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影雄譚  作者: 今日仰日ゞ
僕は『僕』へと離脱しもどき(?)と出会う。
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2

脇腹が痛い。

 当たり前だ。

 穴が複数空いているんだから。

 血は止まった。

 だが服に血が滲んでしまっている。

 僕は言伝腐から逃げた。

 宛を助けるため。

 助けるため?

 違う。

 僕は宛と一緒に戦わなければならないんだ。

 それが僕達に課せられた役目。

 僕の『僕』や彼女の『善の後遺症』を手っ取り早く何とかする方法。

 僕はまだ何もしていない。

 今はただ何とかしてもらっているだけだ。

 どうにもなっていない。

 むしろみっともない。

 ふと横を見ると避難する人々がいた。

 それを誘導しているのは…。

 仲成だった。

 そうか、仲成も何としているんだな。

 ならば早く僕も何とかしなければ。

 影雄として。

 何とかしなければ。


「宛!!」

 僕はチャイムも押さずに宛家に入った。

 するとリビングの隙間で体育座りをして、頭を抱えて震えているのだ。

 こうも苦手だったとは。

 病気なレベルである。

「おい、おい!宛!宛!」

「……あなた……」

「何してるんだ!!手紙にも書かれていただろ!!僕らが何とかしないと世界が壊れるんだよ!!!」

「でも…でも…それは私がやらなくても……」

 宛は怯えている。

 怯えて、震えている。

「そうか、じゃあ早く逃げろ!!何で逃げないんだ!?」

「に、逃げられないのよ!!外に出たら言伝腐がいるのでしょ!?怖いのよ!何もしたくないのよ!!」

 くそ、完全にビビってやがる。まぁ仕方がないといえば仕方がない。

「世界にはどうにもならない事もあるの!!何ともならない事もあるの!!」

 だが宛は逃げようともしていない。

 じゃあどうにもならないじゃないか!!

 何ともならないじゃないか!!

 僕はその思いの丈を宛に伝えた。

「いいか…それはな、何ともしようとしていないからだ!!何とかなるには何とかしなきゃならねぇんだよ!!何もしてないのに何とかなるとか思ってんじゃねぇ!!リスクなんて当たり前にあるんだ!!」

 少々言い方が荒かったかもしれないが、これが僕の考えなのだ。

 ならばそう伝えよう。

「そんなの…そんなの…そんなのことわざをただをパクっただけじゃない!!『成せば成る 成さねばならぬ何事も』でしょ!?私には勇気が無いの!!やろうと思う気持ちが無いのよ!できないのよ!!」

 宛も僕に思いの丈を叫んでくれた。

 ならばそれに僕はそれに答えなければならない。

「志、それは大切だ。勇気、それも大切だ。誰かがやってくれる、そうかもしれない。逃げるのだって立派な勇気だ。逃げる事を悪いことだとは言わない。だけどな、だけどな、『頑張らない』のと『何もしない』のとは全く、全然、全然違うんだよ!!」

「!」

「ああそうさ、頑張れば確かに成功するだろう!夢だって叶うかもしれない!だけど何とかするのには勇気なんざ必要ねぇんだよ!!」

 多分、いや絶対に、上杉鷹山さんと僕の言葉の違いはこれなんだ。

 この方の方が偉大だ。

 この方の方が素晴らしいことを言っている。

 それに比べて僕の言葉なんかクソみたいな言葉だ。

 だが僕はそういう生き物なんだ。

 そういうバカみたいな生き物なんだ。

「テストで百点を取ろうとするには頑張る勇気がいるだろう!だが赤点を取らないために勇気はいらない!いるのは一つの覚悟だけだ!!」

「…」

「僕はもう行く。東土龍の所へ行ってくる。僕はそいつを殺しに行く。お前は逃げようが、戦おうが勝手だ。ただ何もしないのは許さねぇぞ!」

「そう…じゃあ私は逃げることにするわ」

「ああ、そうしろ。逃げるんだ」

「ところで、東土龍の居所なんて分かるの?」

「分かるわけねぇだろ。だから僕は何とするんだ!!」

 そう言い残し、僕は宛家を後にした。


 僕は考える。

 東土龍の居場所を。

 そもそもこの町にいるのだろうか?

 いなかったらあの手紙は来ないよな。

 ならばこの町にいるのだ。

「じゃあ、手当たり次第探すとするか…」

 宛家の玄関のドアを開けた瞬間、言伝腐は存在する。

 僕は『カタチ』で鉤爪を表現した。

「あはっははははは!!!!夢魔ぁ、このオイラが相手っスよぉぉぉ!!」

 頭の中から小さく、変な声が聞こえた。

 イミメラン、人格変わっちゃってる…。

 (後輩)になっちゃってるよ。

 声漏れてるし…。

 でも戦ってくれているんだな。ちゃんと何とかしてくれているんだな。

 僕も早く東土龍を殺そう。

 それは、現時点で僕にしか、僕にしか何とか出来ないことだから。

 僕は道路に出た。

 言伝腐は気持ちが悪いくらいにいなかった。

 存在していなかった。

 すると、

 ズシン、ズシン。

 何やら嫌な予感がする。

 振り向くと、そこには大きな、三メートル以上ある化物が僕を踏みつぶそうとしていた。

「ウォォォォォォォォ!!!」

 その怪物は雄叫びを上げて、僕の真上に挙げた足を勢いよく下げる。

 おそらくコイツは…、

「オーガ…」

 辺りを見回すと、僕はオーガもどきに囲まれていた。

 オーガ。

 あの手紙には書かれていなかった言伝腐。

 言い方が悪いが、凶暴な性格で、頭が悪い、伝説の生き物だったはずだ。

 しかし臆病でもある。

 コイツらにはその臆病さが感じられない。

 退化したのだ。

「ウォォォォォォォォ!!!!!」

 僕を囲んだオーガもどきは僕に同時に襲ってくる。

 こういう場合、普通上とかに跳ぶんだろうな。

 僕もそうしようとした。

 しかし人生そううまくいかないもので、四方八方、三六〇度から襲ってくるオーガもどきは当然上にもいるわけで、僕は少しだけ跳び、一八〇度の巨人をかわし、上から降ってくる巨人は受け止めた。

 重い。

 その思っていた以上の重量を持ったオーガもどきを渾身の力で振り回した。

「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

最近はよく叫ぶ。

振り回したオーガもどきは目が回っているせいか、よだれや、鼻水が垂れる。

それを僕は宛家とは反対の方向に投げ飛ばした。

戦っている場所は宛の家の目の前だ。

少しでもブレたらさよならなのだ。

遠くから大きな音がした。ぶん投げたオーガもどきが墜落したのだろう。

僕のかわした化物達が立ち上がる。この間に吹っ飛ばしおいた方が良かったかな。

「「「「「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォ」」」」」

声からしてあと五匹。

一匹一匹の力はとてつもなく強い。

だがあのゾンビやヒッポグリフほどの強さではないようだ。

僕でも倒せるかもしれない。

せめて宛が逃げる時間くらいは稼がなければ。

僕は右手の鉤爪を構え、一番宛家に近い奴から倒すことにした。

三メートルを超える巨体だ。皮膚も相当硬いだろう。

ネガティブだってたまには役に立つのだ。

僕は眼球を狙った。

クチュ。

とても清々しいとは言えない音がなった。

として大量の血を出しながら倒れる。

「二匹目……ぐはぁ!!」

オーガもどきは頭が悪いが、僕もかなり頭が悪い。

背後を襲われた。

グーパンチである。

流石の巨体。

背骨が折れた。

粉砕である。

僕は飛ばされまいと、耐えた。その衝撃で、アスファルトが割れる。

あれだろう。普通なら、ここであえて飛ばされて、衝撃を和らげるなどという行動を取ることも出来るのだろうが、それをしてしまうと僕は何処へバイナラしてもおかしくない。

せめて、せめて宛は救わなければならないのだ。

「ま、ける、かぁぁぁ!!!」

鉤爪は必要無い。

もう、拳の勝負である。

僕は鉤爪を外し、殴ってきたオーガもどきの腹に蹴りを入れた。

この時点でもはや拳は使っていないな。

オーガもどきは爆散した。

何だ?強度もそこまで強くないのか?

ただ突進してくる突進兵器なのか?

どんどん希望が見えてくる。

残り四匹。

さぁ、どこぞやの時代劇やバトルアニメのように、一対一のような事はない。

二匹同時だってあり得るのだ。

そんなものは同時に受け止めてやる。

「「ウオォォォォォォォ!!!」」

ボキ。

こんな事は本当に骨が折れる。

その証拠に両腕の骨が折れた。

意味が違うと思うが。

「お!」

左右から襲い掛かって来たオーガもどきを支えている間に上から一匹が降ってきた。

その途端に左右のオーガもどきは後ろへ跳んだ。

んだよ。少しは賢いじゃねぇか。

ボギボギボギィ!!!

ギリギリでかわそうとしたら、左肩が外れた。

外れたというのは契れたとは違う。

ぷっつり切れてしまったということである。

「!!!!!!!!」

死ぬかもしれないほどの激痛。

僕の耐久力は腕が無くなった衝撃で、なくなるようなものではない。

しかしショック死は別なのだ。

メンタルまで強くなった覚えはない。

僕は潰されてしまう前に左腕を回収する。

少し距離をとり、腕を瓦礫の影に隠した。

「う、うう。カタチで…何とか…」

僕は『カタチ』で腕を表現する。

これは僕自身であるのだが、『僕』としての存在、『僕自身』としての存在はそれぞれ固有のもので、同一体にはなれない。

結果として、僕はうまくバランスが取れないのである。

歩くのにも苦労する。

「血止めにゃあなるが…これじゃあ戦えねぇな…」

宛はまだ逃げる気配すらしない。

まさか「逃げる事は正義じゃない」とか言ってんじゃねぇだろうな。

逃げる事は正義でない事は否定できない。

だが逃げる事が悪だと言い張す事だってできない。

逃げる事の何が悪い。

僕だって状況が状況じゃなかったらとっくに仲成に誘導されて逃げているかもしれない。

それでも、僕以外にはいないのだ。

僕が何とかしなきゃいけないのだ。

「う、うあぁあアぁaaaaあA阿ぁァ在嗚呼ァァ!!!!!!!」

『カタチ』の腕は変形可能である。

僕の左腕は鱗の付いた化物の腕へと変わる。

今までの言伝腐を見てきた成果である。

化物の固定した想像をつかめたのだ。

想像して創造。なんつって。

一匹を目掛けて腕を振り下ろす。

う…、肩に染みる…。めっさ痛ぇ…。

しかも両腕でガードされてんじゃねぇかよ。しゃあねぇ…このままぶっ切ってやるぜ!!

ボギボギブチィ…。

オーガもどきの腕の骨が折れる音が聞こえ、その刹那両腕が同時に爆散した。

「ヴァァァァァァァ!!!!」

その巨人が断末魔を上げている間、髪を入れずに次の攻撃に移る。

左右から三匹の仲間が参戦。

…くらってももういいや。とにかく目の前の敵だ。目野前だけになぁ!!!

僕の前は血の海となり、左右の攻撃をもろに受けた。

背骨が折れる音がした。

さっき粉砕したのにもかかわらず。

なんつぅか、あれだな。骨が折れる音ってもっとグロテスクな音がすると思ってたんだが、普通に無機物が砕けるような音なんだな。

何度も折れて麻痺しちゃったのかな。

メシッ。

アスファルトに足が半分埋まる。

身動きがとれなくなってしまった。

よくよく見ると、この三匹…全員が棍棒を持っている。

あの野球のバットみたいなものである。

「ふぅ…ふぅ…ぐ、いてててててててて…」

こんな危機的状況に陥っても痛覚が止むことはない。こんなスキをこの戦闘隊が見逃す訳もなく、オーガもどき三人衆は僕に棍棒を叩きつける!

…はずだったのだろう。

「あっぶねぇぜホント。正直ガチで死ぬかと思ったよ」

僕は腕を一時的に捨てることにした。

『カタチ』である、右腕を。

「腕をもう一度引きちぎるっつぅ発想は、思いついた時には天才かと思いつつも僕は悪魔かとも思ったよ」

僕は『カタチ』を使いまわしたのだ。

『右腕』を『バリアー』に表現を使いまわしたのだ。

僕を包み込む強力なバリアーに。

「う、うあわぁぁぁぁぁぁ…あああああ!!!!!!」

バリアーを破裂させた。

パリィィィン…

ガラスが割れるような音。

オーガもどきは吹っ飛んだ。

ドサドサドサッと倒れてゆく。

今日はよく人(?)が吹き飛ぶ日である。

「…ゴホッ!…はぁ…皆…倒せたのか…?」

バリアーの破片は一時空中で浮遊し、そして僕の左肩に集まっていった。

『カタチ』右腕 表現再生。

くそっ。なんで僕はこんなに殺さなくちゃならないんだ…。

「東土龍ゥゥゥ…」

全てはアイツのせい。

アイツが…漫画みたいな事をしようとしてるから…。

―『悪』は何とかする道じゃない―

道じゃないんだ。


宛家があるこの辺には、言伝腐はいないらしく、どうやら先ほどのオーガもどきが異常なだけだった。

異状と戦うのが僕なのだが。

しかしいない。

どこにもいない。

言伝腐は北から来た。

ならば北へ向かえば東土龍はいるのではないか。

その考えは甘かった。

さっきも言ったがもう一度言おうか。

しかしいない。

どこにもいない。

いないのだ。

探した。

探した。

飛んだりもしたし穴まで掘った。

「東土龍は…何処にいるんだ…?」

考えろ。

考えろ。僕!!

確か最初、僕が言伝腐に出会ったのは何処だっけ?

「…山…あ…そうだ…僕が最初に出会ったのはあの山なんだ…もし…あの時…言伝腐を作り出していたのならば…」

おいおい、僕は真逆にただただ向かって行ってしまっていたんじゃないか?凄い馬鹿なんじゃないか?

いや…でもっ!!そんなこんなに沢山の化物をいっぺんに同じところで作れるとは思えない。しかも今そこにいるとも限らないじゃないか。

ここからじゃ確認もできないし…。

「…何を言ってるんだ?僕は。確認できるじゃないか」

身体能力が上がったんだ。視力だって上がっているだろ。

全然見向きもしなかった、小さな、小さな山。だが僕にはそれが途轍もなく強大なものへと見えてしまった。

ここで『見えた』のではなく『見えてしまった』というのは、僕はあまり見たくなかったからだ。

答えは言わなくとも簡単だろう?

正解 そこに東土龍らしき人物がそこにいたから。

「アZUまァァァぁぁaaaあァァぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

逆走。

左腕は忘れていった。

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