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堕天/FREEDOM’S CROWN  作者: イチジク
もう目覚めたから

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9/41

あーだこーだのうっせぇんだよ馬鹿野郎。

気づいたら、真っ白な空間にいた。

「…は?なんだここ」

周りを見渡す。何もない。白いだけ。上も下も、境界すらない。無限に続く白。

「おい、ヒルメ!碇さん!聞こえてんのかよ!」

叫ぶ。しかし声は虚空に吸い込まれ、誰も答えない。

『落ち着け、ヒカリ』

ルシファーが意識の奥で囁く。

『これは模倣の神の術だ。幻覚か、それとも精神世界か』

「マジかよ…どうすんだよこれ」

『わからん。だが、神の本体を倒せば解放されるはずだ』

その時、声が響いた。

『ヒカリ』

女の声。低く、甘く、それでいて冷たい。

模倣の神だ。

白い空間の中心に、あの女が現れる。白い着物、白い髪、白い肌。まるでこの空間そのものが人の形を取ったかのようだ。

「お前…何が目的だよ」

『願いを叶えるだけよ』

女が微笑む。表情のない微笑み。

「歪めてるくせによく言うな〜」

『歪めてなんかいないわ。ちゃんと叶えてるもの』

女が首を傾げ、笑う。人形じみた動き。

その瞬間、床にヒビが入った。

白い床から、黒い何かが滲み出す。

血?いや、もっと黒い。

「汚ねぇな...」

『あなたは、何を願う?』

「俺は願わねぇよ。つーかテメェみたいなヤツ殺せばリリスさんが叶えてくれるからな‼︎だから死ね‼︎」

俺は首にナイフを当てる。

刃が皮膚を裂く。

血が滴る。

その瞬間、体が炎に包まれた。



─────


その姿は、ただ哀れであった。

背に黒き翼を持つ。けれどもそれは燃え残りの煤にすぎず、羽根はばらばらに剥がれ落ち、地に散らばっては腐ってゆく。

額には光の角が立ち上がっていた。けれども輝きはどこか歪み、あたかもこの世に似つかわしくない異物のようで、見る者の心を苛むばかりであった。

人のかたちをしている。

だが人には見えない。

眼差しは青白く澄みながら、底にひそむのは飢えと怨嗟と、救われたいという身勝手な渇望だった。

「楽して生きたい」「幸せになりたい」「満腹になりたい」「眠りたい」「愛されたい」――そのような卑小な願いのすべてが、なぜか彼をして神に逆らわせ、天をも焼かせる。

哀れである。

けれども美しい。

堕天の影は、その矛盾そのものを姿とする。

彼は生きたがっていた。誰よりも、醜く、必死に。


────

俺は地を蹴った。

光の軌跡を残して、女に向かう。

でも、女は消える。


「あ?消えた?」

『ここよ』


背後から声。

振り返ると、女がいた。

さっきと同じ姿勢。まるで最初から動いていなかったかのように。

俺は拳を振るう。

俺の炎が床を焼く。白い空間に黒い焦げ跡が広がる。血の匂いと焦げた匂いが混じる。

しかし、女はまた消える。

煙だけがわずかに揺れ、空気の振動が後に残る。

「は?どうなってんだよこれ」


『あはは、君は単純ね』

女が笑う。意味が分からない笑い方だ。

今度は上から、静かに空中に浮かんでいる。

影も音も、世界の法則に逆らうように止まっていた。


『力だけで何とかなると思ってる』

「あーだこーだ、うっせぇんだよ!」


俺はまた突進する。

今度はフェイントをかけた。右に行くふりをして、左に跳ぶ。


でも、女は簡単に避ける。動きは滑らかで、人間の限界を超えていた。

『君はもっと頭を使った方が良いよ』女が呆れた声を出す。「頭?」『そう。あ.た.ま。今のままじゃ、私には勝てないよ〜』


(コイツ、腹立つな。完全にパターンを読まれている。)


俺は床を蹴る。

床が割れる。黒い液体が飛び散る。

俺はその破片を掴んで、女に投げつける。

女の注意が破片に向く。

その隙に俺は回り込む。

女の背後に。

「今だよなぁ!」

俺の拳が女の背中を捉える。

『きゃっ』


女が前に吹っ飛ぶ。

やったぜ!俺、戦闘IQマジたけぇーんだぜ。


『あはははは。やるじゃない。』


女が指を鳴らす。

その瞬間、女が増えた。 二人、四人、八人、十六人。 瞬く間に数十人。 全部同じ顔、同じ服、同じ表情。

「マジかよ......」

『さぁーて、どれが本物?』

全ての女が同時に笑う。声も完璧に揃っている。


「畜生...このイカレ女が。」


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