混乱?
自転車を漕ぎまくり、とりあえず自分の部屋に帰る。
荷物を置き、遥の家へ急ぐ。
途中でコンビニに寄って遥の好きなガ○ガ○君ソーダを十個買い込む。
俺の部屋から遥の家までは徒歩三分、あっという間に辿り着く。
ピンポーン!
「はい、どちら様?」
「あ、ショウです。こんにちは」
「あら、ショウくん!今開けるわね」
ガチャ、とドアが開けてカナサリが出てくる。
「ショウ兄ちゃんいらっしゃーい!」「こんにちはお兄ちゃん」
どーんと飛びついてくる香奈を受け止め、沙里の頭を撫ぜる。
「お邪魔します」
玄関を上がると、包丁を持ったおばさんが現れた。
「おかえりなさい。早かったのね。
ご飯は六時頃で良いかしら?」
「うん、ありがとうおばさん。
遥、今日休みだったよね。どうしたの?」
わーアイスだー!と大騒ぎする香奈にコンビニ袋を渡す。
「あら、ありがとうね。そんな気を使わなくてもいいのに…。
遥、ね。なんだか頭が痛いってぶすくれてるの。熱は無いのにね」
なんだか意味有りげな微笑を浮べるおばさん。
「昨夜ショウくんの部屋から帰ってきてからなんか不貞腐れてるみたいなのよ。
あ、ショウくん、ラヴレター貰ったんですって!?」
ぶっ!!
「な、なんで知ってるの!?」
「えへへ〜、喋っちゃった!」
香奈か!
「香奈は口軽いんだから…」
沙里がぼそっと非難する。
「良いのよ〜ショウくん。やっぱ青春しないとね」
ウインクするおばさん。色っぽいな…。
「遥の頭痛もその辺に原因が有るかもよ?」
どういう意味でしょう?
「とりあえず、見舞ってやって。遥は部屋に居るわ」
「うん、じゃあ行って来るね」
「あたしも〜♪」
「香奈はいいの!沙里、香奈抑えて」「はいママ」
武士の情け〜!と騒ぐ香奈を殿中でござる、と言いながら抑える沙里。
時代劇好きのお父さんの影響受けてんな…
階段を上り、「ハルカ在室中 ノックしなさいよね!」
と札の掛かったドアをノックする。
返事が無い。寝てんのか?
「遥、俺だ。寝てるのか?」
ドタドタドスン!ガタンゴトン!!
な、なんだ…なんの騒ぎだ…?
ガチャ
「何よ…」
うわ、ホントにぶすくれてるな。
「おう、大丈夫か?頭痛するんだって?ほら、これ」
「きゃー!ガ○ガ○君〜!!」
ホントに頭痛してんのか?
「…まあ、入りなさいよ」
「ああ、お邪魔」
遥の部屋に入ると、ソーダの様な甘い香りがする。
結構女の子らしい、水色とピンクのファンシーな部屋だ。
「ん」
クッションを渡されたので敷いて座る。
「あ、これサンキューな。助かった」
昨日、俺の部屋に忘れて行った課題のノートを返す。
「ん」
ノートを受け取り、机に放る遥。
「で、具合はどうなんだ?」
「…もう大丈夫」「そうか」
話が続かねえ…
遥はクッションの上にペタンと座り、
クマのヌイグルミを抱き締めながらアイスを食っている。
時々俺をチラっと見るが、目が合うとぷいっと逸らす。
仕方ねえな。
「今日の放課後、例のラヴレターの主と会ってきたぜ」
バッと俺に目を向ける遥。
「一年の西村亜里沙っていう可愛い子だったよ。知ってるか?」
「…知ってる。美術部の和泉の後輩でしょ? ツインテールの可愛いらしい子」
「詳しいな。で、俺はまさかあんな可愛い子が俺にラブ。してるなんて信じられなくてな…」
「ラブ。って言うな。で?」
俺は西村との顛末を面白おかしく遥に話した。
誰かの罠だと思って挙動不審になった事、和泉とその一味が隠れ聞きしてた事…
遥は大笑いして聞いていたが、
「それで、返事はどうするの?」と聞いてきた。
「正直、悩んでる。和泉たちに話した事も嘘じゃないしな、それに…」
「それに?」
「…気になるヤツも居るしな」
「へえ〜、アンタみたいな朴念仁でもラブ。してる子が居るのぉ?」
「ラブ。って言うな。それに、まだラブ。かどうかハッキリしないしな」
「ふ〜ん。ねえ、誰よそれ。あたしの知ってる娘?」
「それは秘密だ」「何よーケチー!!」
口をアヒルの様に尖らせる遥。この顔、俺のお気に入りなんだよな…
「…ねえショウ、もしかして亜由美じゃないの?」
「南か?なんでそう思う?」
「亜由美綺麗だし性格良いし、お嬢様だし、あの子も結構アンタの事気に入ってるみたいだし」
「マジか!?なんでそんな事お前が知ってるんだ?」
「亜由美が私に良く聞いてくるのよ。ショウくん元気?とか、
ショウくんにご飯作って上げたら喜ぶかな?とか」
「ああ、それはアレだ。南とも小学生からの長い付き合いだからな。
きっと家族亡くした俺の事を可哀想だと思ってくれてるんだろ」
ハア、と呆れた様に溜息をつく遥。
「…まあそれも有るでしょうけど、あの子、昔アンタの事好きだったのよ?」
「…初耳だな、おい。いつ頃だ?」
「小学五年から中一位に掛けてかな。
でもあの頃って妙に男子と女子の雰囲気が悪かったじゃない」
「あーあー、なんか男女差別だなんだって騒いでた頃だな。
でもあれ一部の男子と女子だろ?俺は関係無かったけどな」
「男子はそれぞれだったけど、女子は結構みんなで騒いでたのよ。
女ってそういう所イヤらしいじゃない。
私みたいに元気な子はアンタとかと遊んでても平気だったけど、
亜由美みたいなおっとり系はそんな事したら苛められかねなかったからね」
「なるほどな…って事は、俺からアクション起こせば南が落ちるかもしれないって事か」
「!っ!バッカじゃないのアンタ!何そのエロ思考回路っ!!
可愛けりゃ誰でもいいってワケぇ!?」
「いや、言ってみただけだ。そんな積りは全く無いがな」
「…紛らわしい事言わないでよバカ!」
ぷいっと横を向く遥。
ジトっとした横目で俺を睨みつつ、
「で、亜里沙ちゃんの事はどうするの?」
と聞いて来た。
「ん〜どうすっかな。お前はどうしたら良いと思う?」
「そんな事なんであたしに聞くのよ…」
妙な雰囲気の中、ガンを飛ばし合う俺達。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴り、誰かが来たようだ。おじさんが帰ってくるにはちょっと早いな。
コンコン。
遥の部屋のドアがノックされる。
「はい?」遥の返事に応えておばさんの声がした。
「ハルちゃん?芳野くんが見えたけど…」
「え…博隆が…?」
芳野博隆。当校三年C組、剣道部現主将にして遥の彼氏。
頭脳明晰容姿端麗性格抜群家柄良好学業優秀熱血御礼。
まさに少年マンガの主人公が抜け出てきたような色男だ。
女子からの人気はもちろん、男子からも人気が高く不良連中も一目置いている。
受験は国立一本で既に当確出ている、っと。解説終り。
やっぱこの世は不公平だぜ。
「行って来いよ。その間に俺はカナサリの部屋に退避しとく」
「…ん、ごめんね。でも大丈夫、部屋には上げないから」
なんで謝るんだよ。
「ママ、ちょっと着替えてから行くって言っといて」
「解ったわ。リビングに上がってもらっておくから。
ショウくん、芳野くんがウチ来るの初めてだからね」
…なんでそんな事を俺に言うんですかおばさん。
「じゃあ、ちょっと行って来る。マンガでも読んでて」
「ああ」
遥はそう言うと着替えを持ってカナサリの部屋へ向かった。