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堕天【 FREEDOM’S CROWN 】 ~生きる為、怪物と契約した男~  作者: イチジク浣腸
聖桜教団編

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蹂躙

その時。


玉藻前の双眸に、劇的な変化が生じた。


爛々と輝いていた金色の瞳が—— みるみるうちに、深く、底の知れない色へと沈んでいく。


それは、嵐が去った後の凪のような静謐。 狂乱を脱し、理性がその身へと還った証だった。


「……なるほど」


玉藻前が、静かに、独り言ちた。


彼女の巨体が、ゆっくりとその動きを完全に止める。 もはやそこにあるのは、無差別に破壊を撒き散らすだけの自動機械ではない。


確固たる意思。 そして、すべてを見通す知性。 絶対的な「個」としての重圧が、その場を支配した。


「お前は——特別な存在だな」


玉藻前の千里眼が、碇を真っ向から射抜く。 視線という名の暴力。それは肉体を通り越し、碇誠太という人間の本質までも暴き立てていく。


「しかし、お前の中には——何もない。私と同じ孤独を、その身に宿しているな。」


玉藻前は、突き放すように碇を見つめる。 だが、次の瞬間。彼女の眉が、怪訝そうに動いた。


「いや——違うな」


その眼差しの奥で、知性の光がより鋭く研ぎ澄まされる。


「お前の中には——確かに『何か』が在る」


玉藻前の声が、地を這うように低く、重くなった。


「これは……何だ? お前が何者かに利用され、食い潰される未来が見える」


「……」


碇は、言葉を返すことができなかった。 玉藻前が告げた宣告は、あまりに遠く、あまりに不吉で——。 その真意を掴み取る術を、今の彼は持ち合わせてはいなかった。


だが——。


心の奥底で。 自分自身でも気づかぬほど深い場所で。


何かが、ざわめいた。


「そして——」


玉藻前の視線が、緩やかに、だが逃れがたい重圧を伴ってリリスへと向けられた。


「お前は、人間か? 千年という時を生きた私ですら、測りかねる」


「……」


その問いを投げかけられた瞬間、リリスの唇に浮かんでいた余裕の微笑が、綺麗さっぱりと消え失せた。


「お前は——」


玉藻前の千里眼が、今度はリリスという存在の深奥を暴き立てる。


「神でも、人間でもない」


そこに見えたものは、既存の概念では括りきれない異形の本質。


「もっと——深い、深淵よりも暗い闇……。これは、根源的な欲望か」


知性に満ちていた玉藻前の瞳が、みるみるうちに戦慄に染まっていく。日本の三大妖怪と謳われた彼女が、ただの一瞥でこれほどまでに動揺を見せるなど、あり得ぬはずの事態だった。


「お前——そうか、×◯×か....」


玉藻前の声が、恐怖で細く震えていた。


その言葉は、この世のいかなる法則にも属さない未知の響きを持っていた。碇が困惑に凍りつく中で、リリスは深く、艶やかに笑った。


「×◯×……?」


リリスの声が——


変わった。


低く。


深く。


人間とは思えない、何かが——


未知なる言葉を紡ぐ。


それは——


言語ではなかった。


概念そのものが、音となって響いているような——


恐ろしい、何かだった。


「ふふ…… ×◯×、かぁ」


リリスの体から——


黒い靄が、溢れ出す。


亀裂が、全身に広がる。


まるで、殻が割れるように。


「玉藻前」


リリスが——


否、中の何かが——


静かに、呟いた。


人の喉が紡ぐことのできる音色ではない。 永劫の時を生き、理の外側に君臨す「人ならざる者」のみが操る、異質の言の葉。


「お前の千里眼は、確かに優れている」


リリスの眼が——


変わる。


黒。


深い、深い黒。


まるで、宇宙其の物のような——


底の見通せない漆黒。


「だが——」


用心深い──猫のように

リリスが、玉藻前に近づいた。


一歩。


二歩。


リリスの周囲に停滞した空気が——


凍り始める。


いや——


ただ凍る、だけではない。


空気そのものが——


結晶化していく。


「お前如きの千年など——」


リリスが、玉藻前の眼前に立つ。


「私の時、に比べれば——瞬きにも満たんな」


リリスの手が——


玉藻前の頬に触れる。


その手は——


恐ろしく冷たかった。


玉藻前の頬が——


触れた部分から、凍り始める。


「千年程度の孤独で騒ぐな、小物め」


リリスの声が——


玉藻前の心に、突き刺さる。


「……っ」


玉藻前が——


初めて、恐怖に震えた。


この女——


いや、この存在は——


自分とは、次元が違う。


格が、違う。


キングクラウン——


狐型クラウンの頂点である自分が——


この存在の前では——


まるで、虫けらのようだ。


「だが——」


リリスが、微笑む。


「使い道ぐらいはある。お前のその矮小な力、俺の中でどう化けるか……精々、あの世から眺めているがいい。無価値な塵として朽ちるよりは、光栄だろう? クク……ハハハハハ!」


リリスの目が——


再び変わる。


黒から——


金色へ。


まるで、太陽のように輝く——


金色の瞳。


「さあ——」


リリスの手が——


玉藻前の額に触れる。


その瞬間——


玉藻前の体が——


光に包まれた。


「な……何を……!」


玉藻前が叫ぶ。


だが——


リリスの手は、離れない。


玉藻前の力が——


リリスに吸い取られていく。


「だから安心して」


リリスが、優しく微笑む。


「——死ね」


リリスの眼が——


一瞬だけ、碇を捉えた。


その目には——


何か、深い意味があった。


だが——


それが何なのかは——


誰にもわからなかった。


玉藻前の体が——


光の粒子となって、消えていく——


その時。


ゴォッ!


何かが——


空から、飛来した。


「——っ!?」


リリスが、咄嗟に手を離す。


そして——


巨大な影が——


玉藻前の首を掴んだ。


ゴキィッ!


玉藻前の首が——


折られる。


「ガッ——!?」


玉藻前が、断末魔の声を上げる。


そして——。


その影が、牙を剥いた。


漆黒の深淵が蠢き、玉藻前の巨体を足元から——喰らい始めた。


ガリガリガリッ、と。


静まり返った廃墟に、硬い骨が粉砕される不快な音が響き渡る。 強靭な肉が、まるで濡れた紙のように容易く引き裂かれていく。


かつてこの地を蹂躙した玉藻前の巨体が、今はただの「獲物」として、一方的に貪り食われていた。


「何……っ!?」


碇の喉から、震える叫びが漏れる。


やがて、その影が月光の下へと、ゆっくりとその異形を現した。


それは——巨大な、獣。 だが、そう呼称するにはあまりにもその存在感は神々しく、そして禍々しかった。


獣ではない。 それは、原初の荒々しさを宿した「動物」そのもの。


月光に照らされたそのシルエットは、この世の食物連鎖の頂点すらも超越した、絶対的な捕食者の姿であった。


だが——


その姿は——


歪んでいた。


まるで——


何かに、壊されたかのように。


理性を失い——


ただ、本能のままに——


喰らい続ける。


「クラウン……!」


江藤が、震える声で呟く。


氷室に治療されながら——


その獣を見上げる。


「あれは……動物、動物のクラウンなのか……!?」


その獣は——


玉藻前を喰らい尽くすと——


こちらを見た。


その目から——


何の知性も感じられない。


ただ——


飢渇だけがある。


「くっ……」


碇が、反射的に銃を構え直した。


だが——。


その獣は、物理法則を無視したような信じられない速さで地を蹴った。


ゴォッ!


空気が爆ぜる轟音と共に、巨大な質量が碇に向かって一直線に突進してくる。


「碇くん!」


リリスの鋭い叫びが響く。 だが、その速度はすでに常人の反応速度を凌駕し、リリスの支援すら間に合わない——。


その、死が肉薄した瞬間。


江藤が——動いた。


「……俺が」


掠れた、だが鉄のような意志を孕んだ声。 江藤は自分を治療していた氷室を突き飛ばすようにして退かせた。


そして、震える足で大地を踏み締め、重い刀を構える。


「止める……!」


江藤の体は、先ほどの打撃でいまだ満身創痍。一歩動くたびに傷口から血が滲むような状態だった。 だが、彼は止まらない。死線を踏み越え、迫り来る獣の巨躯を見据える。


江藤の刀が、限界を超えた速度で振り下ろされた——。


だが。


獣が振るった凶悪な爪が、真っ向からその一撃を捉えた。


ガキィン!


鼓膜を突き刺すような金属音が轟き、江藤の刀が、無残にも宙を舞った。


「……っ!」


江藤は武器を失ってもなお、退くことなく素手で構えを取った。


目前では、獣の巨大な顎が、彼を噛み砕かんと無慈悲に開かれる——。


だが、その瞬間。


リリスが——江藤の前に、立ちはだかった。


リリスの瞳が、劇的に変貌を遂げる。 慈愛を湛えていた金色の輝きは霧散し、底知れぬ「黒」へと塗り潰された。 それは光を一切反射しない、深淵よりも深い、暗黒。


リリスの槍から、絶対零度を越えた膨大な冷気が吹き荒れた。


「……ッ!」


獣が、凍りついた。 いや、それはもはや単なる凍結などという現象ではない。 肉が、骨が、その存在を構成する全粒子が、分子レベルで極低温の崩壊を始めていたのだ。


「消えろ」


地の底から響くような、氷海のごとき冷徹な宣告。 絶対的な力に気圧され、真の死の淵を覗いた獣は、もはや抗う術も、吠えることすら叶わない。 恐怖に突き動かされるまま、脱兎のごとくその場から逃げ出した。


「……」


リリスは、ただ静かに佇んでいる。


その全身を包んでいた禍々しい黒い靄が、名残惜しそうに消えていく。 同時に、彼女の肉体に刻まれていた不吉な亀裂も——ゆっくりと、何事もなかったかのように閉じていった。


「リリス……先輩」


碇が、呆然と呟く。


リリスが——


振り返る。


その顔には——


いつもの、穏やかな微笑みがあった。


リリスの目は——


もう、黒ではなかった。


普通の——


人間の瞳に戻っていた。


「大丈夫?碇くん」


その声は——


優しかった。


まるで——


先ほどまでの、あの恐ろしい何かが——


嘘だったかのように。


「……はい」


碇が、小さく頷く。


だが——


碇の心には——


深い、疑問が残っていた。


(リリスさんの目……黒かったな……)


(あれは、一体……)


リリスは——


地面を見る。


そこには——


玉藻前の神核だけが——


残っていた。


金色に輝く、美しい石。


リリスは、それを拾い上げる。


「……」


リリスの目が——


その石を見つめる。


その目には——


何か、深いものがあった。


「作戦——完了です」


リリスが、無線に報告する。


『了解。神崎班、よくやった。こちらも眷属は一掃できた。』


柳生の声が、聞こえる。


リリスは、玉藻前の核を——


静かに、懐にしまった。


「江藤、氷室」


リリスが、二人を見る。


「お疲れ様でした」


「……」


江藤が、小さく頷く。


「お二人とも——よく頑張りましたね」


氷室が、涙を浮かべる。


「でも……江藤さんが……」


「大丈夫だ」


江藤が、氷室の頭に手を置く。


「お前が....治してくれたから」


「……はい」


氷室が、小さく笑う。


────


エピローグ:新幹線の中


新幹線の中。


リリスは、窓の外を見ていた。


流れる景色。


京都から、東京へ。


リリスの手が——


懐に触れる。


そこには——


玉藻前の核がある。


金色に輝く、美しい結晶。


リリスの唇が——


わずかに、動いた。


何かを呟いている。


だが——


その声は、誰にも聞こえない。


リリスの目が——


座席で眠る碇を見る。


その目には——


何か、深いものがあった。


観察するような。


何かを測るような。


そして——


満足したように、目を細める。


リリスの手が——


碇の頭に、優しく触れる。


「よく頑張りましたね、碇くん」


リリスが、優しく微笑む。


「ゆっくり、休んでください」


その微笑みは——


母のように、優しかった。


だが——


その目の奥には——


何か、測り知れないものが——


静かに、潜んでいた。


隣の席では——


江藤が、腕を組んで眠っている。


氷室は——


江藤の隣で、医療キットを抱えたまま——


小さく寝息を立てている。


リリスは、窓の外を見る。


その表情は——


穏やかだった。


だが——


ガラスに映る彼女の顔は——


どこか、違って見えた。


まるで——


別の何かが、そこにいるかのように。


リリスの手が——


再び、懐に触れる。


玉藻前の核。


その小さな結晶が——


微かに、脈動している。


まるで——


生きているかのように。


リリスは——


小さく、笑った。


その笑みは——


誰にも、見えなかった。


─────


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