというのに」
「その話はしないでえええ!」
魔王が椰子の木陰から飛び出して抗議した。
ツンと目尻を上げて怒った顔をしながらも、瞳は潤んで恥じらいを帯びている。
ステラの水着はピンクのフリルビキニだった。チューブタイプのブラだがフリル満載でボリューム感を演出し、ボトムにもヒラヒラがついている。
透き通るような肌に愛らしいピンクが少女らしい。
ステラは尻尾を風車のようにグルグル回す。
「ところでステラさん、角は頭飾りで済みますが尻尾はお尻から生えているようにしか見えませんね」
「ちょ! 褒めるって約束でしょ!?」
「あまりの美しさに、言葉すら忘れてしまいました」
「そうでしょー! セイクリッドの視線はあたしに釘付けね……えへへぇセイクリッドに褒められちゃったぁ」
ムッとしていたのが嘘のように少女の目尻がトロンと落ちた。
ご満足いただけたようで何よりだ。
「ところで魔王様、尻尾が丸出しですね。特にカノンさんはステラさんがお尻をその……酷使していると、勘違いされていますから」
顔を耳まで真っ赤にして魔王はビシッと俺を指差した。
「真顔でセクハラとか大神官失格よ!」
魔王に言われる筋合いではない。
「しかし、さすがにアクセサリーでは通せませんね」
ステラはフフンと鼻で笑うと腕組みをして胸を張った。
「そのためのレベル4なのよ。今日はその力をテストするのにぴったりだもの」
魔王は呪文を唱えた。
「擬態魔法!」
見る間にステラの頭の角が赤髪の中にスッと引っ込んだ。お尻の辺りでブンブン揺れていた尻尾も引っ込んで、外見上は普通の女の子に早変わりする。
「おや、まるで人間のようですね魔王様」
「これで温泉旅行も大丈夫よ! もうカノンにお尻の話はさせないんだから!」
「なるほど、もはや魔王に死角はないと……」
うんうんと、少女は満足そうに首を縦に振った。
「それじゃ、みんなと遊んで……じゃない、この魔法の効果を確認してくるから、セイクリッドは荷物番しっかりやりなさいよ!」
サマーバッグからビーチボールを取り出して、ステラも波打ち際に駆けていく。
帰還魔法、甘い息に次ぐ新たな魔法は人間に化けるというものだった。
これでいいのか魔王様。世界は今日も平和である。
書籍版発売日決定&更新100回記念~♪
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