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第2話 鍵と仕掛けと、おくりもの


朝から、部屋を掃除していた。


リビングのソファの下、キッチンの棚の奥、書斎の机の引き出し。 本格的に引っ越してから1週間。 細かいところまで手が回っていなかった。


「よし、今日は徹底的にやるか」


書斎の本棚を掃除していると、違和感があった。


「……ん?」


本棚の下の引き出し。 3つあったはずなのに——4つある。


「こんな引き出し、あったか?」


一番下の引き出しだ。 リフォーム中、確かに確認した。3つだった。


「いつの間に……」


恐る恐る、引き出しを開けてみる。

中に、鍵が入っていた。

古い真鍮製の鍵。5センチほどの小さなもの。 表面に細かい傷がある。長い間、使われていなかったようだ。


「何の鍵だ……?」


僕は鍵を手に取り、じっと見つめた。


「引き出しが増えて、中に鍵……」


またこの家の仕業か。


でも——


鍵がある、ということは。 どこかに、この鍵で開く場所があるはずだ。


「探してみるか」


僕は立ち上がった。


まず、玄関の鍵を確認する。

合わない。

物置の南京錠も試す。

これも違う。

寝室のクローゼット。書斎の引き出し。キッチンの戸棚。

どれも、合わなかった。


「どこだ……」


リビングに戻り、ソファに座る。

この家の鍵穴は、全て把握しているはずだ。 リフォーム中に、一つ一つ確認した。


じゃあ、この鍵は——


「まさかな」


温泉の隠し部屋を思い出した。

あの部屋には、何もなかった。 ただの空っぽの空間。


でも、もしかして——


僕は地下室に降りた。

隠し部屋の扉を開ける。 壁を叩き、床を確認する。

鍵穴は、ない。


「やっぱり、違うか」


リビングに戻る。

コーヒーを淹れて、一息つく。


「……気になる」


几帳面な性格が、うずく。 鍵があるなら、どこかに鍵穴があるはずだ。


「もう一度、探してみるか」


書斎に戻り、本棚を見る。

リフォーム中、この本棚は動かさなかった。 前の持ち主が置いていったものだ。 状態が良かったから、そのまま使うことにした。


「もしかして……」


本棚の裏側を確認してみる。

本を全て取り出し、本棚を少し動かす。


「——あった」


壁に、小さな鍵穴があった。

本棚の裏、普段は見えない場所。 直径1センチほどの、真鍮製の鍵穴。


「これか」


鍵を差し込んでみる。

ピタリと合った。

回す。


カチッ。


その瞬間——

ガチャガチャガチャ。

壁の中から、歯車が回る音がした。


「何だ……?」


音は数秒続き、やがて止まった。


カラン。


足元に、何かが落ちた。


「鍵……?」


拾い上げる。

さっきとは違う鍵だ。 少し大きくて、形も異なる。


「次の鍵……?」


僕は鍵を握りしめ、家の中を見回した。

どこかに、次の鍵穴がある。


キッチン、リビング、寝室。 一つ一つ、丁寧に確認していく。

廊下の隅、壁の継ぎ目に小さな穴を見つけた。


「これか?」


鍵を差し込む。

合わなかった。


「違うのか……」


物置に行く。 棚の裏側を確認する。


ない。


トイレ、玄関、階段——

30分ほど探して、ようやく見つけた。

リビングの窓枠。 隅の方に、小さな鍵穴が彫られている。


「こんなところに……」


鍵を差し込む。


ピタリ。


回す。


カチッ。


またガチャガチャと音がして——


カラン。


今度は、窓の下に鍵が落ちてきた。


「三つ目……」


僕は鍵を拾い上げた。

少し大きい。装飾が施されている。


「まだ、続くのか」


でも——


「面白い」


僕は笑った。


謎解きみたいだ。 ゲームの宝箱のギミックを思い出す。


「次は、どこだ」


三つ目の鍵穴は、キッチンの床にあった。

タイルの一枚が、よく見ると微妙に浮いている。 持ち上げると、下に鍵穴があった。

鍵を差す。


ガチャガチャ。


カラン。


四つ目の鍵。

今度は、さらに大きい。 重厚な作りだ。


「最後、かな」


四つ目の鍵穴を探す。

寝室、書斎、物置——


どこにもない。


「どこだ……」


リビングに戻る。

ふと、温泉のことを思い出した。


「まさか、地下?」


階段を下り、温泉の部屋に入る。

浴槽の周りを確認する。 隠し部屋の中も見る。


ない。


「違うのか……」


諦めかけた時、天井に視線が行った。

岩肌の天井。 その一部に、何か埋め込まれている。


「鍵穴……?」


高い場所だ。 脚立が必要だ。

リビングから脚立を持ってくる。

温泉の隣に脚立を立て、登る。

天井の岩肌に、鍵穴があった。


「こんなところに……」


鍵を差し込む。


ピタリ。


回す。


カチッ。


今度は、長い音が鳴った。

ガチャガチャガチャガチャ——

10秒ほど続く。

そして——


ゴトン。


隠し部屋の奥、壁が少し開いた。


「まだ、奥があったのか」


脚立から降り、隠し部屋に入る。

開いた壁の向こうは、小さな空間になっている。 奥行き50センチほど。


中には——


「……モアイ?」


子犬サイズのモアイ像が、置かれていた。

石製。 表情は無表情。 ずっしりと重そうだ。


「これだけ……?」


僕はモアイ像を持ち上げた。

重い。3kgくらいか。


「これを隠すために、あんなに複雑なギミックを……?」


取り出して、よく見る。

特に変わったところはない。 ただのモアイ像だ。

底を見ると、何か彫られている。


『楽しんでくれたかな? —前の住人より』


「……そういうことか」


僕は思わず笑った。

遊び心だ。 前の住人が、仕掛けたギミック。


「ただの、遊びか」


でも——


「悪くない」


僕はモアイ像を持って、リビングに戻った。

テーブルの上に置く。

無表情のモアイ像が、じっとこちらを見ている。


「お前、何のためにいるんだ?」


モアイ像は答えない。

当たり前か。


「まあ、いいか」


コーヒーを淹れて、ソファに座る。

窓の外を見ながら、僕は笑った。


「楽しかったよ、前の住人」


その夜。

書斎で仕事をしていると、リビングから音がした。


ゴトン。


「……何だ?」


リビングに行く。

モアイ像が、テーブルから少し動いていた。


「動いた……?」


いや、気のせいだろう。 地震か、何かの振動かもしれない。

モアイ像を元の位置に戻す。


「動くなよ」


冗談めかして言って、書斎に戻った。


翌朝。


リビングに降りると——


「——今度は何だ」


モアイ像が、テーブルの端に移動していた。

しかも、微妙に角度が変わっている。 昨日は正面を向いていたのに、今は窓の方を向いている。


「……動いてる」


僕はモアイ像を見つめた。

モアイ像は、じっと窓を見ている。


「お前、何が見たいんだ?」


答えは、ない。


「……まあ、いいか」


僕はモアイ像を窓際に移動させた。


「ここで、好きなだけ外を見てろ」


モアイ像は、無表情のまま外を見つめている。

リビングに戻ると、テーブルの上に何かが置かれていた。


「野菜……?」


トマト、キュウリ、ナス——


新鮮な野菜が、いくつか並んでいる。


「誰が、置いたんだ……?」


周りを見回す。


誰もいない。


「……また、この家か?」


謎だ。


でも、腐らせるわけにはいかない。


「とりあえず、冷蔵庫に入れておくか」


僕は野菜を持って、キッチンに向かった。


(第二話終わり)

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