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さくら色  作者: いせざき とうこ
-高校編-
11/26

11.不意打ち

 桜咲く四月。

 私と竹居と野口くんは、三人そろって同じ高校に進んだ。

 そして見事にクラスは別れた。

 もう三人一緒じゃなくても大丈夫だと、そういう意味なんだろうと思った。

「もうキレないでよね。私、止められないからね」

 校庭に掲示されたクラス名簿を前に、隣の竹居に声をかける。

「ああ」

 竹居はいつも通り無愛想だ。

 こいつも、ちょっとは寂しいと思ってくれてるんだろうか。

 新入生はクラスを確認して教室へ入るように。校舎からアナウンスがかかる。

「じゃ、またね」

 手を振って教室へ歩き出そうとすると、腕をつかまれた。

 すんごい機嫌悪そうな仏頂面で、見下ろされる。

「お前、すぐ泣くから。泣くときは、相談しろ。ティッシュぐらい提供してやる」

 ああ、なんだ。竹居も寂しいと思ってくれてるのか。

 なんだかそれだけで泣きそうになった。

「なによ、優しいじゃん」

 笑って、竹居の肩を(こぶし)でたたく。昔、土足で蹴った肩。

「じゃ、ね」

「ああ」

 そうして、それぞれの教室へと向かった。



 一つ上の学年には、ヒロキ先輩とカオル先輩がいる。

 高校でもカオル先輩は生徒会をやっていて、ヒロキ先輩は図書委員長だった。私はやっぱりヒロキ先輩が好きで、密かに図書委員になりたいと思っていたけど、カオル先輩のスカウトを断り切れず、結局、生徒会に入った。竹居は中学と同じく帰宅部だ。

 竹居と私は、相変わらず仲が良かった。

 廊下で会えば無駄話するし、落ち込んだときは竹居の家で話を聞いてもらう日々を送っていた。

 お前ら付き合ってんの、っていう、中学の時から続く問いをひたすら否定しながら、でもお互いに彼氏・彼女ができるわけでもなく、それぞれの高校生活に馴染んでいった。

 五月の初め、二ヶ月後の文化祭に備え、生徒会として、同じ学年の学級委員たちに集合をかけた。

 放課後、一足先に会議室に来て、準備しておいたプリントの束を各クラスの人数分に分けていると、声をかけられた。

「沢野。手伝う」

 違うクラスで学級委員をしている、野口くんだった。

「わ、ありがと。じゃ、後ろのクラスのぶんからお願い」

 プリントの束を半分、野口くんに渡す。野口くんとは、小学校から五年間も同じクラスだったから、なんだか。

「久しぶりだねぇ」

 正直な感想を口にする。

「だな。あんまり会わないよな」

 野口くんのクラスは階が違う。竹居は同じ階のクラスだからよく会うんだけど。

 隣でプリントを数えてくれている横顔を見て、あれ、と気づく。

「野口くん、背、伸びた?」

「どうだろ。沢野が縮んだんじゃない?」

「えー、そっち?」

 軽く返すと、野口くんはふんわり笑った。

「嘘。伸びた。成長痛ってやつ? けっこう痛いよ」

「へぇ。でも、いいなぁ。私、身長止まっちゃったかも。野口くん、身体検査楽しみだね」

「うん、楽しみ」

 野口くんがプリントの束の端を机でトンと揃える。

「沢野って、会議終わったら時間ある?」

「ん、あるよ」

 生徒会も、まだ準備段階だ。そんなに忙しくない。

「じゃぁさ、ちょっと相談させて」

「え、クラスで誰かキレた? いじめ?」

「いや、そういうんじゃないんだけど、ね」

 野口くんが苦笑いする。

 会議室に、ちらほらと各クラスの学級委員が集まり始めた。

 プリントの配布と簡単な説明だけだったので、会議はすぐに終わった。

 そのあと聞いた、野口くんの「相談事」は、私には、かなりの不意打ちだった。

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