逆切れ?
とりあえず家に帰ると、アパートの前で遥のお母さんに出会った。
現在三十九歳で三人の子持ちだが、綺麗だしとても若く見え、まだ二十台と言っても誰も疑わないだろう。
「ショウくん、お帰り」
「あ、おばさん、ただいま。どうしたの?」
「ショウくん、今日ご飯食べに来れないんでしょ?
お弁当作って来たから、バイトは食べてから行きなさい」
「・・・いつも、ありがとうございます。
遥から電話でも有ったの?」
「ええ、ショウくんに何か食べさせて、ってね。
でも、ホントにショウくん最近痩せてきてるわよ」
「大丈夫だよ、おばさん。俺ちょっと太ってたからちょうど良いよ」
「無理しちゃダメよ。明日は食べに来れるの?」
「うん、お邪魔するね」
「そう!じゃあショウくんの好きな唐揚げにするわね」
部屋に入り、弁当を開ける。
肉じゃがとシュウマイに、ご飯が山盛りだ。
「いただきます!」
バッと頭を下げ、ガツガツと食べる。
おばさん、遥、ありがとな。
バイトが終ったのは10時過ぎ、流石に疲れたぜ。
やべ、明日の課題やってねえ。だけど今からやる元気は出ないなぁ。
朝早く起きて、新聞配達の前にやろうかな?
やれやれと憂鬱な気分になりながらアパートに戻ると、
俺の部屋に電気が点いてる。ありゃ、消し忘れたっけ?
「おかえり、ショウ」
「ショウ兄ちゃんお帰りなさ〜い!」
「遥!それにカナサリも一緒か!」
不審に思いながらカギを開けて部屋に入ると、三人の女の子に出迎えられた。
香奈と沙里は遥の妹で双子。現在小学五年生。
子供らしくキャピキャピしている香奈と物静かで大人びている沙里は、
美形一家の血をしっかりと引き、二人ともとても可愛らしい。
飛びついてくる香奈を抱き止め、靴を脱ぎ部屋に入ると、
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
沙里もにっこりと愛らしく微笑みながら声を掛けて来た。
「ああ、ただいま。
遥、どうかしたのか?」
「ん、アンタまだ選択歴史の課題やってないでしょ?
疲れてるだろうから今日はサービスで私の見せて上げる」
「うお!そりゃ助かる!神様仏様遥様!!」
「た・だ・し!条件がひとーつ!」
…嫌な予感がする…
「アンタが今日貰ったラヴレター、見せなさいよ」
…予感、的中…
「断る」
「なんでよ!良いじゃない減るもんじゃなしっ!!」
このバカ女め。
「お前な。何故ダメかは考えりゃ解るだろ?」
「ハァ?そんな自分勝手な理屈が解る訳無いじゃないの!」
「じゃあ、お前が芳野先輩から貰ったラヴレター、俺に見せてみろよ」
「ななな何言ってのよバカじゃないのアンタ!見せる訳無いじゃないっ!!」
……もう返す気力も出て来ねぇよ。
「ねぇねぇ、ハル姉の負けだよ?」
沙里が呆れた顔で言い放つ。
「沙里は黙ってなさいっ!!」
「んとね、ハル姉がわがままだとおもうの」
香奈も突っ込む。
「……!!」
顔を真っ赤にして絶句している遥。馬鹿め、妹に諭されやがって。
「ハル姉はショウお兄ちゃんの事が好きなんじゃないの?」
いきなりの沙里の言葉に遥がスッテーンと後ろにひっくり返る。
本当にひっくり返るんだよなコイツ。
このリアクション大魔王め。
「沙里っ!冗談も休み休み言いなさいよっ!」
でかい声出すなよ、もう十一時過ぎてんだから。
「じょうだん。ふう。じょうだん。はあ」
香奈が妙な事を呟きだす。
「…何やってんのよ香奈」
「じょうだんを休み休み言ってるの」
「……!もう帰るっ!!バカショウ死んじゃえっ!!」
俺かよ。
「おやすみなさいお兄ちゃん」
「また遊んでね〜ショウ兄ちゃん!」
飛び出していった遥を追ってツインズも帰った。
なんか、アホみたいに疲れたな。
ん?遥のヤツ、課題のノート置いてきやがった。
多分、ワザとだな、遥のヤツ。ありがとよ。
翌朝はなぜか遥の襲撃が無く、俺は普通に通学出来た。
教室にカバンを置き、遥のクラスである二年A組へ向かう。
俺がドアを開けると、遥と人気を二分するミス我が校の南 亜由美が立っていた。
「あら、ショウ君。久し振りね!」
おっとりお嬢様系の彼女も全校生徒の憧れの的だ。
運動系ヒロイン代表が遥、文科系ヒロイン代表が南と、二年A組のラインナップは全校一だ。
「おはよう、南?ところで遥来てるか?」
「遥ちゃんならまだ来てないわ。まだ部活終ってないんじゃないのかしら?」
その時、南の後ろから甘いマスクの長身野郎が現れた。
出たな、ホスト竹村。コイツは弓道部の現副主将で、次期主将だ。
性格もまあまあ、ルックスは抜群なので当然良くモテる。
「やあ、ショウ。遥ちゃんなら今日は来てないぞ?
なんでも、風邪引いたってお母さんから電話有ったって」
「え?マジか?解った、ありがとう」
「あら、もう行くの?って、そろそろHRか。またねショウくん!」
南の声を聞き流しながら俺は教室に戻った。
どうしたかな、遥のヤツ。帰ったら見舞いに行くかな。
キーンコーンカーンコーン
よっしゃ放課後!さっさと帰るかな。
「ちょっと、ショウくん!もう帰るの?」
振り向くと、腕組した和泉が俺を睨んでいる。
っと!手紙の事忘れてた!
「いや、ちょっと用事が有るからもう少し居るが。お前は何か俺に用かい?」
「あ、そう、なら良いわ。なんでもないから」
「なんだそりゃ?」
「じゃあね〜!!」
なんなんだアイツは?
さて、美術室、ね。
でも、もしかして美術部が活動してんじゃないのか?
トコトコと歩いて美術室に辿り着く俺。
さて、こういう時はノックしたほうが良いのか?
まあ一応やっとくか。
コンコン。
「は、はい!ど、どうぞ」
可愛い声で中から返事が来た。
さて、ドアには黒板消しは挟まってないな。水の入ったバケツも仕掛けてなさそうだ。
「失礼します」
俺は美術室のドアをそっと開けた。