パン屋は今日も平常運転です!
こんな感じで進みたいと思います。
「あなたー」
焼きそばの麺を作る際に気を付けることは一つ。精霊にきっちりイメージを伝えることだ。こいつらは中途半端に伝えると意訳がとんでもないことになってしまうからな。
扱いは難しいが、少ない人数で切り盛りするこの店の各商品の具材も自家製にすると製作が一人では間に合わなくなってしまう。精霊と言ういいお手伝いがいてくれれば相当楽が出来る。まぁ勿論相応の対価は支払うが。今も焼きそばの麺を作ってくれた精霊達には俺の魔力を与える。喜んで俺の周りを飛び回る精霊達が綺麗でほほえましい。少々ウザイが。
「だんなさまー」
出来た焼きそばの麺は4キロと言う膨大な量だが、これもすぐなくなる。保存の魔法をかけて、俺の『領域』に収納する。これで長期保存が可能だ。まぁ取り出しさえしなければ劣化しないので保存といっていいのかは判らんが。
「・・・ばかぁ」
「ん?」
調理場の入り口の柱の影から顔を出す少女。少女に見えるがその実千年以上生きている我が相方。
その相方が目を潤ませてこちらを見ていた。あー、またか。
「ん、すまん」
近くにより、頭を撫でようとしたが手が小麦粉で汚れていることに気付き動きが止まる。
そんな俺のエプロンに、とさっ、と何かが当たる音。うつむくと、我が相方が抱きついている。
「汚れるぞ」
「いいのー」
腰に下げたタオルで手を念入りに拭き、相方の頭にポスッと落とす。軽く撫でると「にひひ」と言う音がした。相変わらず面白い生き物だ。
「全部売れたか?」
「黒パンいがいは全部うれたー」
「よくやった」
「ラーさんのパンが美味しいからだよ?」
俺の腹にうずめた顔を上げ、小首をかしげる彼女。仕草がまるで小動物のようだ。
「それをお前が売ってくれているから、な」
「にひひ」
顔に掛かる髪を軽く梳く。くすぐったそうに反応する彼女が愛らしい。
「―――あ、もう何も無い!」
入り口の奥、店内から客の声がする。うむ、何も無いのか。
我が相方は俺に視線を送り、もう一度笑うと客の声がするほうに向かった。俺はまかないでも作るか。
「いらっしゃいませ~」
此処まで響く彼女の声が、今日も俺の頬を緩ませる。