論を穿つ拳
ドゴォォォォォォォォォンッ!!
戦域が震えた。 ヒカリの渾身の右拳が、マガツの胸元へ深く、深く沈み込む。自由を象徴する光り輝く炎が、接触面からプラズマとなって激しく火花を散らし、周囲の空間を焼き焦がす。
だが、マガツは微動だにしない。 そこにあるのは、かつての敗北を想起させる絶望を纏った「怪物」。
生物としての限界を超えた怪物が可能とした、理不尽なまでの静止。
「……無駄なことだ。お前の出力、能力の限界値、そのすべてをこの身が記憶している。」
マガツの声が、至近距離でヒカリの鼓膜を打つ。一切の感情を排した、金属的な冷徹さ。
「教団の連中が君をどう評価していようが、私には関係ない。 炎と光を扱えるから何だ? なんの意味もない。 一度私の前で膝を突いた事実は、君の力が私の『鎧』を打ち破れないという決定的な証明だ。……君が今ここでどれだけ叫ぼうが、既に終わった結果をなぞっているに過ぎない」
マガツの右手に備わった骨刃が、迷いなくヒカリの脇腹へと突き出される。逃れられぬ死の宣告。
「諦めて……このまま死ね。それが、君が辿るべき唯一の道だ」
「ハッ……。決まりきった道、ね……」
ヒカリは血の混じった唾を吐き捨て、マガツの無機質な瞳を睨みつけた。
「お前さ、さっきから『一度勝った』だの『証明』だの……。いつまで、終わった殺し合いの話をしてやがんだッ!!」
「……何だと?」
「一回勝ったから次も勝てる? 俺の限界はもう分かってる? ……ざっけんな! そんなもん、お前が勝手に決めたルールだろ。お前のその、何もかも分かったような面が……一番ムカつくんだよッ!!」
ヒカリの咆哮が、大気を物理的に震わせた。 同時に、胸元に突き立てられた拳から「炎」が消失する。
「炎、光? 甘いな……それは違うぞ!!」
叫びと同時に、ヒカリの拳の感触が変質した。 マガツの鱗が防いでいたのは、前回の戦いで見せた「炎の熱量」だ。だが、ヒカリが今放ったのは、物理的な熱でも爆発でもない。
「俺の力……ルシファーの力は、そんなんじゃねえ……。**俺が『こうだと決めた』ことを、力ずくで現実に叩き込む力だ。**お前が勝手に決めた俺の限界なんて、今ここでぶち壊してやるよッ!」
「なっ……炎が……透過して……!?」
初めて、マガツの表情に動揺が走る。 鉄壁のはずの鱗を無視して、ヒカリの拳がマガツの**「内臓」**へ直接、純粋な衝撃と意志を送り込んだ。 内部から焼き尽くされ、逃げ場のない破壊がマガツの体内を駆け巡る。
「前回の俺に勝てたからって、今この瞬間の俺に勝てると思うなよ! 俺の力を、お前のちっぽけな経験で測るんじゃねえッ!!」
ミシ、ミシ……、ギチィィィィィッ!!
マガツの内部から、砕けるはずのない骨が粉砕される悍ましい音が響く。 「過去のデータ」という確信に縛られていたマガツにとって、目の前で「今、この瞬間」に進化し、前提をひっくり返したヒカリの一撃は、不可避であった。
「……! お前の狭苦しい屁理屈ごと、ぶち抜いてやるよッ!!」




