ぷろろーぐ
この作品は基本不定期更新で行こうと思います。プロットが二つか三つ合体した奴で、しかものんびりと特に展開もさせずに話しを重ねるつもりです。舞ったりと眺めてやってください。
香ばしく辺りにパンの匂いが漂い始めると、道を急ぐ見習いの商人や鍛冶屋の使い奔りの若人が足を緩めて喉を鳴らす。
今は日の昇り始めたばかりの朝もやの真っ只中。この町の朝は見習い達の足音から始まる。
そんな朝の小雑踏にまぎれるは、この町でそう珍しくも無いパン屋の支度の音。そんなありふれたパン屋のまだ開いてもいない軒先では、少なくない行列が出来ている。
このパン屋の開店は一日二度。朝の早い時間帯と、昼飯時。どちらも遅いと目当てのパンにはありつけない。まるでケシュラ(四足の大型草食獣)に群がるサヴァイオ(100kgクラスの中型肉食獣)の如き勢いで店先に並ぶからだが、しかし店内で諍いが起こる事はまず無い。
なぜなら。
「開店ですよ~、おまたせいたしました~」
店の扉を開き固定するのは青の混じる銀糸の髪を側面で編みこみながら後ろにくくる耳長の少女。その種族的特長から少女といっていいのかは疑問だが、仕草はこの町で見られる10代の少女のそれとなんら変わらないほどに愛らしいので知る人は皆保護対象として扱っている。その容姿は可愛らしさと美しさと言う共存させるには難しい要素を難なく兼ね備えてしまった至宝のバランス、そして愛らしくも優しさの溢れた笑顔で武装させられたそれはもう神器ともいえるだろう。
のんびりとした口調と、鈴のなるような美しい旋律を奏でる声は朝の雑踏に飛び込む男達のささくれ立った精神を落ち着かせる役割を果たす。
「いらっしゃいませ~♪」
店内に入れば居並ぶは今しがた焼けたであろうパン。いくつかは他のパン屋でも見られる面長で固いパンや黒く固いパン、木の実が練りこまれた灰色のパンなどであるが、持ちの長いそれらのパンは積極的に選ばれることは無い。見習いや騎士の従者が求めるパンはこの町のほかのパン屋では見られない、いや、"この世界〟で見ることはまずないであろう種類のパンらだ。
「リリちゃんお願い」
「はい、コロッケパンにカスタードパンふたつですね~。3ペセル半レト(50レト)になりますね~」
「リリちゃん今日も可愛いね~」
「むふふ~、ありがとうございますねザットさん。タマゴサンドとメンチカツサンドで4ペセルです~」
「うっわ、もう焼きそばパンが無い・・・」
「リグルさんお昼にまた焼きますよ~」
「絶対に食べます!」
この世界の人々が目にすることの無い異なる世界の飽食の国が生み出した味は、この町の一部の人たちの胃袋を確実に掴んでいた。
アンサレス王国首都、アンサレント・ファヴニール。
この町のあるパン屋では、異界のパンが食べられると言う。
では今後とも宜しくお願いできれば幸いです。