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閲覧者の物語

作者: かき揚げ

勢いポエムみたいなもの。

 神様が世界の人々の物語を知りたい、読みたいと願い、自らの眼を自身から切り離し、人形にして役割を与えた。


 初めての試みだったので、最初片目だけだったが、人々の物語が思いの外面白かったので、もっと沢山物語を見たい為に、自身のもう片方の眼も役割を与え、神様は盲目となった。


 神の片目を持つ人形達は、人の世界を飛び回り、日々神様に物語を見せた。それは飽きることなく続いた。

 人の「人生」という物語。神の眼を通して読み続けた人形たちは、やがて自我と呼ばれるものを意識するようになる。


 人の在り方を、観測する度膨れていく。人形たちは決して「主人公」にはなれない。

 物語を読む側は総じて「閲覧者」であり「当事者」にはなれない。

 それを心の底から「分かって」いる彼らはただ「読む」だけである。


 もしその彼らを、変えるものがあるとするなら、それは彼「ら」で。


 遥か昔に、神様は重複しないよう片目たちには反対に進んでいくようお願いした。

 世界は一つしかなく、神様が管理する世界にも「果て」はあり、それは必然的に年月をかけて達成された。


 片目の神の眼をもつ人形たちは、出会う。もうひとりの「閲覧者」に。


 片目の彼は人形の「人生」を読んだ。

 片目の彼も人形の「人生」を読んだ。


 人形は物語の中で「主人公」だった。


 神様は自分で書いた物語を自分で読んだ。なんだかとても恥ずかしかった。

 そして、また人形たちに物語を読ませ続けた。でも何年か経ったらまた互いを「読んだ」。

 物語が増えて、また少し恥ずかしかった。でも少し誇らしかった。


 人形たちはたまにの再会にとても嬉しかった。互いに相手に読み聞かせた。あなたの物語を。

 分かれて人々の物語を読んでいたから、彼らの性格も少し個性が出た。

 読む物語も違うから、あなたとは違うんだね。それはなんだか面白いね。


 被ることのないよう神様に届けていたので、物語は重なることがなかった。

 嬉しい、悔しい、苦しい、楽しい、寂しい、愛しい。


 わたしをそんな変化する顔で、語ってくれる。

 わたしをこんなに語ってくれる。

 あなたにとってはわたしは物語の主人公でいる。


「主人公」は彼らにとって「世界」だった。


 あなたがわたしの世界をもっている。わたしがあなたの世界をもっている。

「世界を確かめるのにあなたが必要だ。」「わたしの世界にあなたが必要だ。」


 神様は泣いた。自ら生み出した人形たちの物語で。

 自分で生み出した、自分の片眼を渡した、わたしの「閲覧者」たち。

 でももう彼らは、自分では想像つかない物語を歩んでいくんだろう。

 彼らが自ら芽生えさせたモノは、彼らだけのもの。


 だから、彼らに渡した眼を彼らだけのものに。



 神様はもう物語を見ることは出来なくなった。

 視界は真っ暗だけれど、自分の眼が自らの物になったと知った人形たちがどんな反応するのか、想像するのは楽しかった。

 もう見えないけど、世界を管理するのに支障はない。でも彼らを見れなくなるのは少し寂しいかもしれない。


 そうしてひとり劇をしていたら、声がする。自分に触れる、声がした。


 元々は自分の眼だったから、手を繋がってたら分かる。体に触れられたら、分かる。

 視界は、自分自身。鏡のよう。久々の両目でみた景色が、自分。


 人形が戻ってくるとは思ってなかった。

 戻ってくる方法すら教えず、ただ物語を読み続けろと教えただけ。

 ああ、何故。彼らに、彼らの世界に、彼らの物語を歩んで欲しかったのに。


 彼らは神様を「読んだ。」

 この人が生きる世界が、こんな数の物語を産んだ、神様の世界。


 神様、これで「主人公」ですね。

 神様、これはあなたの「世界」ですね。

「あなたの物語ですね」


 人形たちが、嬉しそうな声で、神様を見る。

 わたしはなんだが苦しいようで、熱かった。顔が変なのは絶対にわかった。

 ああ、わたしの物語に彼らはいて、人々の物語もあるのだな。

 そして彼らの物語の中に、わたしもいる。


 わたしを語る、彼らが愛しい。

 わたしを語る、彼らがいてほしい。


 人々の物語を参考にするなら、「だいすき」と伝えるのがいいだろうか。

 そうすればわたしを必要としてくれるだろうか。

 神様だから大丈夫、なのだろうか。物語に……いれてもいい?…はいってもいい?


 もう入ってます、神様。だって「読んだ」から。

 ずっと前に入ってます、神様。だって「一緒に読んだ」から。


 あなたの眼で、ずっと。

 だからずっと、歩んでこう、一緒に。


 だってこれは、「あなたの物語」だから。


 

 人々の人生(ものがたり)を読み続け、神様に届ける。

 神の片目の閲覧者たちは今日も、物語を読んでいく。




登場人物

・神様

世界の創造主。片目の人形たちを使って、自分の世界の人の物語を読んでいる。今はもう、片目の所有者を人形に移してるので、ずっと盲目。読めなくなった物語は時々帰ってくる人形達が聞かせてくれる。


・片目の人形(先に創ったほう)

神様に創られた。主に好む物語は冒険譚。スリルある物語をあえて選んで読んでいる。そのせいか割と強気な性格。神様に会いにいこうと言い出したのはこっち。


・片目の人形(後に創ったほう)

神様に創られた。自分を作らなければ盲目じゃなかったので、若干神様に罪悪感がある。好む物語は戦記物。

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