0話:魔王の最期
夜空に浮かぶ淡い輝きがある。
闇色の空を紅く照らすのは、暁の色に染まった煌めきを放つ月。
「今日の月はまた一段と輝いておるの」
1人の老人が落ち着いた声で呟いた。老人といっても身体は鍛え抜かれており未だに鋼のように硬い。
「陛下のおっしゃる通りです。まるで今日というこの日を憂いているかのようです」
隣にいた1人の従者らしき者が老人の呟きに答えた。
聞き覚えのある声に、老人は少なからずホッとする。
「陛下!!!」
新たな声が聞こえ、振り返れば、従者らしき者から少し下がった位置にズラリと配下である魔物たちが並んでいた。その中から3体の魔物が飛び出し陛下と呼ばれた老人に近づき膝をついた。
「我ら四天魔陛下の元に参上いたしました」
そう言いつつ従者らしき者も3体の魔物の隣に膝をついた。
「大儀である。…お前達には特に迷惑をかけたな。本当にすまなかった」
「「「「!!!!」」」」
老人の発言に意を唱えるように1人の魔物が飛び出した。
「我々は迷惑をかけられたなどと思ってはおりません!我々の方こそ陛下にご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。我々は陛下と共に歩むことができ、本当に誇らしく思っております!!」
「…そうか、そうだな。わしもお前達と共に歩むことができ、誇らしく思う。わしは、夢半ばで終わってしまったが、後のことはお前達4人と我が魂の転生者に託すとしよう」
老人の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
しかし、それを全て吹き飛ばすかのように力のこもった目で魔物達を見つめた。
「アザゼル!」
「はっ!」
黒い羽を携えた堕天使の男が返事をした。
「オロバス!」
「はっ!」
馬の形をした魔物が返事をした。
「ザガン!」
「はっ!」
グリフォンの翼を有する牡牛の魔物が返事をした。
「そして、バアル!」
「はっ!」
従者らしき者であった美しい人の姿をした魔物が返事をした。
「後のことは頼んだぞ!お前達なら、上手くできよう。転生者を見つけ、我々の夢を叶えるのだ」
「「「「必ず」」」」
「うむ…わしはそろそろ疲れた。眠るとしよう」
今までの力強い声が嘘かのように優しい声で呟いた。
「「「「陛下!!!!」」」」
魔物達に看取られながら老人は目を閉じ、その生涯を閉じた。