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堕天【 FREEDOM’S CROWN 】 ~生きる為、怪物と契約した男~  作者: イチジク浣腸
聖桜教団編

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執行人

プルートは激怒した。


その巨大な質量が、単なる生存本能を超え、明確な殺意を孕んで震動する。 全身の細胞から溢れ出したのは、致死量のチェレンコフ光。体内の核反応炉が臨界を突破し、磁場が軋む不快な駆動音が大気を切り裂いた。プルートが拳を振り上げただけで、周囲の空間はオゾン臭を伴う超高温のプラズマへと塗り潰される。


「ガアアアァァッ!」


山のような拳が、牛島を目掛けて振り下ろされた。


ドォォォォンッ!!


衝撃。地面は瞬時に陥没して巨大なクレーターを穿ち、同心円状に広がった衝撃波が廃ビルを分子レベルで粉砕していく。

「マジかよ……やられちまったのか……?」

爆風に身を隠したヒカリが、絶望に声を震わせた。


「……騒々しい。自分の身の振り方を弁えない羽虫ほど、見ていて不愉快なものはないな。」


声は、熱気が渦巻くクレーターの底から響いた。 プルートが拳を上げると、そこには牛島と寸分違わぬ姿をした緻密な設計の氷彫像が、静かに鎮座していた。超高温のプラズマに晒されながらも、内側から湧き立つ絶対零度が物理的構造を維持し続けている。


「ここだ。どこを見ている?」

背後の氷柱の上に立つ牛島が、短刀を逆手に構え、冷ややかに見下ろしていた。


「身代わりは便利でな。お前の網膜に焼き付いた像を、氷で実体化させるだけでいい。まぁ、お前の拙い知能では一生理解できまい。」


プルートの背から放射熱線が放たれる。牛島は動かない。熱線が直撃し、視界が真っ白に染まる。だが、それもまた瞬時に生成された氷のデコイだった。


「何回同じ手を使わせる気だ。安心しろ...お前という塵が消えたところで、この世界は少し清らかになるだけだ」


声は今度、プルートの頭上から降った。牛島は空中に「氷の足場」を生成し、重力を無視した三次元的な振る舞いで翻弄していた。


「もう一度やってみるか? その無駄な熱量エネルギーを」


プルートが狂乱し、拳、熱波、音速を超える尾の薙ぎ払いを繰り出す。だが、そのすべてが虚空の氷を砕くのみ。 ヒカリは気づく。牛島は一歩も引いていない。むしろ、猛攻をあえて「身代わり」で受け流すたびに、剥離した氷の微細な破片が、プルートの鱗の隙間や通気孔へ、楔のように吸い込まれていく。


「胡桃以下の脳しか持たんお前でも分かるだろ。その氷は、ただの不純物じゃない。お前の熱を貪り、自己結合する『冷却装置』だ」


牛島が短刀を一閃。

プルートの体に付着した氷片が、核の光を吸い込んで一斉に結晶化する。


「お前が俺を殺そうと熱を上げるほど、お前の身体は冷やされていく。ハッ、精々足掻けよ。」


プルートの体内温度が急落し、背中の光が弱まる。牛島は巨体を駆け上がり、核反応の中心地へと肉薄した。


「原子力か。強力だが、所詮は分子の激しい熱運動にすぎん。そして——」


短刀を脈打つコアの直上へ突き立て、牛島の瞳が渦中に煌めく。


「俺の氷(停止)こそが、熱(運動)の天敵だろ。 ……よく言われる、『氷は熱に弱い』とな。 だが、それは違う。 氷こそが、熱を殺すんだ。」


だが、その代償は牛島の肉体をも蝕んでいた。服は焼け焦げ、皮膚は熱波で爛れている。何より、至近距離での凄まじい放射線が、細胞を内側から破壊していた。


「……ゴホッ」


拭った手の甲に、黒ずんだ血が滲む。視界が明滅するが、牛島はその衰弱を微塵も表情に出さない。自らの細胞すら管理下に置こうとする、潔癖なまでの意志の力。


「これで終わりだ。 永久に溶けぬ氷の杭を、その心臓へ打ち込んでやる。 ――あばよ。熱のない世界へ連れて行ってやる。」


カァァァンッ!


氷の杭がプルートの炉心に貫通する。 光が消えた。熱が奪われた。 圧倒的な捕食者だった化物の目に、初めて""自分より上位の存在""への恐怖が宿る。


「逃げるなら今のうちだ。お前に、これ以上俺の視界を汚す価値はない。……失せろ」


プルートは声を上げる力もなく、巨体を引きずりながら、特区の闇へと消えていった。その背中は、あまりに哀れだった。

まるで、雨に叩かれた子犬のようで。


「……」

牛島は氷のように立ち尽くし、怪獣の気配が消えたのを確認すると、静かに膝をついた。

既に身体は、限界を迎えていた。

放射線による内部被曝。

熱によるダメージ。

そして——冷気を生成し続けたことによる、エネルギーの消耗。


「スゲェな! 牛島さん!」

駆け寄ったヒカリがその身を支える。


「……五分五分だったらしい。少し、出力を上げすぎた」

牛島は火傷の痛みを顔に出さず、ヒカリを冷たく射抜く。


「いいか、ヒカリ。お前の命は俺の管理下にある。……勝手に死ぬことは、俺という人間に対する侮辱だと思え。」


不器用な叱咤を吐き捨て、牛島は短刀を鞘に収めた。

「俺は、もう継戦できない。だから……後片付けは、お前の役目だ。

はちゃめちゃな期待はしていないが……無様な姿は見せるなよ。」


最強の男は、その不遜な誇りを崩さぬまま、隣の少年にすべてを託して目を閉じた。

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