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放課後。
さて、放課後といえば僕が書いた魔法の言葉メモ。アレに吊られれば、この学校が終わる、奇跡の時間に教室で待っているはずなのだが…。
宛、僕が空を飛んでいたとき、僕とは全く違う原理で飛んでいた少女。
「えーと、確か四時だったよなぁ…」
僕は一人で自分の教室に向かう。
シーン的には告白みたいなことになるだろう。
ぶっちゃけ正解である。
「ふっふっふ、あの紙には『貴方のことが好きです。放課後の四時、一年B組へ来てください。』と書いたのだ、…まぁ同じクラスだから一年B組はいらねぇんだけどな」
ついでに僕のプロフィール
名前! 目野前現!!
年! 十五歳!!
誕生日! 五月七日!!
学年! 高校一年生!!
出席番号! 二十一番!!
クラス! 一年B組!!
これって最初に言うべきだよなぁ…。
ガラララ!!
僕は勢いよくドアを開ける。そこには一人の少女。茶髪で襟足の部分を左右に二つ結ぶ少女。
一人で佇んでいる。
夕日が差し掛かり少し赤くなった教室の中、その中に一人の人間がいるというのは幻想的であった。
「あ、変態」
「何だその呼び方は」
「だって変態でしょ?」
「違う」
「変態!!!」
酷い…。
「…もしかしてこの手紙を書いたのは、あなた?」
「そうだよ」
おそらく宛は僕が告白するとでも思っているのだろうな。
「これ、男子を呼び出すにはいい方法だと思うけど、女子に送るものじゃあないわよね」
見抜かれていました。
「い、いい方法だろ!?僕の奇跡的な閃きだよ!」
「だから『男子』を呼び出すにはいい方法なんだと思うのよ。ただ…」
「ただ?」
いい方法ならばいいじゃないか。何だ?僕の天才的な発想に嫉妬でもしたのか?
「…これは、女子に出すものじゃないでしょ」
あ。
僕の書いた手紙を僕の前に投げる。ヒラヒラと風を切りながら落ちる紙。それを拾い上げて僕は愕然とする。
僕が書いたのは、女子向けのラブレターだった。つまり、丸い文字でハートとかを大量に使い、可愛いシールを貼る始末…。
「で、要は何?変態さん、用事は告白じゃないんでしょ?」
「ああ」
やっとだ。ついに聞くことができる。
「お前は…宛は…、一体何者なんだ?」
「私は元、正義者」
「それは一体何だ?お前は入学式の時、空を飛んでいただろう」
「じゃあ、逆に聞くわ。あなたは一体何者?やっぱり…」
「変態じゃない」
この質問は覚悟していた。変態の方じゃねぇ。『何者?』の方だ。ただで教えてくれるとは思っちゃいない。
「僕は、『僕』だ」
「はぁ?意味わかんないだけど」
そりゃあそうだろうな。
「僕は、中三の時、あることに気付いたんだ。それは僕が人間から離脱できることだっだ」
「離脱できる…?」
「そう、僕が人間から離脱したとき、身体能力は上がり、生命力が上がる。そして、自分を表現できる『カタチ』が使えた」
そのような通常の生物には当てはまらない生き物が新生物、すなわち『僕』だ。
例えば、『人間』と言う部類があったとして、
例えば、『ゾンビ』と言う部類があったとして、
例えば、『吸血鬼』と言う部類があったとして、
例えば、『妖怪』と言う部類があったとして、
例えば、『幽霊』と言う部類があったとして、
例えば、『神』と言う部類があったとして、
『僕』と言う部類がある。
そういうことなのだ。
「ふうん…なるほどねぇ、じゃあ一つ、質問していい?」
「ああ、別に構わんよ」
「あなたが『僕』という生物になれる、人間から外れられることは分かったわ。じゃあ何でそう思ったの?」
「それは、どういうことだ?」
「だから、その能力に気付いた時、中三の時、「僕は超能力者になったんだ」とか思わなかったわけ?何でわざわざ「人間から離脱できる」みたいに思ったの?」
「それは…、僕にもよく分からないな…」
ただ思ったのだ。
ただ直感したのだ。
「僕は超能力者になったんだ」より、直感的に「人間から離脱できる」と思ったのだ。
確かに今思うとそれは少しおかしい。
「今のところ、そう思ったとしか答えられねぇなぁ」
あるいは体の使い方が変わっていたから。
「そう」
納得してくれたようだ。
「でもそれとあなたが空を飛ぶこととは繋がらないわねぇ。身体能力が上がっても羽がないと空は飛べないでしょ?」
アンタが言うな。アンタが。
「羽はある。さっき言っただろ?僕は自分を表現する『カタチ』が使えるって」
「それは何?羽を生やす能力なの?」
「違うな。まずカタチは能力じゃない。これは僕自身なんだ。それと羽を生やすんじゃない、羽を表現するんだ」
「よく分からないけど…まぁいいわ。次は私の話…」
宛は腕を組んで言った。
「私はねぇ、中ニの時、あそこにある大きな如来様に一つ、頼み事をしたのよ」
宛は窓の方向へ行き、その先にある小さな山を指差した。
「ここからでも見えるでしょう?あれあれ」
「…あ、れ…?」
そこにあるのは小さな山、僕が落ちた山だけで、如来様など存在しなかった。
「ていうか…宛が指差してる方向…神社があるぜ」
教室にいると担任の先生が来たので、僕達はその謎の山へ向かいながら話を続けることにした。
彼女が言うにはこの山には『如来様』があるらしいが、僕が知るにはここには『神社』がある。
僕が中ニの時に何度もお参りに行った神社である。
「続けるぞ。何を頼んだんだ?」
「私はその頃、究極の正義者だったの」
「ああ、それは仲成から聞いた」
「だから私は『この世の悪を滅してください』って願ったのよ。いやぁ、全く恥ずかしい恥ずかしい」
如来様に人殺しを願ったわけだ。
「そのあとすぐに私は正義は強すぎると悪になる事を悟ったわ。だからそれからはそんな事も願わなくなったのよ。でも…」
そこで宛は一度溜めて、勇気を出したかのように少し大きな声で言った。
周りには誰もいなかったから誰も聞いていないだろう。
「私が中三の時、あなたと同じように気付いたの。私には『善の後遺症』が残っているって」
「善の…後遺症?」
「叶ってしまったのよ。この世の悪を滅する力が…」
「それで宛は空を飛んでいたのか?」
「そう、私は正しければ全てが成立するのよ…」
全てが!?何だそのチート能力!?
「でも私は人間よ。ちゃんとした人間よ。あなたと違ってね」
嫌な言い方だな。
「…ところで、何で宛は僕の名前を言わないよな。知らないのか?僕の名前は目野前現と言うんだ」
「別にあなたの名前を知らないということではないわ。ただ私のパンツを見た人を名前で呼びたくなかったのよ。こんの変態!!」
顔を少し赤くして僕を睨んできた。怖いよぉ。
「分かった。じゃあ言わなくていいよ…」
「うん、絶対に呼ばない」
なんだその決意は…!!
「じゃあ、宛が何でそんな力が手に入ったのかと聞かれると、如来様に願ったからと言うんだな」
「ええ、そうやっていうわ。そういえば…まだあなたの原因は聞いていないわね…」
「原因は…分からない」
「そもそもあなたは何を目指して何をどうしたいの?」
「僕は…何としたいんだ」
「何を?」
「僕は昔、カタチが暴走したことがあったんだ。この力を放棄してしまってね。だから僕はこの『僕』を受け止め、知り続けなきゃならないんだ」
「それがあなたの目的なの?」
「ああ、そうだ。何とかしたいんだ」
それは、
利用であり、
制御であり、
何より知ることだ。
「何か私達で共通することはないの?」
「どうだろうなぁ、俺達は全然ジャンルが違う力だからなぁ…」
宛の原因は願ったことだ。
てことは僕も何かに願ったかな…?
「願った…?あ!!」
「どうしたの?分かったの?」
「ああ、僕も願ってたんだ!中ニの頃!」
僕は頭が悪かった。だから僕は神社に願ったんだ!!
「でも、僕が願ったのは神社だ。この山にある」
「神社?そんなものはここにはないわよ」
「嘘だぁ、あるって絶対、じゃあ宛が知ってる如来様を見たあと連れてってやるよ」
「分かった」
「おし、ついた!」
やっぱりここから見ても如来様など存在しない。しかし彼女には見えているようで上を眺めている。
「ほんじゃ連れてってくれ、宛が言う、如来様に」
「ええ、そのつもりよ。だから黙ってなさいよ!」
怒られた。
宛は迷いなくその山の中に入っていく。
僕もそれに続き、進んでいく。
春の日は短く、今は六時だがもう真っ暗だ。
僕が『僕』じゃなかったらおそらく何も見えなかっただろう。
宛は、見えているのかな?
「あれ?この道…」
「ここよ、ほら、しっかりとあるでしょここに!」
「え…これは…」
彼女はここに如来様があると言った。
しかし、
「ここには…神社がある…だ…ろ」
「はぁ?何言ってんのよ!しっかり、ほら!!」
指を指すのは失礼だと思ったらしく手を広げてその五本の指で示した。
しかし、示した方向には明らかに神社が佇んでいる!
少なくとも僕にはそう見えた。
「これは…どういうことだ…?」
コイツには、これが如来に見えているのか…?
「どう見たって神社だろ」
「如来様でしょ!」
「神社だろ!」
「如来様!!」
「神社!!」
「如来様!!!」
「神社!!!」
「如来様!!!!」
「…埒があかないな、一旦整理しよう」
「…ええ、そうね」
「まず、宛にはこれが如来様に見えている。だが、僕には神社が見えるんだ。これから察するに、僕達は全く別のものを見ていることになる」
「まぁ、そうなるわよね…」
「僕は今からこの神社の中に入ってみようと思う。だから宛は僕がどのように見えるか見て欲しいんだ」
「分かったわ」
「んじゃ、行くぞ…」
僕はガサガサと周りの草をどけながら進んでいく。今思うと何故僕はこんな所にある神社に通っていたのか、自分でも分からない。
ガザザザ…。
僕は少し腐りかけの麩を開け、中に入った。
「どうだ?どう見えている?」
すると宛は少し困ったような顔をして言った。
「どうって…普通にあなたがパントマイムしているようにしか見えないわよ。如来様は今あなたがいる所より少し奥だから」
僕は周りから見るとパントマイムをしているようだ。僕には実際に見えるからすごく上手に見えているんじゃないか?
「そうか、なるほどな…ってことは「うわぁあぁあぁあぁ…!」」
悲鳴が聞こえた。
すると突然、僕の目の前が虹色に光り、ズドンッという音とともにその光の中から小さな少女が現れた。
目の前から現れる。僕の名前のようだな。
小さな少女と言っても中ニくらいな感じである。
細く高い声、短い黄緑の髪、七色に輝く瞳。もみあげの辺りには、可愛らしいオレンジの水玉のリボンが付いていた。
格好といえば、とてもファンタジーな格好で、緑と黄緑のストライプのぶっかぶかのズボンとフードの付いたTシャツ。大きすぎるズボンがずり落ちないようにと、革のベルトが五本縛られている。僕はあまりそういうゲームをしないからよくは分からないが、何となく、そういう感じな雰囲気を漂わせていた。
「…ここは、何処かな…?」
少女はここが何処か分からないらしい。
「君は、誰?」
「はい!?ええ…はい…ええ…あのぉ、はい!」
あたふたして手をブンブンと横に振っている。
テンパりすぎである。
「いや、落ち着いて?いい?もう一度聞くよ?…君は、誰?」
「え!?あ、はい!…はい!…おいらは、その、『イミメラン』と言います…」
「イミメラン?君は日本人じゃないの?」
僕はさらに聞く。
「え!いや、本名は『イラメラ・ソノ・イミメラン』と言って、その…『空想人』です…!!」
「空想人?」
「はい…おいら達は人々の空想の中で暮らす種族で…その…何故現実へ来たのかは全然分からないんですけど…その…あの…とりあえずあなたの空想へ入らせて貰います!!」
そう言うとイミメランはすぅっと半透明になり、僕の中へ入っていった。
…へ?
「何やってんのよ。早く帰って来なさいよ!」
「あ、あえ?わりぃわりぃ…」
僕はその神社から出て、宛の所へ向かう。
「何一人でブツブツ喋ってんのよ気持ち悪い。とにかく分かったわ。あなたにはこの如来様が見えないのね」
「うん、全く見えない」
「あなたが中に入ったと思った時、やっぱりウロウロしてるだけにしか見えなかったわ」
「そうか、今日は帰るか。ああ、メアド教えてくれ」
メアドとはメールアドレスのことである。誰でも知ってるか。
「いいわ、うん、もう暗いし。こんな変態と夜に一緒に痛くない死ね。こんの変態!!」
何か今「痛くないしね」の「しね」が「死ね」になってた気がするんだけど…。




