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同族嫌悪

会話が多くなってきます。

「さすがに、話し掛ける流れだと思いますよ」


 無言で立ち去ろうとした俺に、少女は淡々と言ってくるので、

「ほんの一瞬、たまたま目が合っただけの見ず知らずの女の子に話し掛ける流れなんて、想像もできないな」

 俺も同様に淡々と返す。

 対抗したわけではない。俺のいつも通りの口調だ。


「三秒を一瞬と言うには、少し長くありませんか?」

「訂正。見ず知らずの女の子が見つめてきたから、不審に思って見つめ返してしまっただけだ。ただ実際は俺の勘違いだったようだから、関係ないよな」


 少女の長い黒髪とは不釣り合いな、美しい碧眼に思わず見惚れていたのは事実だが、関わり合いたくないので適当にうそぶく。


「いえ、勘違いではありませんよ。わたしはあなたに用がありますから」

「なんだ、初めての友達にでもなってほしいのか? 悪いが断る」

 他人にどう思われようが関係ない俺は、平然と毒舌になれる。


「違う上に、勝手に失礼な自己完結をさせないでください。むしろあなたには、ムカついているんです」

「とてもそうは見えないな。怒っているというなら、怒った顔をしろよ。人形みたいな無表情が可愛いとでも思っているのか?」

「表情が乏しいのは、お互い様だと思いますよ」


 少女はやはり淡々とした口調で言う。

 だが、少女の声には、今度は苛立たしさのようなものが含まれている気がした。注意深く声の違いを意識していないと分からないくらい、些細な変化だったが。


「……なるほど。つまり同族嫌悪。自分と似て、他人にまったく興味なさそうなやつを見つけて、イラついていると」

 ここで俺は初めて頬を緩めた。あくまで苦笑だったが。


「ええ、その通りです。あなたのように腐った目をした人は嫌いです」

「おいおい。同族嫌悪って言葉の意味知らないのか?」

「いえ、理解してますよ」

 どこか自嘲気味な声音だった。


「なるほど。他人だけでなく自分自身も嫌いだと。だったら、その点は俺とは違うな」

 俺は無意識の内に、嫌味っぽく言う。


「自分のことが大好きとか、気持ち悪いですね」

「別に好きだなんて言ってない。ただ嫌いじゃないってだけだ。……というか、大した用もないみたいだし、もう帰っていいか?」


 ここまで散々人の悪いセリフを並べてきた俺だが、適当にあしらっていただけなので、感情的にはなっていなかった。鬱陶しかったので、わざと嫌みったらしく聞こえるように言ったりはしたが。

 しかし先程の言葉はどうだ。俺は素で皮肉を言っていた。

 ……誰かと関わっても、メリットなんてないのにな。

 意図していなかった自分の行動に、俺は戸惑い、捲し立てるように言葉を続け、この場から去ろうとした。


「いいですよ。だたしムカついたので、一発殴らせて……いえ、蹴らせてください」

 幸い、俺は戸惑いを表情には出していなかったらしく、少女の表情や声に変化は感じられなかった。


「わざわざ言い直したのは、嫌いな相手は直接触りたくもない、という気持ちの表れか?」

 内心ホッとした俺は、不思議なくらいすんなりと流れに沿った悪態をつく。これはさすがに意外だった。……というか、流れに沿った悪態ってなんだ?


「ご明察。さすが思考が腐ってるだけはありますね」

「後にも先にも、そんな褒められ方をするやつは、そうはいないだろうな」

「では、光栄に思ってください」

「ああ、そうだな。思わずおまえにこれをあげたくなってしまった。受け取ってくれ」

 俺は手に持っていたコンビニ袋から、先程買ったアイスを取り出す。


「見ず知らずの女子中学生にアイスをあげる男子高校生。通報レベルですね。ですが、そこまで言うなら仕方ないので受け取ってあげましょう」

 今まで通り表情に変化は見られなかったが、心なしか嬉しそうな声だった。

 異常に優れた聴覚を持っている、俺だからその変化に気づけたのだろうが。


「はいはい。受け取ってくれてありがとうございます」

 全く気持ちのこもっていない礼を述べながら、俺は随分小柄な中学生だなと思う。


「……礼を言われたということは、どういてしましてと返すべきであって、お礼をする必要性はありませんね」

「ああ、まったく以って、その通りだな」

 いい性格してるよ、おまえ。


「ええ。ですから、どういたしまして」

 なぜか軽く一礼してくる少女。もしかしたら、先程の妙な理屈は照れ隠しなのかもしれない。そう考えると、どこか滑稽だった。


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