蠱毒
会議を終えた大神璽王は、その足で「特区」へと向かった。
そこは、東京の外れにある廃墟地帯。
とあるクラウンに当てられた影響で変異し、法からも神からも見捨てられた**「異端者」**たちが、互いを喰らい合う地獄の吹き溜まりだ。
崩れかけたビルの影から、複数の気配が大神を取り囲む。
「聖桜教団の白衣……。ハッ、笑わせるな。俺たちを『害虫』扱いして殺し回ってる連中が、何の用だ?自殺願望でもあるのか?」
闇に潜んでいたのは、この特区を支配する最強の「神契者」。 黒き甲殻を纏ったその巨躯は、まさに難攻不落の要塞。対峙する者を絶望させるに十分な威容を誇っていた。
───しかし、大神の瞳に恐怖の色は一切ない。
大神は無造作に、だが逃れようのない意志を込めて左手を掲げた。
「『跪け』」
薬指の指輪が、闇を焼き払うほど神々しい燐光を放ち、刹那、不気味な紫光へと変貌する。
次の瞬間、異端者のリーダーの全身が、異常なまでの筋収縮を起こす。 自慢の筋肉が牙を剥き、自らの骨格を粉砕する。制御不能の巨躯は、文字通り「叩き伏せられる」ように地面へと埋もれていった。
「ガ、アッ……!? なんだ、これ……!?」
「驚くことはありません。この指輪の効果は、君たちの体内の『クラウン因子』を介した神経系等への強制ジャックだ。脳が『殴れ』と命じても、私の指輪が『止まれ』と命じれば、君の身体は私に従う」
大神は動けない男の頭を靴で踏みつけ、周囲の異端者たちを冷たく見渡した。
「君たちは、今日から私の僕だ。公安と殺し合い、相打ちになって消えなさい。……『対消滅』。それが、ゴミである君たちに与えられた唯一の価値だ……と聖桜教団の奴らは言うだろうね。だが、安心してくれ。国を乗っ取った暁には君たちを解放しようじゃないか。」
涙を流しながらも、指輪の命令によって口角を吊り上げ、「歓迎の笑顔」を作らされる異端者たち。
大神の手によって、特区は静かな、狂気の軍隊へと変貌した。
大神は、支配した異端者たちを一列に並ばせ、冷徹な目で品定めをする。
「うーむ……君は使える。君も。君も」
指を指された数名の異端者が、操られるままに大神の元へと歩み寄る。
全身が炎に包まれた力を与えられた者。
影を自在に操る力を与えられた者。
金属を意のままに操る力を与えられた者。
特区の中でも、特に強力なクラウンと契約して力を得た者たちだ。
「君たちは、私と共に来なさい。もっと重要な仕事がある」
大神が命じる。
選ばれた異端者たちが、大神の後ろに並ぶ。
そして——
残された者たちを見渡す。
「君たちは、待機だ。....いや、一丁殺し合うんだ。
....害虫同士、食い合え。
生き残った強者は外の世界へ連れ出そうじゃないか。」
「……」
操られた異端者たちが、無言で頷く。
その瞬間、あたりは悲鳴と血飛沫で染まり始めた。
大神は、選抜した精鋭たちを引き連れ、特区を後にした。
その時——
特区の最深部から、地鳴りのような振動が響いた。
大神は、足を止める。
(……何だ、これは)
地面が揺れる。
廃ビルのガラスに亀裂が入り始める。
そして——
地の底から、何かが目覚めようとしていた。
大神は、その気配を感じ取り、冷たく笑った。
「なるほど……。まだ、こんなものが眠っていたのか……」
彼は、さらに歩みを速める。
「神は私に味方しているのか?ちょうどいい。彼を招待しよう。これは彼への『餞別』にしよう。ワンチャン殺せるね」
大神は、精鋭たちを連れて特区を完全に離脱した。
その背後で——
地の底から、低い咆哮が響いた。




