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さくら色  作者: いせざき とうこ
◆本編-中学編-
10/26

10.これは話し合いだ

 翌日の昼休み、竹居と野口くんと一緒に、田川について簡単に打ち合わせをした。目的は、田川を竹居のグループに戻すこと。あとは、できれば私に謝らせること。

 果たして、うまくいくか。

 放課後、三人で教室に残り、教室の後ろの机をふたつ、向かい合わせにくっつけた。

 竹居が真ん中に座って、竹居の左に、私。野口くんにはオブザーバーとして、竹居の斜め前、ちょっと離れたところに椅子だけ持ってきて、座ってもらった。

 田川が私たちの姿を見て引き返さないように、窓もドアも全部閉めておいた。窓はスモークガラスだ。廊下から教室の中は見えない。

 教室のドアが開いた。

 私たちを見て、ジャージ姿の田川がぎょっとする。

「田川、ここに座れ」

 竹居がトンと自分の右の席を指さした。一番ドアに近い席。

「俺、部活途中なんだけど」

 田川がそう言って逃げようとする。

 座ったまま、言葉だけで、竹居がその逃げ道をふさぐ。

「お前、部長から教室に戻るように言われたろ。手ぇ回したの、俺だ。お前は今日、部活は病欠だ。遠慮なく座れ」

 田川は唖然として、それから威嚇するように声を上げた。

「三対一かよ。卑怯だろ!」

「一対一だ。俺対お前だ。野口はオブザーバーだ。俺、お前がやらかした状況、知らねぇからな。沢野は被害者だ。今回は何も言わねぇ」

 田川はドアのところから動かない。

 竹居がため息をついてさらに言った。

「言っとくが、話し合いだ。暴力はなしだ。俺はお前を殴らないし蹴らない。約束する。もし俺がキレそうになったら沢野と野口が止める。だから安心して座れ。お前もイヤだろ、今のクラスの状態。改善のための話し合いだ。座れ」

 竹居を睨んだまま、田川がぎこちなく足を動かして、こっちに来た。

 椅子を引き気味にして、私の向かいに座る。

「なんの話し合いだよ」

 ふてくされた様子で言った。

 竹居が机に両腕を置く。

「お前、ひとりでメシ食ってるだろ。イヤだろ、そーいうの。こっちもな、クラスの雰囲気が悪くて困ってんだよ。学級委員だからな。だから意地張るのはやめようぜって話」

 田川は何も言わない。

「女子には、沢野が昨日、言った。お前に雑誌投げられたことも、殴られかけたことも、もう怒ってねぇから、田川には普通に接しろってな。女子全員に言ってまわった。そうだろ、沢野」

 竹居が私に向けて顎をしゃくる。私は頷く。

「で、おまえとやりあった後、沢野は謝ったんだろ。言い過ぎたって。野口、そうだな?」

 私の横の離れた位置で、野口くんが頷いた。

「あんなの、謝ったうちに入んねーだろ」

 田川が私を睨む。

 そうくるか。このやろう。お前なんか一言も謝らなかったくせに。

 睨み返すのをぐっとこらえた。

 落ち着け。田川はガキだ。

 竹居が淡々と言った。

「じゃぁ沢野は今、きっちり謝れ。俺と野口が証人だ」

 くそ、竹居。後で文句言ってやる。

 むかつきながら、でも言い過ぎたことは確かなので、うつむいて、せいぜいしおらしく言ってやる。

「田川。悪かったよ。みんなの前で言い過ぎた。ごめん」

 そしたら、ぽとんと涙が落ちた。

 自分でもびっくりして、あわてて涙を(ぬぐ)う。

 それでも涙がどんどん出てきて、机にぼたぼた落ちた。

 なんでだ。

女子に田川のフォローして回って、悔しいからか?

 竹居がひどいからか?

 謝らせられてるからか?

 ……ああ、違う。

 私がほんとに、言い過ぎたからだ。

 田川が引っ込みつかなくなって、ひとりでお弁当食べる羽目になっちゃったからだ。

 こんな状況を、私が作っちゃったからだ。

 学級委員なのに。

「い、言い過ぎて。引っ込みつかなくしちゃって、ごめん」

 ぼろぼろ泣きながら、もう一度謝った。本気で頭を下げた。肩が震えた。

「沢野。泣くな。野口、ティッシュ」

 竹居が冷静に言う。野口くんからティッシュを受け取って、私の目の前に置いた。

 箱ティッシュじゃなくて、ポケットティッシュ。

 紙をとりだして、私は涙をふく。

 竹居がため息をついた。

「あのな、田川。お前は沢野が強いと思ってるかもしれないけどな。こいつは、裏じゃ、こんなだ。お前に殴られかけたのも怖かったんだよ。お前とやりあった後も、裏では泣いてたんだ。それはわかってやれ」

 くそ、竹居め。人ががんばって張った見栄を、あっさり壊しやがって。

 恨みがましく竹居を見やると、田川が呆然としてこっちを見ていた。

 ああ、あれか。野口くんと同じクチか。「沢野って泣くんだ」ってやつ。

 どんだけスーパーマンだ、私は。

 くそう、涙、止まれ。

「沢野。もう泣くな。お前は本気で謝った。だろ、田川」

 呆然としたまま、田川が頷いた。

「俺……」

 田川が言いかけて、やめる。

 竹居が黙った。田川の言葉を邪魔しないように。

「俺、も……。ごめん……」

 小さな声で、田川が謝った。

「カッと、なっちゃって……。野口が止めてくれて、良かった……ごめんな、沢野……」

 田川がうつむいた。

 田川も、泣いてるのかもしれなかった。

「よし。喧嘩両成敗だ。いいな、沢野」

 私はティッシュで目を押さえながら、何度も頷く。

「そんで、お前らがやりあった原因、俺だしな。そもそも俺がキレかけたのが悪かった。田川も、沢野も、ごめんな」

 竹居が膝に手をついて、ヤクザの舎弟ように頭を下げる。

 田川が竹居を見て、「いいよ」と小さく呟いた。

 竹居が頭を上げて、田川に言った。

「田川な。お前には俺が男子のボスに見えてるのかもしんねぇけどな。俺は別にそんなつもりねぇし。体のでかい学級委員ってだけだ。だからそんなに構えんな。文句があるなら直接俺に言え。別に殴ったりしねぇから。あー、俺のこういう命令口調が悪いのか? 癖だから直んねぇんだよな。そこは多めに見ろ」

 こくりと田川が頷く。

 竹居がオブザーバーの野口くんを見た。

「あと、なんだっけ?」

「佐藤」

 野口くんが短く答える。

「あー、そうそう。佐藤。田川、できれば佐藤に謝ってやれ。あいつお前心配してたから、安心させてやれ。そんで、メシは一緒に食え。あとは、なんだ? 明日も昼休み、バスケするし。気が向いたら来い。野口、こんぐらいか?」

 野口くんが指先でオッケーサインをだす。

「沢野、なんかあるか」

 私は首を振る。

「田川、なんかあるか? ……なんだ。言いたいことがあるなら言え」

 竹居と私を交互に見て、いや、と田川が口ごもる。

「だから、言えって。言わないのがよくねぇだろ。別に怒んねぇから。言え、ほら」

「……竹居と沢野って付き合ってんの?」

 田川の質問に、竹居がすんごい不機嫌そうな顔になる。

 なんだよ竹居。私を前にそういう顔するか。

「付き合ってねぇよ。ただの学級委員コンビだ。……なんだ。まだあんのか。言え」

「……竹居がグラビア苦手って、マジ? ホモ? 潔癖性?」

 私と竹居と野口くんは三人して顔を見合わせた。

 竹居が渋い顔で答える。

「お前もえらくぶっこむな。ちょっと待て。えーと、んーと、あー、グラビアは苦手だ。見飽きて、トラウマがあるからな。見せんな。下手すると俺、キレるから。止めるのに沢野が苦労すっから。けど映像は大丈夫だ。だからホモじゃねぇ。……こんなとこか? なんかあれば、あとはお前、休み時間にでも聞け」

 田川が「わかった」と頷いて、話し合いは穏便に終わった。

 竹居と野口くんと一緒に帰った。

 夕陽がオレンジ色で、すごくすごく、きれいだった。



 田川は竹居たちと一緒にお昼を食べるようになり、クラスの雰囲気ももとに戻って、体育祭のクラス対抗リレーはすごく盛り上がった。一位にはなれなかったけど、みんな楽しそうで、良かった。嬉しかった。

 私はおじいちゃん先生に、野口くんにも竹居の事情を打ち明けたことを伝えた。

 竹居の変態説は一時期広まったものの、野口くんの絶妙なフォローのおかげもあり、田川もなんだか加勢してくれたようで、竹居がその後キレそうになることはなかった。

 おじいちゃん先生の采配か、私と竹居と野口くんの三人は中学三年までずっと同じクラスで、私と竹居は二人して学級委員のコンビを組み続けた。

『中学編』はこれにて完結です。次のお話から、『高校編』になります♪

次話より恋愛が動きだします、どうぞお楽しみに♪

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