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堕天【 FREEDOM’S CROWN 】 ~生きる為、怪物と契約した男~  作者: イチジク浣腸
聖桜教団編

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風雲急を告げる

 

「へっ……家に?」


 俺は、思わず聞き返す。

 イヴが、俺の家に来る。

 それって——


「うん」


 イヴが、静かに頷いた。

 その頬には、抑えきれない熱が赤く滲んでいる。


「ヒカリくん、最近ずっと辛そうな顔してるから……少しでも、楽にしてあげたいなって」


「……」


 俺は、イヴを見つめる。

 その瞳は、実に真剣そのものだった。

 嘘をついているようには見えない。


「あぁ、なんて美しい申し出なんだろう」


 ペタンが、感嘆したように呟く。


「才能ある者が、光に導かれる瞬間——。ボクのようなゴミクズには到底真似できない、高潔な関係性だ。ねえヒカリくん、君は本当に幸運だよ。こんな素晴らしい『光』に選ばれるなんて」


「……黙れよ」


 俺は、ペタンを軽く睨む。


「いや、でも……」


 俺の頭が、混乱する。


(イヴが、俺の家に……?)

(それって……どういう……)


「あ!あの——変なことじゃないよ!」


 イヴが、慌てて両手を振る。

 顔が、さらに赤くなる。


「ただ……ヒカリくん、いつも一人で抱え込んでるから」


「……」


「少しだけ——私に、頼ってほしいなって」


 イヴはそう呟いて、寂しそうに視線を落とした。


「話を聞くとか……それくらいしかできないかもしれないけど」


 気がつくと俺は、イヴを見つめていた。

 その表情は、やけに真剣で。

(……俺のこと、心配してくれてるのか)

(イヴが)

 胸の奥が、少しだけ温かくなった。


「……今日、お仕事は?」

 イヴが、尋ねる。

 公安の任務だ。

 もし任務があれば、家になんか帰れない。イヴは俺のことを理解してくれている。


「ないよ」


「……そうだなぁ」

 俺は、少し考える。

(イヴが、俺の家に来る)

(それって……)

(いや、別に……問題ないか)

 任務もないし。

 イヴは、俺を心配してくれている。


 なら——

「……わかった」


 俺が、頷く。

「来いよ」


「本当!?」

 イヴの顔が、パッと明るくなる。


「ありがとう、ヒカリくん!」


「いや、別に……そんな大したことじゃないだろ」

 俺は、照れくさくて目を逸らす。


「あぁ、素晴らしい。才能は光を受け入れた」

 ペタンが、満足そうに頷く。


「ボクのような味噌カスには眩しすぎる光景だよ。さて、ボクはこの辺で失礼するとしようかな。これ以上この場にいると、ボクという不純物が二人の純粋さを汚してしまいそうだ」

 ペタンが立ち上がる。


「じゃあ、ペタンくん。またね」

 イヴが、手を振る。


「ああ、また。君のような『光』にまた会えることを、ボクは心から楽しみにしているよ」

 ペタンは、優雅に一礼して——店を出ていった。


 残されたのは、俺とイヴ。

 そして、厨房の奥で黙々と作業を続ける店長。


「じゃあ——閉店したら、すぐ行くね」

 イヴが、嬉しそうに言う。


「あっ!そうだ。住所、教えて?」


「……ああ」

 俺は、携帯を取り出して——住所を送った。


「届いた。ありがとうね」

 イヴが、携帯を確認する。


「じゃあ、九時くらいに着くと思う」


「……ああ、わかった」


 俺は、料理を食べ終えて——立ち上がった。


「じゃあ、先に帰ってるわ」


「うん。待っててね」


 イヴが、手を振る。

 俺も、小さく手を振り返して——ベテルを出た。

 外に出ると、真夏の夜風が頬を撫でる。


「……何だよ、これ」


 俺は、自分の胸を押さえる。

 心臓が、激しく鼓動している。

「なんで俺が……こんなに……」

 緊張してるんだ。

 イヴが、俺の家に来る。

 それだけで、胸が高鳴る。


「……落ち着けよ、俺」

 俺は、深呼吸をして——家へと向かった。


 ───


 家に戻ると、俺は時計を見た。

 八時十五分。

 イヴが来るのは、九時頃。

 あと四十五分。


「……四十五分」


 俺は、部屋を見回した。

 散らかってはいない。

 公安の訓練で、整理整頓は叩き込まれている。

 でも——


「……いや、でも」


 なんとなく、気になる。

 俺は、クッションの位置を直した。

 テーブルを拭いた。

 窓を開けて、換気をした。


「それってさ……」


 俺は、誰にともなく呟く。


「別に、変じゃないだろ」


 ただ、イヴが話を聞きに来るだけだ。


「なんで俺が、こんなに……」


 そわそわしてるんだ。

 鏡で自分の顔を確認する。

 疲れた顔。

 目の下に、隈ができている。


「……まあ、今日は仕方ないか」


 訓練で、疲れ切ってるんだ。

 でも——


「いや、でもシャワーくらいは浴びるか」


 俺は、クローゼットを開ける。

 黒いTシャツ。

 黒いパーカー。

 黒いジャケット。

 全部、黒だ。


「……センスないな、俺」


 でも、他に何を着ればいいのかわからない。


「まあ、いいか」


 俺は、シャワーを浴びて——いつもの黒いTシャツとジーンズに着替えた。

 髪を乾かして、鏡を見る。


「……こんなもんか」


 時計を見る。

 八時五十分。

 あと十分。


「……あと、十分」


 俺は、ソファに座った。

 だが、すぐに立ち上がる。

 じっとしていられない。

 窓の外を見る。

 街の明かりが、夜空を照らしている。


(イヴが、来る)


(何の話をするんだろう……)


(支えるって——どういう意味だ?)


 俺の頭が、また混乱し始める。


「……わかんねぇよ」


 俺は、髪をくしゃくしゃにした。

 そして——

 ピンポーン。

 インターホンが鳴った。

「……!」

 俺の心臓が、大きく跳ねる。

 来た。

 イヴが、来た。

 俺は、深呼吸をして——

 ドアへと向かった。

 足が、少し震えている。


「……なんで俺が」


 手のひらに、汗がにじむ。

(落ち着けよ……)

 俺は、もう一度深呼吸をして——

 ドアを開けた。

 そこには——

 イヴが立っていた。

 いつもの喫茶店の制服ではなく、白いブラウスに黒いスカート。

 髪は、いつもと同じように後ろで一つに結ばれている。

 手には、小さなハンドバッグを持っている。

 そして——

 その表情は、少し緊張しているように見えた。

 頬が、熟れたリンゴみたいに赤い。


「……こんばんは、ヒカリくん」


 イヴが、小さく微笑む。


「……ああ」


 俺が、ぎこちなく言う。


「来たか」


「うん」

 イヴが、静かに頷く。


「お邪魔しても……いい?」


「ああ。入れよ」

 俺が、ドアを大きく開け広げた。


「ありがとう」

 イヴが、部屋の中へと入ってくる。


 玄関でイヴが靴を脱ぐ。

 何気ない仕草なのに、やけに目を引いて――

 俺は、見ちゃいけないものを見た気がして、視線を切った。


「こっち」

 俺が、リビングへとイヴを案内する。

 イヴが、きょろきょろと部屋を見回している。


「綺麗な部屋だね〜」


「……まあな」

 俺が、ソファを示す。


「座れよ」


「ありがとう」


 イヴが、ソファに座る。

 ハンドバッグを、膝の上に置く。

 俺は、向かいの椅子に座った。

 沈黙。

 壁掛け時計の秒針の音だけが、やけに大きく響く。

 カチ、カチ、カチ——

 イヴは、ハンドバッグを両手でぎゅっと握りしめている。

 俺も、どこに手を置けばいいのかわからなくて——

 膝の上に置いたり、太ももに置いたり、落ち着かない。


「……あの」

 俺が、先に口を開く。


「何か、飲む?」


「え?」


「紅茶とか——いや、でも俺、上手く淹れられないけど」


「ううん、大丈夫」

 イヴが、首を横に振る。


「気持ちだけで、嬉しいよ」


「……そっか」

 また、沈黙。

 カチ、カチ、カチ——

 イヴが、何か言おうとして——口を開く。

 でも、何も言わずに——また俯く。

 俺も、何か言わなければと思って——


「……支えるって言ってたけど」


「うん」


「それって……どういう意味なんだ?」

 イヴが、ゆっくりと顔を上げた。

 その瞳は、潤んでいた。


「ヒカリくん……私ね」

 イヴの声が、震えている。


「……ああ」

 俺も、緊張する。


(何だ……何を言うんだ……)


 イヴが、俺を真っ直ぐに見つめる。

 そして——


「私……」

 イヴが、一度深呼吸をして——

 ハンドバッグを、ソファの横に置いた。

 そして、立ち上がる。


「……イヴ?」

 俺も、反射的に立ち上がった。

 イヴが——

 ゆっくりと、俺の方へと歩み寄ってくる。

 一歩、また一歩。

 その足取りは、少しおぼつかない。


「私……ヒカリくんのこと」

 イヴが、俺の目の前に立った。

 思った以上に近い。目と鼻の先。

 顔を上げれば、すぐそこに彼女の視線、唇がある。

 ふっと、熟した洋梨の様な甘い香りが鼻先をかすめた。


「好きだよ」


「……え?」

 俺の思考が、一瞬停止する。

 時が、止まったような気がした。

 イヴの言葉が、頭の中でリフレインする。


『好きだよ』


「……いや、ちょっと待て」

 俺は思わず、手を突き出し、後退りした。


「好きって……それって……」


「loveの、好き」

 イヴが、はっきりと言い切った。

 潤んだ瞳と、火照った頬は

 その言葉に嘘偽りがないことを物語っていた。


「私、ヒカリくんのことが——好き。」


「……マジで?」

 俺の声が、裏返る。


「本当だよ」

 イヴが、頷く。


「ずっと……ずっと、言いたかった」


「……いや、でも」

 俺の頭が、混乱する。


「俺——別に、何もしてないぞ」


「何もしてないなんて、そんなことない」

 イヴが、首を横に振る。

 涙が、ぽたぽたと落ちる。


「ヒカリくんは、いつも優しかった」


「優しいって……俺が?」


「うん」

 イヴが、微笑む。

 泣きながら、笑う。


「ベテルに来て、いつも私の話を聞いてくれた」


「……それ、普通だろ」


「ううん、違うよ」

 イヴの手が、俺の頬に触れた。

 温かい。

 柔らかい。


「ヒカリくんは、本当に心の底から聞いてくれてた」


「……」

「目を見て、頷いて、笑ってくれて」

 イヴが、優しく俺の頬を撫でる。


「だから——好きになっちゃった」


「なんで俺が……」

 俺が、小さく呟く。


「俺なんて——何も特別じゃない、何も知らないし」


「特別だよ」


 イヴが、優しく微笑む。


「私にとって——ヒカリくんは、特別。ヒカリくんじゃなきゃ...嫌だ」


「……」

 俺の胸が、熱くなる。

(この感覚……何だ?)

 胸が苦しい。

 息がしづらい。

 でも、嫌じゃないな。心地良く感じる。


「ヒカリくんは、いつも一人で戦ってる」

 イヴが、悲しそうに微笑む。


「辛いことも、悲しいことも、全部一人で抱え込んでる」


「……それは」

 俺は、言葉に詰まる。

(確かに——俺は、誰にも頼りたくない人間だ。)

(公安の任務。神の力。戦い)

(一人で背負ってきた。俺が選んだことだし。)


「でも、もう一人じゃないよ」

 イヴが、両手で俺の手を握る。


「私が、ヒカリくんの側にいる」


「イヴ……」


「だから——」

 イヴが、俺の目を真っ直ぐに見つめる。


「私と……一緒にいてくれる?私に教えてよ。ヒカリくんの全てを。」

 その瞳には、嘘も偽りもないように見えた。

 純粋な、真っ直ぐな想い。

 それが、そこにあった。

 俺は——

 どうすればいい?

 俺も、イヴのことが——

(好きなのか?)

 わからない。

 いや——

(わからないわけじゃない)

(ただ、認めるのが怖いだけだ)


「……俺は」

「俺は——よくわからない」


「……うん」

 イヴが、黙って頷いた。


「恋とか、そういうの——今まで考えたことなかった」


「うん」


「公安に入ってから、ずっと戦いばっかりで」

 言葉が、たどたどしい。


「人を好きになるとか——そんなこと、考える暇もなかった」


「……」


「でも——」

 俺が、イヴの手を握り返す。


「イヴといると……楽なんだよ」

 イヴの目が、大きく見開かれる。


「ベテルに行くのが、楽しみで」


「……」


「イヴの顔見ると、ホッとするっていうか」


「……うん」


「それってさ……」

 俺が、イヴを静かに見つめる。


「好きってことなのか?」

 イヴが、泣きながら笑った。


「うん……それ、好きってことだよ」


「……そっか」

 俺は、小さく笑う。


「なら——俺も、お前のこと好きなのかもな」

 イヴの目から、大粒の涙が溢れる。

 でも——それは、悲しみの涙ではなかった。


「ありがとう……ヒカリくん……」

 イヴが、俺に抱きついた。


「……っ!」

 俺の体が、一瞬こわばる。

 けれどすぐに、イヴの温もりが胸の中いっぱいに広がった。

 華奢な体だ。

 背も俺より少し低く、肩幅も狭い。

 抱けば折れてしまいそうなのに――

 腕や背中に触れると、柔らかさの奥に、鍛えられた張りを感じる。

 心臓の鼓動が、近さのせいで和音のように重なって聞こえた。

 柔らかな髪が触れ、甘い香りが鼻をくすぐる。

「か弱い」だけじゃない。

 そう、はっきりわかった。


「……なんだよ、これ」

 俺が、小さく呟く。


「ふふぅ、嬉しいくせに」

 イヴが、俺の胸に顔を埋めながら笑う。


「……まあな」

 俺は黙って、イヴを抱き返した。

 腕が迷いなく、その背に回った。


(これが、恋なのか)


(これが——)


 その言葉を、俺は一縷の疑いもなく信じた。

 重なり合う鼓動、縮まる距離。

 幸せの絶頂という名の底なし沼に、俺はどっぷりと浸かっていた。

 だが、俺はまだ知らなかった。

 この幸せが——どれほど脆く、儚いものなのかを

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