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小話シリーズ

素直になれない王子

今回はかなり短めです。小話①と同じく誤字脱字報告、矛盾点の指摘や感想等は不要です。

「いやぁあああ!」

 王城の上層にある豪華絢爛なとある一室で女の悲鳴がこだました。

「見ないで! 駄目! 見ないでー!」

 悲鳴を上げていた女は、同じ部屋にいる煌びやかな衣装を身に纏った見目麗しい青年に飛び掛るようにしてジャンプを何度もして何かを奪おうとしていた。

「ふん、これはなんだ? これがあった場所といい感触といい、まさか」

「だめえ! 言わないで!」

「偽胸の詰め物だろう?」

「いやぁあああ!」

 見下して嘲笑しながら、手の内にある偽胸の詰め物……シリコンパッドを、女には届かない高さでぽんぽんと弾ませる。

 それを見た女は先程と同じ大音響の悲鳴をあげるのだった。

 それを実に楽しそうにぽんぽん弾ませながら見てている本人は、ゲイルヴエルン国の王子であるヴィルヘルム・プリンツ・フォン・ゲイルヴエルン、二十一歳である。

 柔らかくほんの少しくせのある栗毛でショートの髪は耳を少し隠していて、瞳はターコイズブルーで深い森の中にある澄んだ湖のように煌いていた。しみ一つない白磁器のような肌はきめ細かく透明感があり、体格は細身だがしなやかで程よい筋肉がついているのが服の上からでもよくわかり、それはまるで無駄な脂肪がなにひとつもない猫科のヒョウのようだった。

 そんな王子という名に恥じるどころか上がりきるだけの自信と誇りをもてる容姿をしているヴィルヘルム王子だが、いかんせん性格が悪かった。貧乳のコンプレックスを持つ女が、少しでもと詰めていたシリコンパッドをわざわざ服の中に自ら手を入れて鷲掴み、取り出してからかうくらい悪かったのだ。

「ふっ、どうした? 事実を言われて落ち込んでいるのか。安心しろ、お前が貧乳なのは周知の事実だ」

 二度目の悲鳴を上げた女はもはや取り戻そうという気力も湧かないらしく、ひどいことを言われてもただ床に倒れるように打ちひしがれている。余りにも非情な仕打ちに泣いているのか、肩を震わせている女は、次の瞬間きっと顔を上げるとすっくと立ち上がり、体をぐるんと反転させて回し蹴りを繰り出した。

「こんのクソ王子がぁああ!」

 けれど繰り出した華麗な回し蹴りは、それよりもっともっと華麗な身のこなしでかわされる。

「そんな蹴りでは当たらんぞ。胸以外にいった脂肪をどうにかしないと満足に蹴りもできんだろうな」

「うっさい! あんたはいつもいっつもあたしのこと馬鹿にして! 今日という今日は絶対に許さないんだから!」

「ほう? どう許さないというのだ」

「金輪際あんたとは口きかないんだから!」

 決まった! とばかりにヴィルヘルム王子にびっと指差しして言い切った女。ふふんと勝ち誇ったような表情をしているが、言っていることはただの子供の喧嘩だった。

「ふっ、俺の妃となるお前が口をきかないなど出来るわけがなかろう。頭の足りんやつだ」

 この勝ち誇った顔をしていた女は今ヴィルヘルム王子が言ったように、あと一ヶ月もすれば王子妃となる女だった。

 名前は辺見莉奈。半年前に地球という惑星の日本という国からヴィルヘルム王子の花嫁として異世界召喚されたのだった。

  年は十七才で、黒髪ロングに大きめの二重の瞳は意思が強そうに黒く輝いている。体型は貧乳なところ以外はいたって普通で、特に太いわけでも極めて細いわけでもない。顔は瞳をチャームポイントとして、口角が上がった口元と相まっては勝気なイメージを初対面の相手には与える。

  美少女ではないが、学校のクラスでいうなら女子の半分よりは上といった、どちらかといえば可愛いというところだ。だが、笑えば上位三位には入るだろうそんな位置。

「ぐぬぬ、勝手に召喚して花嫁だとかふざけんじゃないわよ! 誰があんたみたいな性格悪い男と結婚なんてするもんですか! ……今のは独り言だけどっ」

「どんな豊満な美女が来るかと思えば、こんな貧相な子供が花嫁として来るなどどこのお笑い話だか。こんなのでは市井の妓楼でも受け入れを拒まれるだろうな。独り言だが」

「なんですってえ!」

「おや、どうかしたのかリナ。口をきかないのではなかったか?」

「~~んぐ! これでも騎士達には人気なんだから! 独り言だけどっ」

 ヴルヘルム王子の独り言に反応してくってかかる莉奈だったが、何事もないような表情で指摘されて詰まってしまう。

 だが負けじと独り言で人気があるアピールも忘れない。

「ああ、そういえば騎士団長が男と思われても仕方ないリナの胸筋を鍛えてあげるのだとか言っていたな。独り言だが」

「なっ……」

 胸筋を鍛えると騎士団長が言っていた。その言葉に莉奈は絶句した。もはや反論の独り言は出てこず、見るからに肩を落とした莉奈はとうとうヴィルヘルム王子をスルーしてとぼとぼと部屋を出て行ってしまった。

 その悲壮感漂い猫背で歩いていく莉奈の背中を見送って、ぱたんと閉じた扉を見たヴィルヘルム王子は一言呟いた。

「ふん、お前が俺以外の男に人気があるなどと言うからだ」

 そんな小さな独り言だった。

 翌日、騎士団の鍛錬所で一波乱があった。もうじき王子妃になる莉奈が、木刀を持って騎士団長を鬼の形相で追い掛け回していたのだとか。それを見ていた騎士達は戦々恐々としていたらしい。7

「リナ様お止め下さいっ一体何故私を追い回すのですか!」

「うるさい! そこへなおれーっ!」

「うわ! り、リナ様っ」

 ぶんぶんと木刀を振り回す莉奈。騎士団長は何故自分が追い掛け回されているのか皆目見当が付かず、かといって反撃するわけにもいかないので莉奈がくたびれるまで一時間、ひたすら逃げ回っていたそうだ。

 それを陰から見ていたヴィルヘルム王子はほくそ笑んでいたとか。王子の側近がそれを見て嘆息していたとか、それは莉奈や騎士団長は知らぬことである。

 莉奈とヴィルヘルム王子の結婚はあと一ヶ月を切った。はたして仲睦まじく夫婦となる日はやってくるのか? それは王宮内の誰もが気にするところだった。

ここまで読んでくださった方、本当に有難うございました。

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