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堕天【 FREEDOM’S CROWN 】 ~生きる為、怪物と契約した男~  作者: イチジク浣腸
聖桜教団編

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その光は、まだ途中

 碇が、山本に近づく。


「……観念しろ」


 声は低く、平坦だった。

 山本が日本刀を振るう。

 もう形になっていない動きだ。

 碇は半歩、位置をずらす。

 刃が空を切り、次の瞬間には山本の腕が極まっていた。


「……っ」


 床に押さえつけられる。


「確保」


 公安職員が動く。

 拘束具が嵌められ、山本の動きが止まる。

 それを、少し離れた場所でヒカリが見ていた。

 瓦礫に背を預け、横になったまま。

 息は荒いが、目は開いている。

 何も言わなかった。

 光景に圧倒されてしまったからかもしれない。

 因幡啓治が葉巻を外す。


「……終わりか」


 気の抜けた声。

 碇が近くを通り過ぎると、因幡は視線も向けずに言った。


「頂いた刃が欠けてるぞ」


 それだけだ。

 碇は足を止めず、そのまま行く。

 井上が欠伸混じりに言う。


「はいはい、片付け片付け」


 柳生はヒカリの様子を一度だけ確認し、

「頑張ったな」と短く告げる。

 誰も、戦闘の話はしない。

 現場は、静かに“事後処理”へ移っていった。


 ───


「ヒカリ。奥の扉だ」


 碇が、短く言う。


「ヒルメは——そこにいる」


 ヒカリは一瞬だけ息を吸い、頷いた。


「……ああ、分かってるよ」


 身体は重い。

 それでも、足だけは動いた。

 奥の扉へ向かい、手を伸ばす。

 ノブは異様に冷え切っており、少しだけ引っかかる。

 力を込めて、開けた。

 薄暗い室内に、椅子が一脚。

 そこに、伊織ヒルメが縛られていた。


「……ヒルメ」


 声が、思ったより低く出力された。

 ヒルメが、ゆっくりと顔を上げる。

 焦点が合うまで、少し時間がかかった。


「……ヒカリ……?」


 やけに掠れた声だった。

 ヒカリは何も言わず、駆け寄った。

 結び目を探し、指先で解く。

 紐は固く、手が震える。


「もういい、俺たち相棒だろ?」


 その一言だけだった。

 拘束が外れ、ヒルメの身体がわずかに傾く。

 ヒカリは反射的に受け止める。


「……ありがとう」


 ヒルメが、小さく笑った。

 それ以上、言葉は続かなかった。

 ヒカリは、そのままヒルメを抱き寄せる。

 力を込める余裕はない。

 ただ、離さない。

 周囲の音が、少し遠くなった。

 間に合ったかどうかは、分からない。

 それでも、ここにいる。

 それだけで、今は十分だった。


────


数日後。

ヒカリは、病院の廊下を歩いていた。

消毒液の匂いは未だに慣れない。

カーテンを少しだけ開ける。


「……生きてる?」


ベッドの上で、牛島が片腕を上げた。


「失礼なヤツだな。ピンピンしてる」


「本当かよ」


ヒカリが近づく。

包帯は多いが、顔色は悪くない。


「クラウンの影響だ。放射線も、まあ……帳消しだな」


さらっと言うが、軽い話じゃない。

ヒカリは何も言わず、椅子に腰を下ろした。


「そりゃ……よかった」


それだけで、十分だった。

牛島はしばらくヒカリを眺めてから、手を伸ばす。

軽く、頭を撫でた。


「無茶したらしいな」


「……聞いたのか」


「報告書を読まされた」


鼻で笑う。


「因縁の敵を倒して、人質を助けて、ついでに生きて帰る。

 上出来だろ」


ヒカリは目を逸らす。


「はは……たまたまです」


「そういう顔じゃない」


牛島は穏やかに言った。


「前より、余計な力が抜けた。

 それだけで十分だ」


しばらく、沈黙。

ヒカリが、小さく息を吐く。


「……ありがとうな、牛島さん」


牛島は答えず、天井を見たまま言う。

「礼はいい。次も生きて戻れ」


それだけだった。

ヒカリは立ち上がり、カーテンを閉める。


「……はい」

声は、少しだけ軽くなっていた。


───


その頃。

とある場所。

大神璽王は、モニターを眺めていた。

画面に映っているのは、ヒカリの戦闘データだ。

数値と映像が、淡々と流れていく。


「……素晴らしい」


感嘆はあったが、声は静かだった。

評価というより、確認に近い。

大神は、指にはめた指輪に触れる。

撫でるというより、そこに在ることを確かめるように。


「ヒカリ君」


名前を呼ぶ。

そこに親しみは一切ない。

まるで愛玩動物に対する呼びかけの様な、距離感があった。


「君は——期待以上だ」


瞳に、暗い光が宿る。

炎というほど強くはない。

だが、確実に消えないもの。


「次は……もう少し、用意しよう」


言葉を選ぶように、間を置く。


「君を、さらに追い詰めるものを」


笑みが浮かぶ。

大きくもなく、楽しげでもない。


「絶望、というほど派手じゃなくていい」


モニターのデータが切り替わる。


「キミのおかげで……合一に関する秘密が分かった。我が理想の礎と成ってもらおう。」


満足している様子はない。

ただ、次へ進む理由が増えただけだった。

大神璽王は、再び画面を見る。

ヒカリの動きが、無音で再生されている。


───


そして——

とある廃墟。

崩れた壁の陰で、フードの男が座っていた。

呼吸は整っている。

痛みは、もう問題ではない。


「……甘いなぁ」


低い声だった。

名前を呼ぶ必要もない。

男は懐に手を入れ、銀貨を一枚取り出す。

傷を癒し終えた手つきで、それを指先に乗せた。


「次は、殺す」


感情は乗らない。

予定を確認するような口調だ。


「それが……約束だろ」


コインが、放られる。

チャリン。

回転する銀の円が、空気を切る。

表情は変わらない。

結果に興味があるわけでもない。

やがて——

床に落ちる。

カラン……

男は視線を落としただけだった。


「……そうか」


運命を喜んだわけではない。

ただ、条件が揃ったと理解しただけだ。


「……俺はまだ死なない」


フードの奥で、かすかに口角が上がる。

笑顔と呼ぶには、あまりに温度が低かった


────


数週間後。

ヒカリは、いつもの日常に戻っていた。

訓練施設の道場。

汗の匂いと、畳を踏む音。


「もう一回だ」


牛島が構える。

相変わらず無駄がない。


「わかってるって」


ヒカリも構え直す。

肩の力を抜いて、一歩踏み出す。

次の瞬間、視界が揺れた。


「——っ、速ぇ」


「気が緩んでいたな」


「緩んでねぇよ。普通に強ぇんだよ、あんた」


牛島は何も言わず、もう一度構えた。


────


食堂。


「牛島さん! 今日、妙に豪華じゃないですか?」


トレイを覗き込んで、ヒカリが言う。


「……食堂の飯も、悪くない」


「いや、それ毎回言ってますから」


ヒカリは笑いながら、箸を進めた。

こういう日常が、ちゃんと戻ってきたことがただ嬉しかった。


────


公安本部。


「ヒカリ様ぁ〜!」


ヴェレスが勢いよく飛びついてくる。


「待て待て、離れろ!」


「嫌です! ヒカリ様は私のものですもの!」


「そんなわけないだろ! 誰の所有物でもねーよ!俺は!」


騒ぎを横目で見て、碇が肩を揺らす。


「お前も大変だな」


「笑ってないで助けてくださいよ、碇さん……」


「いや、それはお前の問題だろ」

そう言い残して、碇はさっさと行ってしまった。


「碇! 裏切り者!」


廊下。

すれ違いざまに、因幡が足を止める。

安物のスーツ、葉巻の煙、スキットル。


「よう、ガキ」


「……因幡さん、だっけ?」


「いい目になったな」


ヒカリは一瞬、何のことかわからなかった。


「生き残った奴特有の目だ」


因幡はそれだけ言って、スキットルを一口煽る。


「これからも、まあ……頑張れ」


「……はい。ありがとうございます」


頭を下げると、因幡はもう背を向けていた。


────


夜。

ヒカリは、マンションの屋上に立っていた。

フェンスにもたれ、夜空を見上げる。


(強くなったか?)

即答はできない。


(前よりは、マシだな)


でも、まだ足りない。

大神の顔が、ふと脳裏をよぎる。


(……終わってない)


拳を握る。


(でもさ)


思い出すのは、今日の道場、食堂、廊下。


(俺、一人じゃねぇし)


牛島。

碇さん。

ヴェレス。

ヒルメ。


(だったら、なんとかなるだろ)


楽観じゃない。

諦めでもない。

ただ、そう思えた。


「……よし」

小さく呟いて、フェンスから離れる。


だが、ヒカリはまだ知らない。

この日常が、どれほど脆いかを。

そして、自分に用意された次の局面を。

遠く——

闇の向こうで。

大神璽王が、モニターの明かりに照らされていた。

「さあ……」

指輪を掲げる。

「次の幕を開けるとしよう」

声は静かだった。

「ヒカリ君。私たちの物語は——まだ始まったばかりだ」

モニターが、暗転する。

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