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最初、僕は自分が病んだのかと思った。
僕は人間から離脱したかった。
今思うとそんなのは思春期の気の迷いだったのかもしれない。
いや、きっとそうだろう、そうだったのだろう、そうに違いない。
さて、僕が今どんな状況下にいるか、皆さんは想像できるだろうか?
何もヒントがなきゃ、そんなのは無理だろう、正解は、簡単ですよ。
人間から離脱した。
呆れるならば呆れて下さい。しかしそれが真実なんです。
僕は人間じゃない。かと言って、ゾンビとか吸血鬼とか妖怪だとか幽霊だとか、ましてや神だとか、そういうものとも違う。
独立した。
例えば、『人間』と言う部類があったとする。
例えば、『ゾンビ』と言う部類があったとする。
例えば、『吸血鬼』と言う部類があったとする。
例えば、『妖怪』と言う部類があったとする。
例えば、『幽霊』と言う部類があったとする。
例えば、『神』と言う部類があったとする。
その場合、僕は『僕』と言う部類なのだ。
全く新しい存在。
僕は『人間』から『僕』になった。
それはあまりにも突然のことで、気付いたのは中三の夏。
あまり勉強が得意な方ではない僕は、受験シーズン真っ只中だった。
中二の頃からお参りに行くレベルだ。
僕はただの暇つぶし程度に、本当に暇つぶし程度に挑戦として、超能力でペンを動かそうと思った。
結果、ペンは動かなかったが、ペンを握ろうと思った瞬間、
ペンが粉砕した。
それだけだった。
僕は気が付いたら『僕』になっていた。
体の感覚から使い方までがまるで違う。
言葉だけなら当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
僕がそれで一番驚いたのは、僕の『カタチ』があったことだった。
僕は、僕になっている時、運動神経が飛躍的に上がる以外に、僕を『カタチ』として表現出来た。
意味が分からないだろう。僕もだ。
力が増えると、戸惑うものである。
でも、いつか勝手に慣れてくるだろう。と僕は何もしなかった
・・・・・・・
。
何もしなくても何とかなるだろう。と思ってしまったからだ。
そう言ってしまうと何とかならなかったことは明確だが、
その通り。
ある日、僕が外を散歩していると、いきなり知らないおじさんに怒られた。
原因は分からない。そのおじさんがイライラしていたのかもしれない。
僕は首根っこを掴まれた。
その時の腹立たしさったら、もうなかったな。
おじさんは何処かに行ってしまった。結局意味は分からない。
僕はあまりの腹立たしさに電柱を蹴ると、
僕の周りを『黒い何か』が包み込み、それが一気に膨張した。周りが削られ、破壊された。
爆発だ。
僕は無傷だったのだが、『爆発に巻き込まれた少年』として、救急車に運ばれた。
皆知らないだろう。
僕がその爆発を起こしたことに。
この時僕は『人間』で『僕』ではなかった。
つまり、『カタチ』が暴走したのだった。
“爆発”というカタチに。
何とかならなかった。
慣れなかった。
このまま僕が何とかしなかったら、この力の爆走が起こりかねない。
だから僕は何とかした。この力の制御を試みた。
結果を言うと、それは一時的にはあっさり出来てしまい、一時的には何とかなってしまった。
しかし、それはあくまでも一時的であってこの『僕自身』が危険なことには変わりがない。
だから僕はこれからも何とかし続けなければならない。
何となるのは何とかした人だけなんだ。
目野前現、つまり僕は高校に入学した。
学校から一番近いので、徒歩で行ける。家から二キロメートルと言ったところだ。
今日はその初日。入学式だ。
今年の入学生は一〇六人、僕はその中の一人だ。当たり前か。
現在体育館。同じ制服を着た新入生がズララと並んでいて、少し気持ちが悪くなる。ん、これはただ貧血なだけかな。座っているのに。
何を話しているかなんて僕には知ったこっちゃない。
何か同じような事を延々と話しているのだろう。
入学式というのは退屈だ。ただ椅子に座っているだけ、ただここの校長先生の話を聞いているだけ。
退屈にも程があるだろう。ほーら、隣の奴なんか爆睡だぜ。
むう、女子か。うん。そこそこ可愛いな、そこそこ。僕も寝たいところだが、そんな勇気は僕にはないわけで、睡魔と戦いながら、僕は入学式を過ごしていた。
入学式が終わると次は教室でホームルームがあるわけで、さらに自己紹介が待っていた。
自己紹介というのはあまり好きじゃないなぁ。だって面倒臭いじゃん。どうせ後からなんやかんやで名前は分かるのに、皆何とかならないと思ったら何とかするのに。
どうでもいいことなんだけど。
「僕は目野前現と言います。皆さんこれからよろしくお願いします」
僕は簡単な自己紹介を終え、一息つく。
その次は、あ。さっき爆睡していた女子だ。
「皆さん初めまして、私は宛陽菜と言います。私は…元、正義者…です。どうかよろしくお願いします」
全然皆と変わらない、何処にでもある自己紹介、ではなかった。
元、正義者だって?小さくしかし確実にそう言ったはずだ。
「はい、それじゃあ全員の自己紹介が終わりましたね。今から教科書を配ります。それが終わったら解散です」
そんなことを考える内に、学校が終わってしまった。入学式だと早く終わるんだな。
ちなみに隣を見ると、その宛陽菜はまた爆睡していた。
歩くのが面倒臭い。
面倒臭いよ。
ということで、僕は空を飛んで帰ることにした。
景気付けということもある。
僕は背中から『翼』を表現した。
カタチ。
これだ。
僕は、『僕』であるとき、自分をもう一つの形として、表現できるのだ。今回の場合は『翼』。
僕が『僕』の時、最も何とかしなければならないもの。最も危険なもの。
これが『カタチ』だ。
これが僕の力、というか僕自身だ。
バササァと僕の背中のコウモリのような黒い翼が羽ばたく。
高く、高く。
周りにバレないように、高く飛ぶ。空高く。
飛べば一キロメートルなんてちょろいもんだ。
地平線が見えるくらいまで、高く上がった。ゴォォォォォと言う風を切る音が鳴る。
空は少し黒く星がちらほら。
「ん…?なんだあれは?」
遠くに何か人のようなものが見えた。いや、人の後ろ姿が見えた。空を飛んでいるように見えた。
「せ…制服だと…!!」
あれは、僕が入学した高校の制服!しかも女子のだ!!
つまり言ってしまうと、スカートの中がモロ見えなのだ。
じぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…
ガン見してしまう。
しちゃうだろう。だって僕『男』だし。
「……ん?」
あまりにガン見してしまい、近づきすぎていることに気付かなかった。
そら気付くわな。僕の背中には翼の形状をした『カタチ』をバサバサを音を鳴らしている。
その制服を来た人は振り向いてしまった。アカンよぉぉぉ。
「…ちょっ…え…アンタ…お…変態!!!!!」
驚愕。
振り向いたその人は見たことがあった。その人は、
宛陽菜だった。
宛陽菜は空を飛んでいた。
「ぐはぁあぁぁぁぁあぁああぁぁ!!!!!」
飛び膝蹴りを食らった。飛んでいるしな。僕はそのままバランスを崩し、真下に落下した。自業自得だな。うん。ぎゃああぁぁ!!!!




