再会
建物の中に入った途端、覚えた違和感。
そこには「死」が濃密に立ち込めていた。
廊下の奥に横たわるのは、心臓の鼓動すら煩く感じるほどの底知れぬ静寂だ。空間そのものが意思を持ち、こちらの首を絞めに来ているかのような、耐え難い圧迫感が渦巻いている。
何かが「来る」。
身が引き裂かれるようなその気配に、本能が警鐘を鳴らし続けていた。
カツ……カツ……カツ……。
一定のリズムを刻む足音が、闇の奥から聞こえてくる。 その歩みは遅すぎず、早すぎず、獲物を追い詰める狩人のようだ。
「……ッ」
ヴェレスが、あまりの気味悪さに立ち止まった。
ヒカリの喉が、引きつったように鳴った。
──この冷たいリズム、夏の路地
斉藤が壁に叩きつけられ、命を散らした、あの絶望の白昼が蘇る。
闇の中から、黒いフードの男が姿を現した。
男は無造作に、指の間で銀貨を弄んでいる。
「……お前」
ヒカリの声は怒りで掠れている。だが、男はそれに応えない。ただ、検品でもするかのような平坦な目でヒカリを見た。
「あの日、君は『表』と言った。……覚えているか」
男が静かに問う。
「……ああ。忘れるわけねえだろ」
「しかし、違った。……だから、君の先輩は死んだ。
だが、お前の分はまだだな。
今日、お前の命も取り立てる。それが運命ってやつさ。」
「……ッ、ふざけんな!!」
ヒカリが吠える。
だが男の瞳には、ヒカリの怒りなど映っていない。そこにあるのは、自らが定めた規律を淡々と執行しようとする、空っぽの虚無だ。
男が左腕の時計を見た。針は3時11分で止まっている。 それを、男が死のイメージを焼き付けた「2時46分」へと動かした。
「変身」
その一言と共に、男の影が膨れ上がり、周囲の光を奪っていく。
受肉したマガツの意識は、すでに男の強すぎる自我に食い殺され、沈黙している。そこにあるのは、神の力を燃料にした、「意思を持つ厄災」そのものだ。




