告白?
そこには、ちょっと驚くほどの美少女が立っていた。
長い黒髪をツインテールにまとめ、小さな顔にはぱっちりお目目とおちょぼ口。
つんと尖った鼻に細い首。ほっそりとしたたおやかな体。細くて白い足。
うん、遥&南のミス我が校・正統後継者の資格バッチリだ。
「あ、あの、先輩、こんなトコに呼び出しちゃってごめんなさい」
可愛らしい声を振るわせて話し出す彼女。
この状況、普通の健康な男子高校生ならば躍り上がって喜ぶだろう。
しかし、各種バイトで世間の荒波に揉まれている俺には何かの間違いにしか思えねぇ。
そうだ!まだ彼女は名乗っていない。つまり、彼女が西村何某とは限らないんだよな。
彼女はきっと西村以下略に頼まれて、俺をおびき出すエサだ。
ふふふ、騙されないぞ。ふひひひ!
「あ、あの、先輩大丈夫ですか?」
「え?」
「なにか、奇妙な笑い方してましたけど・・・」
やべぇ、声に出たのか。
「ご、ごめん、大丈夫。で、キミの名前は?」
「・・・え?あの、私、西村亜里沙、ですけど・・・」
「・・・あれ?」
「え・・・?」
予測ってのはいつでも裏切られる為にあるのか。
「え〜と、昨日俺にラヴレターくれた、西村さん?」
ボン!と赤くなる彼女。
「・・・はぃ、そうです・・・」
と、言う事は、何かの仕込だ。ドッキリカメラだ。古いな俺も。
どこかに誰かが隠れてないか?
キョロキョロと辺りを見廻す俺。
そんな俺を見てオロオロとする西村。
なんだこのあからさまに異様な雰囲気・・・。
・・・とりあえず敵の出方を見てみるか。
「え、と。つまり西村さんは俺を好きになってくれた、と?」
「は、はい・・・。四月に入学して直ぐに先輩に優しくしてもらってから、ずっと気になってました・・・」
・・・そんな事有ったかな・・・?
これだけの美少女なら覚えてると思うんだけどな・・・
あ!
「もしかして、自転車がパンクしてた子か!」
「はい!そうです!帰りにパンクしてて、まだ誰も友達居なかったから途方に暮れてたら
先輩がどうした、って声掛けてくれて、すぐに直してくれました・・・」
おー。あったあったそんな事。
だけど、こんな美少女だったか・・・?
「あの頃、まだ私メガネしてたし、髪もお下げだったし・・・」
そう言えばあの純朴田舎娘の面影があるわ。変われば変わるもんだねぇ。
・・・女って怖ぇな・・・
「それで!先輩の事をだんだん好きになったんだけど、先輩には仲の良い人が居たので・・・」
遥、か。
「だけど、その人には彼氏が居て、校内No1カップルだって聞いて、おかしいな、って・・・」
ふむふむ。
「だから、部の先輩に確認してもらえる様に頼んだんです。先輩とあの人が本当に付き合ってないかどうか」
そうか!和泉は美術部だったな!オーケー、理解した。
俺の思考回路が汚れまくっていただけか。すまん、和泉!
「先輩、何を拝んでいるんですか・・・?」
あ。また出てた。なんか最近どうもセルフコントロールが上手くいかんな。
「ああ、ごめんなんでもない」
「えと、それで、先輩は若宮さんと付き合ってないんですよね・・・?」
若宮 遥。ヤツのフルネームだ。若宮って言われても一瞬誰か解らなかったぜ。
「ああ。遥は幼馴染だけど付き合ったことは一度もないし今も違う。ま、兄妹みたいなもんだな」
西村が目を輝かせる。可愛いな、この娘。
「じゃあ、先輩は今お付き合いしてる人とか居ないんですか?」
ちょっと上目遣いになり、俺を見ながら聞いてくる。
「ああ、居ない。完全無欠のフリーマンだね」
「じゃあ!!あの、その・・・私と!お付き合いしていただけませんか!!」
意を決したように告白する西村。
よっしゃー!きたー!俺にも春が!!・・・でも、な。
「・・・返事、明日で良いかな?」
ガタン!
・・・なんか、どっかからか誰かがずっこけた様な音がしたが・・・?
「は、はい!明日、ここでまた待ってます」
「うん、ごめんな。俺、キミみたいに可愛い娘に告ってもらえるなんて初めてだから、
ちょっと混乱してるんだ。明日、必ず返事するから」
「はい、待ってます・・・」
胸の前で手を組み、潤んだ瞳で俺を見る西村。うあ。今すぐ抱き締めてみてえ。
「じゃあ、また明日な」
「はい、さようなら先輩」
廊下に出て歩き出す。
・・・なんで、その場でオッケー出さなかったんだろ俺・・・?
西村亜里沙。
顔、可愛い。性格、良さそう。髪、綺麗な黒髪だしツインテールは萌える。
胸、不明。でもペッタンコじゃなさそう。プロポーション、不明。でもすらっとしてたな。
総合評価、十段階中、九以上。文句無し!
・・・でもな、今の俺の状況を考えると、楽しい青春なんて無理だろ・・・
ううむと唸りながら下駄箱に来ると、和泉とその他数人の女子が腕を組んで仁王立ちしていた。
「ショウくん、ちょっと顔貸して」
「な、なんだよ、どうした?」
「いいから!こっち来て!」
そのまま体育館裏に引っ張って行かれる。
なんだなんだ、なんで俺がこんな目に?
「どー言う事!?」
和泉が詰め寄る。
「何が?」
「何がじゃないわよ!亜里沙の事よ!」
ああ、やっぱ隠れて聞いてたんだなお前ら。
「そうよ。だってあの子放っとけないんだもん!」
なんで女ってのはこうなんだ・・・
「遥とも付き合ってないし、他に彼女も居ない。なのになんであんな可愛くて良い子から
告られて考えさせてくれ、になるわけ?意味解んない!!」
・・・そう、遥なんで学校休んだんだよ・・・?見舞いに行かなきゃな。
「ねえ、なんで!?答えなさいよ!!」
・・・仕方無ぇな。
「・・・ああ、俺は一年前に家族亡くしただろ?
それで自分の食い扶持と進学費用稼ぐのにバイト三昧なのも知ってるよな?」
「う、うん・・・」
「毎朝の新聞配達、一日置きと日曜のガススタ、土曜夜のコンビニ・・・
西村みたいに可愛い彼女が出来たら、デートしたいじゃない。
可愛い彼女には奢って上げたいじゃない。でも、俺にはそんな時間も金も無い」
「・・・」俯く女共。
「それに、西村だってあの可愛さだ。狙ってるヤツだって多いって聞くぜ」
これはデマカセだがあながち嘘にはなるまい。
「一緒に居る時間もそうそう作れない俺の事なんか、直ぐイヤになるさ。
そして俺は振られる・・・だけどその頃には俺が西村に夢中になってて、
振られた事でもの凄ぇダメージを受けてバイトも学校もイヤになって引きこもる・・・
そんな未来予想図が俺の中に展開されたのさ、さっき」
「・・・」
「だから、今夜一晩考えてみて、それでもなんとか出来そうと思ったらオーケーするさ。そういう訳だ」
「・・・ごめんなさい。私達が軽率だったわ・・・」
「いいさ、気にすんなよ。西村には内緒だぜ。じゃあ、帰って良いか?」
「うん、さよなら・・・」
しゅんとなった女共を後にして、俺は学校を出た。
さっきの言葉に嘘は無い。が、それだけか?
西村に告白されながら考えていた事。
それは、真っ赤になって怒っていた、昨夜の遥の事だった。
なんだか、自分でも意味不明だわまったく。