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寂寥?

しばらく走り、海の見える公園に辿り着く。

高台に有るこの公園は絶好のデートコースだが、

まだ時間が早いので犬の散歩やランニングしている人も多い。

綺麗に港が見えるベンチに座り、コンビニで買ってきたサンドイッチを取り出す。

パッケージを開き、もしょもしょと頬張りコーラで流し込む。

ふいに流れ出す涙を拭うのも面倒で、俺は泣きながら無心にサンドイッチを食べていた。


なにやら賑やかな男女のグループが近付いてくる。

酔っ払っている様で、きゃはは、と陽気な笑い声がする。

大学生だろうか?流石に泣き顔を見られるのは何なので、

急いでティッシュを取り出し涙と鼻水を拭く。

サンドイッチをもう一つ取り出し、食べ始めた時

俺の前を通り掛かったグループの一人が突然足を止めた。

「…ねえ、ショウくんじゃない?」

「え?」

聞き覚えの有る声で呼ばれた俺は驚いて顔を上げる。

そこには、今日学校で見たばかりの顔が微笑んでいた。

「南…か?」

少し派手な化粧をしているが、間違いなく遥と同じA組で、

俺や遥とは小学校以来の付き合いである南 亜由美だった。

「きゃはっ!やっぱりぃ!ねえどうしたのこんな所でそんな物食べて?

 今日は遥ちゃんの家で夕飯食べるんじゃなかった?」

「ああ、ちょっと俺に用事が出来てさ…って、お前こそどうしたんだ?

 そんな派手な格好して、しかも酒飲んでないか?」

「えへへ、優等生な私がこんな事してるなんて思わなかったでしょ?

 最近、クラブとかにハマっちゃってね。ちょっとしたストレス解消よ」

何事かと見守っていたグループの男が声を掛けてくる。

「おい、亜由美、知り合いか?」

「えへへ〜、私の彼氏なの!」

「何ぃ!?」「え〜!マジなの亜由美〜!?」

「ちょ、南!」かなり慌てる俺。

「な〜んて、うっそ♪幼馴染よ。ね、ショウくん」

「脅かすなよ…俺、亜由美狙ってんだから」

いかにも遊び人、と言った風情の茶髪男が安心した様に呟く。

「え〜、秀雄はパスするわ私」

「おいおい、亜由美そりゃ無えぜ!」

きゃはは、と大騒ぎになる。

いかん、こう言う雰囲気は馴染めないな…

特に今は。


「南、それじゃ俺行くわ。程ほどにしとけよ」

ベンチから立ち上がり、手を上げて歩き出す俺。

「あん、待ってよ!ショウくんも遊びに行こうよ。ね?」

「いや、俺はいいよ。明日も新聞配達あるし帰って寝るわ」

ヒュー、と口笛が聞え、茶髪男がニヤニヤしながらからかう様に言う。

「へえ〜、今時新聞配達してる高校生が居るなんて驚きだ!

 よ、勤労青年頑張ってるね!そりゃ、早く帰って寝るべきだ!」

カチン、と来たが相手にしても仕方無い。この手のバカは無視が一番。

「何よ!その言い方!」

…おい、南。お前が怒らなくてもイイだろ。

「ショウくんはね、自分で頑張って生活費や進学費用を稼いでるんだから!

 秀雄みたいにバイトもせずにお小遣い貰って遊んでるんじゃないんだからね!」

「なんだそりゃ。親は金くんねーのかよ。スパルタ教育ってやつか?

 あ、それとも貧乏で仕送りもしてもらえねーのか!

 情けない親だな〜!ぎゃはははは!!」

「秀雄っ!!」

俺は南の肩を掴み、横にどけながら茶髪男を睨みつつ言った。

「もう一度言ってみろ…」

「ダメ!ショウくん!」

「な、なんだ、やんのかテメエ!」

「バカ!ショウくんは空手二段なんだから!謝りなさいよ!」

「へっ!そんなの怖かねーよ!ケンカの場数とは違うんだよ!」

「ダメ!止めて!」

南は半泣きになりながら俺に抱き付いてきた。

「お願い、ショウくん…こんなトコでケンカしちゃダメだよ…」

俺の首筋に唇を当てて呟く亜由美。

そういえば、昔こんな事有ったよな…

俺達がまだ男も女も無く子犬の様に転がりまわって遊んでた頃、

俺と遥が本気で殴り合いのケンカになった時に

やっぱりこんな風に亜由美が止めたっけ…

「解ったよ、亜由美」

「ショウくん…」

俺は亜由美の手をそっと解き、振り向いて歩き出した。

「なんだよ!掛かってこねーのかよ!このヘタレ野郎!!」

茶髪が喚いているが、俺は構わず歩き続ける。

「バカ!あんたなんか絶交だから!!」

怒鳴る亜由美の声が小さく聞える。

俺はDTに跨り、走り出した。

部屋に戻ったのは午前一時を廻っていた。

後三時間すれば新聞配達か…寝たら起きれそうに無いな。

だけど、ちょっとでも寝とかないと明日キツイな。

俺は電気を消し、布団に潜り込んだ。

なんだか、何もかもどうでも良くなってきたな…

進学、か。別に大学に行かなければ

こんな苦労してバイトしなくても良いんだよな。

就職すれば、普通に暮らせるしな。

どうすっかな…何もかも面倒臭ぇや…

いつの間にか俺は深い眠りに落ちて行った。

三時間後、なんとか起きて配達を終え部屋に戻る。

時間は午前五時半。

もう一時間くらい寝れるけど、そうすると起きれないかもしれない。

とりあえず、学校行って寝るか。そうすれば寝坊はしないだろ。

俺はカバンを持ち、自転車に乗って朝もやの中を走り出した。



結局眠れずに朝になっちゃった…。

ショウ、新聞配達から帰って来てるよね。

あたしはのそのそと起き上がり、階段降りて台所に行く。

ママがお弁当を作っている。

「ママ、おはよう…」

「あ、おはよう…早いのね、まだ五時半よ」

ふと見ると大きなお弁当箱に唐揚げをいっぱいに詰め込んでいる。

「…それ、ショウのぶん?」

「ええ、今日ショウちゃんに届けてくれる?」

「うん。あと、おにぎり作るね」

ショウの朝御飯代わりのおにぎりはあたしが作っている。

ショウは気付いてないみたいだけど。

カバンとお弁当を持ち、ショウの部屋へ向かう。

コンコン

「ショウ、起きてる?」

………

返事が無い。

「ショウ、寝てるの?」

ふと見ると、もうショウの自転車が無い。

「もう行っちゃったの…?やっぱ、怒ってるの…?」

涙がポロポロと溢れてくる。

なんでこんなに哀しいんだろう。なんでこんなに胸が痛いんだろう。

私はトボトボと家に戻り、自分の自転車を出して駅に向かった。



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