聖夜の奇跡
どうも皆様、相変わらず塾に軟禁状態となっている蔵餅です。
今回はサンタクロースをネタ的に活用して、私としては珍しくグロくない感じに仕上げてみました。
あと、この物語はオチが薄いと言った不親切設計になっておりますので、よければオチを皆様個人個人で作り上げてみてください。
また、今回はほんの数時間で仕上げた文章なので、なかなか粗削りになっています。
時間がなかったんです、本当に申し訳ございませんでした。
それではまた、どこかでお会いしましょう。
サンタクロースを知っているだろうか?
サンタクロースと言っても、今俺が言っているのは黒いサンタクロースのことではなく、バスケットボールが上手そうなサンタクロースのことだ。
分かりやすく言えば赤い方のサンタクロース。
彼を知っている人は、果たして何人いるのだろうか?
大体1億人か、それとも74億人か、たったの100人か。
それはまあ、分からない。
そんなことは調べるにも調べようがないだろう――――日本国民で彼を知らない人間は少ないだろうから、1億人弱はいるだろうと予想してみようか。
ではもう一つ、サンタクロースを信じてはいるだろうか?
12月25日に子供たちにプレゼントを持ってくる、子供たちにも家計にも優しい優しいお爺さんの存在を信じている人は何人いるだろうか?
……………………
きっと、少ないことだろう。
サンタクロースとはあくまで夢の産物であって、まずありえない存在だと認知されているからだ。
鍵のかかった住居にやすやすと侵入し、世界中の子供たちが欲しがっている物を正確に知り、どこから持ってきたのかも知れない既製品を大量に配る。
よくサンタクロースは何人もいると聞くが、それだとしてもこの仕事量は頭がおかしい―――サンタクロースが人ではないことがよくうかがえる。
と、ここまでぼろくそに言ってきた自分であるが、一つ間違いを正しておこう。
子供に夢を与える老人は、確かに存在しているのだということを。
コンコンコン、と窓がかすかに叩かれる。
そういえばもう十時だったか―――そう思って椅子から立ち上がると、窓の錠を上げた。
途端、勢いよくそれは開かれる。
窓を開いたのは人だった。
サイズの間違った赤い服をかぶり、頭には顔の上半分が隠れるほど大きな三角帽を乗せ、背中にはこれまた大きな白い袋を背負った人。
一見すれば不審者の様で、二見すればサンタの息子の様で、三見してやっとそれの見当がついた。
「メリークリスマス。美人な美人なサンタさんが今年もやってきたよ」
空の闇を晴らすかのような笑顔で、彼女は言う。
「……危ないから窓から来るなって毎年言ってるだろ。ほら、寒いからさっさと入れ」
それに対して俺は、彼女に手を差し出した。
「ほらコーヒー。砂糖はいつも通りに入れておいたぞ」
「おぉ~、さっすが分かってるじゃない。うん!おいしい!」
外気に対して部屋は暑かったようで、部屋に戻るころには彼女―――弥生は纏っていたサンタの衣装を乱雑に脱ぎ捨て、俺のベットに座っていた。
相変わらず、適当な性格は10年たっても変わらないようだ。
盆をテーブルの上に置くと、彼女の隣に座る。
「それで受験生。勉強はだいぶ進んでいるのか?」
「う~ん、まちまちってところかな。一応基準はクリアしてるけど、あそこはライバルが多いからね~。今の学校で首位はキープしてるけど、二点差三点差の子も多いし」
「そうか……」
さすがの天才ぶりだった。
「そういうあー兄も、来年は二十歳だよね~。あのあー兄ももう大人か~。感慨深いといえば、感慨深いよね~」
そういえば、そうだった。
来年のクリスマスにはもう、俺は成人しているのか。
そう思うと悲しくなってくる―――寂寥感がふと浮き上がってくる。
「まあでも、来年は私も16歳だからね~。法律上はあー兄とも結婚できるよ?」
「それは本当に『法律上は』に過ぎない。それに、俺はお前と結婚する気はない」
「酷いこと言うな~。私も毎年ここに来る前は覚悟してきてるってのにな~」
文句を言いながら彼女はコーヒーを飲み干す。
淹れたてだったはずなのだが、しかし考えてみれば不思議ではない。
彼女なのだから、不思議ではない。
順序が逆になった気もするが、彼女とはだれかを俺は語らなければならない。
それは使命でも命令でもなく、俺に課せられた義務なのだ。
萩原弥生、中学生3学年。
年齢は少し離れているが、俺と彼女は従兄妹だった。
家も近く、小さい頃はよく遊んでいたが、俺が大学に入ってからは会っていない―――クリスマスを除いて。
十年前にこんな約束をした。
『クリスマスの日に、絶対に会う』、と
その頃は俺は小学生だった――だからこそ、そんな約束を承諾してしまったのだろう。
問題といえば、それが今も守られているということだ。
俺は別に構わない――彼女と居て楽しいは事実だ。
だが、彼女は心配ではないのだろうか。
わざわざ俺の家に来て(補足しておくと、俺は現在一人暮らしをしている)、日が変わると帰っていく。
別に俺は何もする気はないが、その後の方が心配だ。
家の前でもし変態に出待ちされていたら、最悪俺まで巻き込まれてしまう―――それを避けるために、わざわざ窓から出入りしているのかもしれないが。
二時間というのはあっという間なようで、時計を見ると十二時が刻一刻と迫っていた。
弥生もそれに気づいたのか、その一糸まとわぬ体に手慣れた様子で脱ぎ散らかした服を乗せていく。
「しかしどうして、そんなサイズの合わない服を着てきたんだ?」
どことなく気になって、ふと口から音が出る。
「ん~…… ねえ、あー兄はサンタさんって信じる?」
服を着終わったところで、彼女は俺に聞いてきた。
「サンタな…… そりゃ、信じてた方が夢はあるだろうけど、実際いないだろ―――そんなのは」
「そう言うと思って、はい!」
初めて彼女は白い袋に手を伸ばした―――中にはラッピングされた青い箱が入っている。
「これは……?」
「クリスマスプレゼント兼誕生日プレゼント!」
満面の笑みで、彼女はその箱を手渡してきた。
というかそれは兼用してしまっていいのだろうか?
しかしまあ―――なんと面白い奇跡か……
「ほら、あー兄っていつも誕生日プレゼント届かなかったじゃない?だから私がサンタさんの代わりにプレゼントを届けてあげようと思って!」
「弥生…… そうか、ありがとう」
なにか顔に、滴がこぼれた気がした。
「……あー兄、もしかして泣いてる?」
「ああ、たぶんな」
「そっか。じゃあ、また来年も会おうね」
「…………ああ、また来年に」
窓から飛び出して、若きサンタは居なければならない場所へと帰っていった。
「――――――去年は晴れてたが、今年はホワイトクリスマスか……」
去年からちょうど一年後、平成29年の12月25日。
この一年で、果たして俺はどう変わっただろうか―――否、全く変わっていなかった。
変わったことといえば、一つ年を取ったことぐらいだ。
小さなようで、大きな違い。
俺は今年成人した。
大学生活は順調、このままの状態を保てば望んだ進路に進めることだろう。
「しかし今年はこないのか……?」
壁にかかった時計を見る―――――とっくに十時は過ぎている。
去年までならば、この時間には彼女は来ていたはずだ。
何かあったのだろうか――もしくは何もなかったのだろうか。
なんとなく、理由が分かった気がした。
おもむろに携帯をとり、電話帳に記録された番号に発信する。
まるで待っていたいたかのように、彼はノータイムで電話に出た。
名乗りは必要ない――俺は一言、こう言った。
“……今まで、ありがとうございました”
『礼は必要ない。それが俺の仕事だからな』
それ以上の言葉はなかった。
気づけば電話も切れていた―――見れば電話帳から彼の番号が消えていた。
律儀な奴だった―――心配しなくても、この通話が終わったら消すつもりだったというのに。
確認が終わると、俺はすかさず別の人の番号に電話をかけた。
今度はノータイムとはいかず、数コールした後繋がった。
『はい、萩原です』
「お久しぶりです。明日のこと、なんですが―――――」
そう言って俺は、一枚のはがきを手に取った。
そういえば、スーツはどこに置いていただろうか。