パン屋は今日も人気です!
香るパン。それは実にシンプルな記号でありこの世界に顕現しうる崇高なアイテムの一つである。
そのパンを二つに割るという一見愚考とも取れる行為を、その間に厳選された具財を挟むことでその結果的存在を更なる高みの宝玉へと昇華せしめたのは一体誰なのか。
それは神と、そして世界のみが知っているだろう。
~歴史学専攻ケイネヒア大学助教授カスカフ・ヒースライエ著『神々の食卓』より抜粋~
視線が熱を持つ、という言葉は実感しにくいが、今この瞬間の皆の視線は確かに痛いほど実体化していると思う。
皆が見つめる先にあるのは、今しがた作られたであろうアンサレス美食倶楽部推薦の一品。王都アンサレント・ファヴニールで発行されている三大外食雑誌『食べ歩きアンサレント』『アンサレスの軽食』『食の秘宝館inアンサレント』で軽食部門6年連続ナンバーワンを取り続ける至高の一品でもある。
この細長い物体が最近ではぽつぽつと他の店でも見られるようになったのも、その原因が今皆の視線を一身に受けている物の存在だということは此処に居るすべての者達が理解していることだろう。
だがやはり"それ〟を出す店のどれもが、この店の物に迫る、否、連想することが出来る程度の物すら作れては居ない。やはり至高か。故に孤高。分散し得ないことは競争率の上昇を意味する。
飢えた獣の気配が辺りに充満する。今日は死ぬにはいい日だ・・・
―――オポーツ出版社『食べ歩きアンサレント』企画事業部編集長ナイエ・ナイラは唾を飲み込み、身を固めた。そう、此処はもう戦場なのだ。油断は許されない。任務は唯一つ。
「焼きそばパンできましたよ~」
「「「「応!!!!!」」」」