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錯乱?

俺が急いで階段を駆け上がると、遥がぺたんと踊り場に座り込んで両手で顔を覆って泣いている。

遥の前には、ひっくり返った弁当箱とその中身が散乱していた。

「遥!どうした!」

俺は遥に駆け寄り、膝を床について遥の肩に手を置いた。

「ショウ…」

遥は涙でぐしゃぐしゃになった顔を俺に向け、

「ごめんね、ひぐっ、ショウの、ふえっ、お弁当…」

そこまで言うと可愛い顔をくしゃっとさせ、俺にしがみ付いて泣き出した。

俺は焦ったが、あんあんと声を上げて泣く遥が可哀想で、そして可愛くて

ぎゅうっと抱きしめて背中を撫ぜてやった。

五分ほど遥を抱きしめていると、誰かが知らせたのか遥のクラスの

担任である河合由香里先生がやってきた。

彼女は豪快な姉御肌の先生で、生徒の人気No.1の美人英語教師だ。


「さて、そこのバカップル、痴話喧嘩は終わったかね…

 って、よく見れば苦学生ショウとミス我が校の遥じゃないか。

 幼馴染なのは知ってるが、ちと意外な組み合わせだわね」

先生の後ろには野次馬がわんさか付いて来ている。

「どうする、保健室に行くかね?遥の膝から血も出てるし」

はっとして遥の膝を見ると、確かに血が出ている。

床で擦りむきでもしたのだろうか。

「ひっく、大丈夫、です。ひっく…」

「いや、一応保健室行こう。連れてってやるから」

「ひっく、…うん…ぐすっ」

俺は遥を抱き上げ、階段を降りだした。

「きゃあっ!ちょ、ちょっとショウ!」

「結構血が出てるぞ。念の為だ」

遥が真っ赤になっているが、俺は構わず歩き出す。

「きゃあ大胆!」「マジかよ!」

野次馬から嬌声が上がるが、

「お黙り!怪我人運んでんだから問題ない!」

由香里先生の一喝で静かになる。

と、野次馬の中から亜由美がほうきとちり取りを持って姿を現し、

「ここの掃除はしておくから、気にしなくても大丈夫よ」

と言ってくれた。「サンキュ」と亜由美に答え、

俺は先生に礼を言って保健室へ向かった。

「ショウ、後で職員室に来て事情を説明して」

と言われ、取り合えずは頷いた。

だが、なんて説明すれば良いのだろうか…?


保健室で遥をベッドに寝かし、先生に手当てを頼む。

遥が手当てを受けている間にジュースを買ってきて渡す。

「ありがと…」遥は礼を言うと、ジュースをチビチビと飲み始めた。

俺は何も言わずにベッドの脇に座り、ジュースを飲む。

保険の田中先生が昼食に行くから様子を見ててね、と言い残して出て行く。

少しの沈黙の後、遥が話し出した。

「ねえ、なにも聞かないの?」

「ああ、話したくなったら話してくれれば良いさ」

「…ショウはなんでそんなに優しいの?

 昨夜、私とママはショウの事忘れて博隆にご飯食べさせちゃってたのに…」

遥の瞳から見る見る涙が溢れてくる。

俺は遥の頭に手を置き、良い子良い子とする様に撫ぜてやった。

「そんなの、怒るわけないだろ?誰だってうっかりする事は有るし、

 俺が今までお前やおばさんやおじさんにして貰った事からすれば

 取るに足らない様なことじゃないか。

 感謝こそすれ、そんな事で怒るなんてとんでもないよ」

「ふえっ…ごめんねショウ…ふええええ…」

ありゃ、本格的に泣き出しちまった。

「ショウ…大好き…」

え…?

ガバっと抱きついてくる遥。

「おい、遥!…しょうがないなぁ」

俺はちょっと迷ってから、おずおずと遥の背中に両手を回して抱き締めた。

しばらくすると、遥の体から力が抜けてきた。

「おい、遥…?」

そっとベッドに寝かせると、遥はクークーと寝息を立てていた。


昨夜、きっと俺の事が気になって眠れなかったんだろうな…

心の中が暖かくなり、昨夜の寂しい気分が跡形も無く吹き飛ぶ。

俺は無邪気な顔で眠る遥が可愛く、そして愛おしくなり

思わずそっと遥の頬にキスをしてしまい、そんな自分に焦ってカーテンから外に出た。

「おう、チュウは済んだかね?」

「おわっ!!由香里先生!!」

そこにはいつの間にか由香里先生がニヤニヤしながら椅子に座っていた。

「田中先生から留守番頼まれてさ、来てみたらお取り込み中だったから」

「いいいいつから居たんですか由香里センセー」

「うん。ショウ大好き、辺りからかな」

うわあっ!!

「あれはですねえ遥が申し訳ない余りに口走った事であり別に俺にラヴ。してるわけじゃないと思われますそして俺自身も別に遥にラヴ。してるなんて事は無い筈でありつまりどういう事かかいつまんで省略するとですね」

「落ち着け少年。昼飯食ったか?」

「…いえ、まだです。」

「弁当は?」「あっ!有ります」

「昼休みもそろそろ終わりだ。まあ、ここに持ってきて食いなさい。遥は私が見とくから」

「…はい」

俺は弁当を持ちに教室に戻った。ついでに、亜由美の所へ行く。

「あ!ショウくん。遥ちゃんは大丈夫?」

「亜由美、掃除してくれてありがとうな。遥は今保健室で爆睡してる。

 これから俺は由香里先生から事情聴取だ。 その前に、お前に貰った弁当頂くけどな」

「あは、まだ食べてなかったんだ。…それで、遥ちゃん一体何が有ったの?」

「う〜ん、正直俺も良く解らん。何が有ったか解ったらお前にも教えるよ」

「うん、待ってるね」

俺は途中でお茶を買い、保健室へと戻った。

「おう、来たかね。まあ遠慮せずに食いたまえ」

「はい、じゃあ失礼して頂きます」

カパッと弁当箱を開ける俺。


「はうっ!!」


ガバっと弁当箱を閉じる俺。

「…なにやっとるんだ少年。虫でも入っていたか?」

「いいえ、なんでも!やあ、今日は良い天気だなあ。ちょっと窓際で太陽光線に当たりながら食べようかな」

「…この暑いのに何言ってんだか。まあ、勝手にしなさいな」

俺は窓際に椅子を持って行き、弁当箱を由香里先生から見えないように開けた。


…弁当のご飯の上に、ふりかけで大きくハートマークが描いてあり、その下に「愛LOVEショウくん♪」

とひじきとしそで書いてある。亜由美、悪ふざけしすぎだろこれは…教室で開けなくて良かったぜ…

しかし、亜由美料理上手いな。マジ美味しかったぜ弁当。

食い終わった所で由香里先生が声を掛けて来る。

「じゃあ、キミと遥の次の授業の先生には(ナシ)付けて来てるから、事情聴取させてもらうかね」

その瞬間、五限目のチャイムが鳴り始めた。



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