春に、はらり。
ひらひら、はらはら。
桜が散っていく。
春に、はらりーーーー。
あなたと出会えたのは、桜の散る川の中。
足を滑らせて落ちたところを助けてもらった。
『桜流しに混ざりたかったのか?』
って言われたのをよく覚えてる。
桜流し。
散っていくヒトヒラの桜花弁をつかみ、願い事を桜花弁にたくして桜川に流す、随想町の行事。
私は特に願いなんてなかったから、川の近くでそれをみているだけだった。
ふと、川の中が見たくて身を乗り出したら、足を滑らせ、君に出会えた。
君は、私よりも年下だったけど、あの大きな手が、無邪気な笑顔が、私のすべてだった。
ある会社の依頼で男子校にいた私は、あのときの君が同じところにいた事に驚いた。
何度も話をして、少し猫っ毛なその頭を撫でて。
それを、君はとても喜んでくれて。
いけない事だと、君を余計に悲しませる事だと知っていながら好きだった。
君は寝坊ばかりして、いつも起こしに行ってた。
…そんな普通がうれしかった。
依頼の内容はとても危険なものだった。
あえて何も残さない。
私の時間はーー幸せはそこまでだった。
薄れゆく意識の中で、君を想っていたよ。
ーーー大好きだよ、って。