落着?
キーンコーンカーンコーン…
さて、授業も終わりだ。
今日の放課後は大忙しだな…
「ショウくん、昨日はごめんなさい…」
お、和泉か。
「ああ、もういいさ。今日、これから返事しに行くよ」
「今日は隠れ聞きしないから、ごゆっくりね」
…ゆっくり、はしてられないけどな。
「じゃあ、行くわ。フォローよろしく」
「え!それって…」
絶句している和泉を残して俺は教室を出る。
はあ、気が重いな…
仕方ないとは言え、あんな可愛い子を泣かす可能性大かよ。
こりゃ、いっそ告白して振られる側の方が気楽なんじゃないか?
天国の親父、スマン。今日はアンタの教えを守れない、と思う…
さて、美術室だ。ノックして、と。
コンコン
「はい、どうぞ」
亜里沙の声が入室を促す。
ガラっと戸を開けて中に入る。
「やあ、お待たせ」
にっこりと微笑む亜里沙。
「先輩、今日はありがとうございました」
「うん、気にすんなよ。ところで佐藤は大丈夫か?」
「はい、大した事有りませんでした」
「そうか…」
少し、沈黙が流れる。
よし!男は度胸!
「西村、返事をさせてくれ」
「はい…」
俯く亜里沙。くそ、気も口も重ぇよ。
「…ごめん!俺はお前の気持ちに応えられない!」
俺はバッと頭を下げ、心から謝った。
「…だと、思いました」
…え?
俺が頭を上げると、亜里沙はちょっと涙ぐんでいた。
「今日、保健室でショウ先輩と若宮先輩のやり取り見ていて解ったんです。
二人は、凄く好きあっているんだなあ、って…」
亜里沙の頬に涙が流れる。
「今の私じゃ、二人の間に入る事は出来ないんだなあって…」
俺の中で罪悪感が増大する。
「だけど、若宮先輩は芳野先輩とお付き合いしているんですよね?
それが不思議で仕方ないんです。どうして、なんでしょうね…」
俺は絶句してしまい、答えられない。
遥は本当に芳野先輩が好きで付き合いだしたんだろうか?
いやもちろん、嫌いなんて事は無いだろうが…
「だけど!私はまだショウ先輩を諦めたわけじゃありません!
だって、若宮先輩と芳野先輩が別れて、
ショウ先輩と若宮先輩がお付き合いしない限り
私にもチャンスは有る筈だから!」
ポロポロと涙を零しながら微笑む亜里沙。
俺の胸がキュンと鳴った。
「だから、先輩、私を避けたりしないでくれると嬉しいです!ダメ、ですか…?」
ここでダメ、なんて言えるヤツは男じゃない、よな…
「お前を避けるなんてしないさ。
俺は時間も金も無いから、あんまり遊んだりは出来ないけどな。
それで良ければ」
「はい!私ももっと頑張って先輩の心を奪って見せますから!
若宮先輩がモタモタしてたら、私が先越します!」
「ありがとう、亜里沙。俺もお前や遥に愛想付かされないように良い男になるよ」
「あはっ!亜里沙、って呼んでくれましたね!嬉しい…」
にっこりと笑う亜里沙。とても良い表情だ。
「先輩、そう言えばバイク乗ってるんですよね?」
「ああ、原付だけどな」
「私も今度原付免許取ろうかと思ってるんです。
色々アドバイスお願いできますか?」
「ああ、もちろん!聞きたい事が有ったら遠慮なく聞いてくれ」
「はい、ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「じゃ、俺は行くね」「はい、さよなら先輩!」
そして俺は美術室を後にした。
時間は、四時十五分。ちょうど良い位だな。
俺は職員室へと向かう。廊下の角を曲がった時、遥と芳野先輩にバッタリ出会う。
「あ!ショウ!」「お、遥と芳野先輩か」
芳野先輩は俺を見て、バツの悪そうな顔で目を逸らす。
「…行きましょうか」遥の声で、三人揃って職員室へ向かう。
ノックをしてから職員室へ入ると、由香里先生が
「おう、三人揃って来たかね。ちょっと待っててくれたまえ」
と声を掛けてきた。
五分程の後、由香里先生に伴われて指導室に入る。
「さて、それではまず芳野から今日の昼に有った事を聞かせてくれ。
あ、ショウと遥は何か言いたい事有っても黙っててな」
先生に促され、芳野先輩がぽつぽつと話始めた。
内容は、大体事実を包み隠さずに表現していて、
また、なぜ遥の事を無理に引っ張って行ったんだという先生の問いに、
「…ショウに対して、ヤキモチを焼いていたんだと思います」
と正直に答えた。
また、遥に対して女々しい事をしてしまって悪かった、と謝り、
俺にも八つ当たりして済まなかった、と謝ってくれた。
やっぱ、芳野先輩も良い男だよなあ…
遥も何度も謝る芳野先輩に
「もう良いよ、博隆」と優しい視線を向けている。
…なんだか、胸の奥がチクッと痛むが、それじゃ俺がヤキモチ焼いてることになるな…
「ん、まあ丸く収まったな。じゃあ今日はこれで解散にしようか!」
由香里先生の言葉でお開きとなり、俺達は指導室から出た。
「じゃあ、私達は部活に戻るから」
「ああ、それじゃ。芳野先輩、お先です」
「ああ、バイト頑張れよ」
「じゃあショウ、明日ね」
「うん、お先!」
俺は二人と別れ、自転車置き場に向かった。
自転車のカギを外していると、「ショウくん!」と声が掛かる。
「ん?あ、亜由美か」
振り向くとそこには亜由美が微笑みながら立っていた。