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「ぐわぁ…」
何処に着いたのだろうか。僕の住んでいる町からは離れてはいないようだ。
ゾンビは追ってこない。
「…ぐ…」
立てない。立ち上がることが出来ない。
ガチャと、何処かの家のドアが開いた。
今の僕はどうなのだろう。怪物に見えるかな。
「……あなた…」
その、僕のことを決して名前で呼ばない、人を僕は一人知っていた。
「あ、宛…」
「ちょっ!どうしたのよそれ!!死にかけじゃない!!」
「死にかけ、そうだなぁ。頼む、助けてくれ」
「言われなくてもそうするわよ!!私の家の前でくたばってたら目立っちゃうし!」
「…悪い」
僕は宛の家にお邪魔になることになった。
「えっと、やっぱり救急車なのかしら?」
「大丈夫だ。一日もすれば完全に回復するよ…」
まぁ、それまでずっと『僕』でいなきゃならないんだけど。
「頼む、ダメ元でで聞いてみるが、今晩止めてもらえないか?」
「ベランダに干させるのならいいわよ」
僕は洗濯物か何かか!?
と思ったりもしたが、仕方がない。今僕は動けないんだ。
「それでいい、頼む…」
「仕方ないわねぇ、今親がいないから部屋が空いているのよ。そこで寝て頂戴。あなたのような変態でもこれは異常事態だわ。助けてあげる。あっはっは」
「…サンキュ…」
「ところで、あなたは私の予想だとゾンビにでも襲われたようねぇ」
何で知ってる!?
「『何で知ってる!?』みたいな顔してるわね。こんな手紙が届いたの」
宛は僕に一つの手紙を渡した。
と言っても僕は腕が動かない。
どうして家の中に入れたかと言うと、彼女は『善の後遺症』を持っているわけで、人一人動かすことくらいはたやすい。
「…動けないわよねじゃあ私が読むわ」
そう言って手紙を開く。
―私は一体誰でしょう。
私は貴方達の先輩のような存在です。
目野前現。
宛陽菜。
貴方達は世界の中心に願いました。
しかしそれは単なる手段でしかないのです。
今、一人の独裁者が現れようとしています。
それにより、世界は崩壊しかけています。
お願いします。
私達と一緒に『言伝腐』を滅ぼし、東土龍を殺してください。
詳細を説明しましょう。
まず前提に、伝説と言われている生物はしっかりと存在していて、ただ、人間が拝見する機会が少なかっただけなのです。
しかしそれにより、その生物たちは退化し始めました。
私達はそれを『言伝腐』と呼んでいます。
その退化を早めたのが、今、独裁者になろうとしている。悪意で出来たモノ、東土龍です。
恐らくもう少しの時間で、人類に襲い掛かってくるでしょう。
独裁するために。
悪のために。
その化物、『言伝腐』の一覧です。
・ゾンビもどき。
・吸血鬼もどき。
・ミイラもどき。
・キョンシーもどき。
・狼男もどき。
・ゴブリンもどき。
・シーサーペントもどき。
・ヒッポグリフもどき。
・グレンデルもどき。
・レヴィアタンもどき。
・窮奇もどき。
・渾沌もどき。
今分かっている言伝腐はその十二体です。
皆そのように退化したかは不明で、相当危険と思われます。
私達は世界の中心によって作られた守護者、と言ってもいいでしょう。
私達は動くことのできない世界の中心に変わって世界の中心を『異状』から守らなければならないのです。
もう一度言います。
お願いします。
一緒に東土龍を殺してください。―
「…と、書いてあるわ」
「…言伝腐…」
はっきり言うと、何を言っているのかまるで分からない。
理解不能だった。
しかし、一つ分かったことがあった。
それは、
「僕達以外にも、いたのか…僕達のような人間が…」
厳密に言うと、僕は人間から『僕』になれる、人間じゃないのだが。
「私が気になったのは東土龍という男と言伝腐ね」
「それ、僕が聞いたらさっぱりだったな」
「ゾンビはね」
「へ?」
いきなり突拍子の無いことを言われ、動揺してしまった。
「元々は化物なんかじゃなくて奴隷だったのよ。ゾンビパウダーという物を使われて、脳が機能しなくなった人間のことを指していたのよ」
「ゾンビ、パウダー…」
「要するにこの時点で、今とはもう別の生物だったわけね。あなたが人間から『僕』へと離脱出来るように」
「そういうことになるよな」
「そして退化版ゾンビは現代でも生きていて、『ゾンビが出た!』なんて言う人は実はただ当たり前のことをただ言っていただけだったのよ」
「つまり、そうやって『ゾンビが出た!』と言っている人があまりに少ないように、ゾンビも人間と出会う機会が少なくて、敵がいなくて、退化したってことかな」
「そういうことだと思うわよ」
じゃあ僕がフルボッコにされたのは『ゾンビ』ではなく『ゾンビもどき』であり、『言伝腐』ということになるのか。
しかし、あれはどう見ても退化、というより逆に進化しているように見えた。
「実は僕はその『ゾンビもどき』にやられたんだ」
「やっぱりね」
「強かったよ。僕じゃ全然歯が立たないくらい…ありゃあ進化してるんじゃないのか…?」
「私は実際見ていないけど、多分退化していると思うわよ」
「ほぅ、その根拠は?」
「昔のゾンビが奴隷。しかし今のゾンビの第一印象は?」
「…不死身」
「元人間なんだから死なない訳がないじゃない。完全に“設定”が雑になっているわよ」
退化とは、そういうことか…。
ではあのゾンビもどきは不死身=強いと、そういう風になったのだろうか?
はたまたあのゾンビは不死身=脳天を撃てれても死なないと、そういう風になったのだろうか?
少なくともあの怪物が完全な不死身ということに変わりはない。
「というか、もう何か聞いたことの無い様な化物の名前が並べられてもなぁ」
ゴブリンとか、その辺りならまだ聞いたことはあるが、詳しくはなぁ。
「私は全部知っていたけれど、ほとんどが、悪霊、有害よ」
「悪意で出来たモノには使いやすい訳だ」
僕は変に感心した。
この謎の手紙に書かれていた、悪意でできたモノ、東土龍。
僕にはそいつがどういうモノなのかは知らないが、あのゾンビもどきを作り出したモノだというのならば、まず普通じゃないだろう。
異端。
異彩。
異型。
そして世界の中心に異変をつけさせる程のモノ。
悪魔。
「というより、そもそもこの送り主は誰よ?」
「僕に聞くなよ」
「先輩…ね。まぁいいわ、とりあえずあなたは寝てなさい」
「うん、そうだな」
と、いうことで僕は、宛から借りた部屋で寝た。
疲れたせいか、爆睡で夢などは見なかった。
そうそう、実は宛とこんな話をした。
「何でお前、そんなに化物とか、幽霊とかに詳しいんだ?」
「知らなかったの?ちょっと私の腕、触ってみて」
「え?」
僕は、細く柔らかい宛の腕を触ってみた。
「何かいやらしい触り方ね。あ、そっか。変態だからか、こんの変態!」
関係ない。
関係ないよ。
「…震えている…」
「私は化物とか、幽霊とか、そういうのが大嫌いなの」
知ることによって克服しようとしたけど、駄目だったわ。と少し震えた声で言った。
それは逆効果ではないか…?
「まさか本当に治るとはね…」
宛が、僕が起きたときの最初の感想だ。
僕は全回復した。
頭蓋骨も変形していない。
これでやっと人間に戻れる。
一安心。
「世話かけたな。ありがとう」
「どういたしまして、じゃあ帰って」
「ずっと思ってたんだけど、何か僕にたいして冷たくないか?」
「だから…こんの変態 !!」
もはやお構いなしである。
「じゃ、僕は帰るよ。本当にありがとな」
「はいはい。じゃあまた明日ね」
僕は宛の家から出た。
さて、僕は自分の家に帰る予定だった。それ以外にする事もない。
あるとすればそれは言伝腐に関わる。
ここが何処だか大体の把握が出来て、二キロくらい歩いた頃だろうか。僕は二人の人物に出会う。
「おー現じゃーん!!丁度いい所に来たな!!」
「…我が友よ…。一つ、用件がある…」
本音を言うと、丁度いい所なんかには来たくなかったし、要件もお断りだった。
スキンヘッドのカザカザ。
天然パーマの仲成。
「…何やってんの?」
この二人は、何故かトランシーバーと双眼鏡、よく判らないが、何か発信機的なものまで装着している始末。
「今から俺達は、伝説の書物を発掘しに行く」
あ、大体解った。
「しかし!!あそこは何と運河が監視しているのだ!!!」
「だから儂らは、今闘い参るのだ!!」
「要するに、書店にエロ本を買いに行きたいが、友達の運河がバイトしていて、時間も分からない。周りの視線もあるし、誰にも気付かれずに購入できないか?そういうことだろ?」
「うん、ぶっちゃけ」
「ああ、そういう意義だ」
それでそこまでの重装備を、もう何かRPGのキャラクターみたいになってるぞ。
「「頼む手伝ってくれ」」
重ねて言われてもなぁ…。
「もし成功したら報酬は、その書物だ!!」
「よし乗った!!」
僕は男だ。
それは人間だろうが、『僕』だろうが関係ない。




