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影雄譚  作者: 今日仰日ゞ
僕は『僕』へと離脱しもどき(?)と出会う。
13/15

4

なんてな。

―本当によく頑張ってくれたな、“僕”―

「え?おおお!!」

僕は東土龍の死角の木の影から飛び出した!

多分、いや絶対意味が分からないだろう。

僕は死んだ。

それに変わりはない。

“僕自身”は死んだんだ。

正確に言うと、『表現上の僕』は死んだんだ。

『カタチ』

もう一つの自分を表現する僕自身。

『カタチ』で、僕そのものを表現したのだ。

分身ではない。

身が分かれたわけではない。

もう一つの僕を作り出し、僕と同じ感情と行動を行う、言うならばクローンのよう

なものを表現する。

気付く人は気付くだろう。さっき東土龍はこう言ったのだ。

「あ、きみが『えいゆう』ね。あまりにえいゆうえいゆういってたのはきみかぁ。よく『むきず』でいられたね。なんで?なんで?」

『むきず』

 無傷だ。

 全身打撲、

 腹筋に穴、

 頭蓋骨損傷、

 貧血、

 右腕消失、

 背骨粉砕、

 両腕粉砕、

 この状態を無傷と言えるだろうか?

 言える訳無いだろう。

 屍当然である。

 そう、東土龍は、最初から僕という『表現』を見ていたのだ。

 いつから語り手変わったかな。

 それは知らん。

 だがこれで少しのスキを生めるだろう。

 左腕は今ないが、諦めよう。

 右手で例え骨折してようと、子供一人殴れない訳じゃない。

 大正解。

 ピンポんピンポーン。

 顔面をぶん殴った。

 何か少し自分を虚しく思えたが、んなこたぁどうでもいい。

 たとえ子供でも、敵は敵だ。

 僕はもう、コイツは化物にしか見えないのだ。

 何とかはしなければならないだろう。

 でも、

 だが、

 しかしながら、

 流石に殺すまでは……

 できない。

 殺す殺すと言っておいてなんだが、気絶くらいで……。

 言伝腐は消えてくれるだろう。

 そう願うしない。

 僕は頬をできるだけ擦るように殴った。

 まぁ、子供だからな。

「まぁ、こどもだからな。なんておもった?ざぁんねん。ぼくぅ、こどもだけどこどもじゃないからぁ、あまいよあまい」

 子供、というだけで少し手加減をしてしまう。

 殺す殺すと言っても結局手加減をしてしまう。

 馬鹿だ。

 阿呆だ。

 僕が顔面が無くなる程に殴ってしまうと、もうそれは人として、『僕』としていけないことだ。

 人間としてはいいことなのだろうが、ここでは全く違ったのだ。

 ここでは誰であろうと手加減をしてはならないのだ。

 子供だから、それは理由にならないのだ。

 だってこの子供は…

「…あ、悪」

 だから。

 悪だから。

 人間の形を模した悪者だから。

「ギィィィヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 東土龍の頬に触れた手は、真っ黒に染まり、激しい激痛を伴う。

 そして、右手の神経が死んだ。

 ピクリとも動かなくなったのだ。

「そうだね、いちおういっとこうか。ぼくはね、『あく』なんだ!」

 知ってるよ。

「だからねぇー、あくはなにやってもいいんだよぉ!」

「……」

「ぼくは『あくのげんざいしんこうけい』なんだ!」

 悪の現在進行形。

 似たようなものを僕は知っている。

 それは善の後遺症。

「…“悪”であれば全てが許される力…」

「おお!よくわかったねぇ!」

 チート能力だった。

 今までのダメージは恐ろしい事に、「人を傷つけるのは悪いことだから」という理由で使う悪魔技だったらしい。

「あとね、きほんてきなことをひとつわすれてるよ。あくは『そこにいるだけ』でわるいことなんだ。だからぼくはここにそんざいしつづけられるんだ!」

 要するに。

 何度も経験してきた。

 不死身。

 死なない。

 アンデット。

 ということだろう。

「……」

 言葉を失った。

 とりあえず僕は『カタチ』で左腕を表現する。

 もうこの時点で僕の負けは決まったも同然だった。

 読みに負けた、というより自分自身に負けた。

 甘さに負けた。

 そうだ。結局は僕が何とかしないから。

 何ともしないのと何とかしないは違う。

 が、どちらも何ともならないのだ。

 何とかはしないといけないのだ。

 僕はやけくそに左腕を振る。

 しかしいとも容易くかわされる。

「やけくそじゃあだめだなぁ。ぼくもあきてきたよ。さいしょはちょっとびっくりしたけどね」

 もう、駄目なのか…?

 現実は主人公でない限り補正は効かない。

 いや、現実では主人公ですら補正は効かない。

 つまりここで「あきたからじゃあね」というように見逃してもくれない訳だ。

 しかも相手は悪そのものだ。

 見逃してくれる訳もない。

 やけくそも力尽き、バタッとエロ本対戦の仲成のように仰向けに倒れる。

 東土龍は僕に手をかざす。

 もう動く気力はない。

 実はさっき木から飛び出る時から、オーガもどきと戦う時から力は既に底を着いていた。

 そこからは無理矢理だった。

 …もう駄目だ…。

 誰か助けて…。僕の顔面が徐々に黒に埋まる。

「あ、たか、も…」

「え?何?」

 ………………………………………………………………………………………………へ?

 聴覚の神経はまだ生きていた。

 だが脳はほとんど麻痺してしまった。

 意識が朦朧としている中、僕は、目を開けた。

 目、を開けた?

 何で僕、目を開けられるんだよ。

 脳が死んでるんだ。視覚なんてとっくにないだろう。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 問題はそこにいるのが誰だということ。

 そんな事はもう分かっている。

 そこにいるのは、紛れもない宛陽菜だった。

「な……………ん、で…………」

 なんと、漆黒に染まった体は徐々に、先程の速度よりも早く元に戻っていく。

「逃げたわよ。ちゃんと逃げようとしたわよ。勘違いとかしないでよ。ほんと気違いだから」

 あ、はい。すいません。

「おぉ?なになに?きみもこのひとの『おなかま』?またあそべるの?ねぇ?ねぇ?」

「ああ、この子が例の東土龍…ちゃん?女の子なんだ」

 僕はよく見えなかったのだが、その声から、やけに自信があることは分かった。

 どうしたんだ?さっきまであんなに、泣いていたのに。

 泣きっ面だったのに。ん?蜂?いやいや。

 まぁそう思えば子供に話しかけるにゃあ蜂の針みたいな鋭く毒のあるような声がけど。

 あれだろ?電話とかで女の人が声を変えるやつとかそんなんだろ?

「ねぇねぇ、ぼくのじゃまをするならぐしゃってしちゃうよ。いいの?」

「やってみなさいよ」

 やめろ。コイツは悪であれば許されるようなクズな能力の持ち主だぞ。

「じゃぁぁあぁぁぁ~そい!」

 ああああ!!宛!!!

 声が出ない分罪悪感と恐怖感だけが増す。

 僕は無意識に目をつぶった。

「……はい?なんでしょうか?」

 それは宛の声だった。

 よく見えないが、宛はダメージを受けたような感じは無い。

「え、うそ、あれぇぇ~しっぱいしちゃったかな~」

 今の東土龍の声ではっきり分かった。

 宛には『悪の現在進行形』が効いてない!!

 どうして、何故!?

「ん?今のが攻撃?だっさい遊びねぇ、続ける?」

 宛が挑発した。

「う、うんするする!よぉぉ~し、そいや!!」

 ……………………。

 しばらくの沈黙。風の音が少し聞こえた。

「ん?ん?ん?」

「なんで…?」

 効いてない。

 宛には何か特別な力とかがあんのか?

「じゃあ、次は私ね」

 宛はゆっくりと歩き出して、小指と薬指を折りたたみ指鉄砲を作った。

 その銃口を東土龍に向けて…。

「や、やめてよ!ぼくこどもだよ!?いいの?こういうのしってるよ!!あれでしょ!?『ぎゃくたい』ってゆうんでしょ!?いいの、いいの!?」

 東土龍は後ずさる。

 ゆっくりと歩く宛はさぞかし恐ろしい顔をしているのだろう。

「ぎゃくたいだよ!!こどもがかわいくないの!?」

「ごめんなさい。私、子供大嫌いなの」

 バーンという宛の言葉と同時にまるで本当に弾で撃たれたように、後ろに跳んだ。

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

 東土龍が断末魔を発したとき、気のせいだろうか。僕には東土龍の中から真っ黒な影のような東土龍のシルエットが、飛び出してきたように見えた。

 そしてそのシルエットと本体は同時に倒れる。

 シルエットはピシピシと割れ始め、やがて粉末となり、散った。

 やっと声が出せるまで回復した僕は宛に聞いた。

「な…んで、効かな、かった…んだ…?」

「あの後よくよく考えてみたのよ。そしたらね、単純な事に気が付いたのよ」

「単純…な事…?」

「ええ、ちゃんと考えたらね、『悪』が『善』に勝てるわけがないのよ」

 チートですなぁ。

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