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堕天【 FREEDOM’S CROWN 】 ~生きる為、怪物と契約した男~  作者: イチジク浣腸
聖桜教団編

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前哨戦



警察庁。


最上階の会議室。


長いテーブルを囲んで、スーツ姿の男たちが座っていた。


公安部の幹部たちだ。


テーブルの中央には、大型モニターが設置されている。


画面には——セフィラ、国際超常現象対策機構のロゴが映し出されていた。


「——本日のセフィラ定例会議を開始する」


モニターから声が流れる。


画面が切り替わり、各国の代表者たちの顔が映し出される。


西側——アメリカ、イギリス、フランス、日本。


東側——ナチスドイツ、中華民国、ロシア共和国。


世界は未だ、二つの陣営に分かれている。


自由主義と民主主義の西側。


ファシズム、国家社会主義の東側。


東西冷戦は落ち着きつつあるが、2020年代に入っても続いている。


第二次大戦でナチスはソ連を破り、モスクワを含む西側ロシアを東方生存圏として併合した。


残されたシベリアには、ナチスの傀儡政権・ロシア共和国が成立している。


だが——クラウンという共通の脅威を前に、両陣営は情報を共有せざるを得なかった。


「議題は前回と同じ、各国におけるクラウン対策の進捗状況について」


司会役のイギリス代表が言う。


画面には、各国の代表が映し出されている。


互いに敵対する国々だが、この場では表面上の礼儀を保っている。


「まず、アメリカから報告を」


『ニューヨーク支部です。先月比で超常存在の出現頻度が15%増加。特にConquest Fiendの活動が活発化しています』


アメリカは独自の呼称を使う。クラウンを「Fiend(悪霊)」と呼ぶ。


「ヨーロッパは、まず我々から。」


『こちら、ロンドン支部『監視局』。報告します。霧の神の発現が市内で多発。現時点では、直接的な『臨界事象クリティカル・イベント』、すなわち大規模被害は確認されていません。』


「フランスは?」


『パリ支部。処刑の神が再び活動を開始。市民への被害は避けられていますが、警戒レベルを引き上げています』


次に——東側の報告。


「ドイツからの報告は?」


画面に、ナチスドイツの代表が映る。


鷲の紋章を胸につけた、厳格な顔つきの男だ。


背後には、ハーケンクロイツの旗が見える。


『ベルリン支部です。鉄の神が東方生存圏で確認されています。対処は完了しました。』


東方生存圏——かつてのモスクワを含む、ナチスが併合した旧ソ連領。


ドイツ代表の声は、冷たく機械的だった。


「中華民国は?」


『北京支部。龍の神が活動中。我が国の特殊部隊が対応しています』


中華民国の代表——青天白日満地紅旗を背にした男が答える。


「ロシア共和国は?」


『ウラジオストク支部。霜の神がシベリアで目撃されています。調査中です』


ロシア共和国——かつてのソビエト連邦の残滓。


第二次大戦でナチスに敗北し、モスクワを含む西側を奪われた。


残されたシベリアに、ナチスの傀儡政権として成立した国だ。


形式上は独立国家だが、実質的にはナチスの支配下にある。


次々と報告が続く。


日本側の幹部たちは、メモを取りながら聞いていた。


そして——


「次に、日本からの報告を」


司会が言った。


日本側の幹部の一人が立ち上がる。


「日本からは、前回予告した通り——特殊なケースについて報告いたします」


画面に、資料が映し出される。


『クラウンとの合一化に成功した人間』


その文字を見て、各国の代表たちがざわめいた。


西側も、東側も——全員が食い入るように画面を見つめる。


「前回の会議で概要をお伝えしましたが、本日は詳細なデータを共有いたします」


幹部が資料をスクロールする。


『対象者:ヒカリ(仮名)』


『年齢:推定16歳』


『契約神:自由の神・ルシファー』


『特異性:クラウンとの完全な合一化。これまでに確認された事例はなし』


『能力:変身による身体能力の飛躍的向上、高速移動など』


『戦闘データ:添付資料参照』


画面には、ヒカリの変身した姿——黒い翼と光の角を持つ、異形の姿が映し出される。


北海道での戦闘映像も流される。


熊の神・ウェンカムイとの戦闘。


圧倒的な力で神を押し返すヒカリの姿。


各国の代表たちが、沈黙したまま画面を見つめていた。


『……驚異的だ』


アメリカ代表が呟く。


『我々も似たようなケースを探っているが......発見にはいたっていない。』


ドイツ代表が、興味深そうに——いや、飢えたような目で画面を見つめる。


『この対象者は、どのように管理されている?』


中華民国代表が尋ねる。


「現在は、警視庁公安部の管理下にあります。厳重な監視体制を敷いております」


幹部が答える。


『このデータは....各国で本当に、共有してよろしいのか?』


イギリス代表が確認する。


「はい。セフィラの原則に基づき、情報は共有いたします」


幹部が頷く。


画面の向こうで——


ドイツ代表と中華民国代表が、一瞬視線を交わした。


会議室の隅——


牛島が、じっと画面を見つめていた。


拳を握りしめている。


(馬鹿げている……)


心の中で毒づく。


(奴らは、ヒカリを研究材料としか見ていない)


牛島は、前回の会議で反対した。


ヒカリの詳細情報を他国に晒すことの危険性を指摘した。


特に——東側に対して。


ナチスドイツ。中華民国。


彼らは、手段を選ばない。


だが——上司たちは聞く耳を持たなかった。


「国際協力の時代だ」


「透明性を持って行動しなければならない」


「この冷戦は終わりつつある。我々も協力すべきだ。」


そう言われて、押し切られた。


(奴らは、実績の数でしか人を見ない)


牛島の脳裏に、ある懸念が浮かぶ。


断片的な諜報情報だが、ドイツが何らかの研究を行っているという噂がある。


人間を神にする計画。


《ハヴァ計画》という暗号名で呼ばれている。


真偽は不明だ。証拠もない。


だが、牛島の直感が警告を発していた。


(もし本当なら、ヒカリのような存在は格好の研究材料になる)


会議が終わり、通信が切れる。


幹部たちが満足そうに頷き合っている。


「これで各国との連携が深まる」


「素晴らしい成果だ」


「冷戦が終われば、世界は平和になる」


牛島は、黙って立ち上がった。


(平和?笑わせるな)


そして——


会議室を出る前に、一度だけ振り返った。


(ヒカリを、絶対に他国の手に渡してはならない)


決意を新たにする。


-----



翌日。


牛島は、上司たちを集めて話をした。


「ヒカリの監視体制について、提言があります」


「何だ、牛島」


上司が面倒くさそうに言う。


「ヒカリの監視を、私に一任していただきたい」


「……何?」


「地下に閉じ込めておくのは、資源の無駄です。奴には、もっと有効な使い道がある」


「しかし、ヒカリは危険だ。暴走したら——」


「暴走したら、私が殺します」


牛島が即答した。


「……!」


「それは前から決まってることでしょう。ヒカリが裏切ったり暴れたりしたら、私が殺す。それが取り決めです」


牛島が上司たちを見回す。


「だから、監視も私に任せてください。あなた方はどうせ何もできやしない」


「貴様……!」


一人の上司が激昂する。


「何様のつもりだ!」


「事実を言ってるだけです」


牛島が肩をすくめる。


「あなた方は、平和ボケしている。争いが起きないと思い込んでいる。危機感が欠如している。」


「……」


「聖桜教団は、また動きます。次は、もっと大規模な攻撃がきっと来る」


牛島が声を落とす。


「その時——ヒカリという戦力を、無駄にしないでください」


「……」


上司たちは、黙り込んだ。


しばらくの沈黙の後——


「……分かった」


一人の上司が、重い口を開いた。


「牛島、お前に任せる。ヒカリの監視は、お前が管理しろ」


「了解しました」


牛島が頷く。


「ただし——セフィラへの報告は、今後も継続する」


「……勝手にしてください」


牛島が吐き捨てる。


「だが、今後は詳細を伏せることをお勧めします。ヒカリの能力の全容を、これ以上晒さないでください」


「……検討する」


上司が曖昧に答える。


牛島は、それ以上何も言わずに会議室を出た。


-----



霞ヶ関。


警視庁の地下極秘フロア。


ヒカリは、自室のベッドに寝転がっていた。


「……暇だな」


天井を見つめる。


ここに来てから、どれくらい経っただろう。


時間の感覚が、曖昧になってきている。


その時——


ドアがノックされた。


「入れ」


ヒカリが起き上がる。


ドアが開き、牛島が入ってきた。


「よう」


「話がある」


牛島が椅子に座る。


「ヒカリ、ここから出られることになった」


「……は?」


ヒカリが目を丸くする。


「マジで?」


「ああ」


牛島が頷く。


「上と交渉した。監視体制を緩和する代わりに、私がお前を管理する」


「管理って……」


「ヒカリと同居する」


「は?」


ヒカリが素っ頓狂な声を出す。


「同居って、アンタと?」


「そうだ」


牛島が腕を組む。


「ヒカリの行動は、俺が監視する」


「……」


「それと——もしお前が暴走したら、俺がすぐに殺す」


牛島が真剣な顔で言う。


「それが条件だ」


「……」


ヒカリは、しばらく黙っていた。


そして——


「……まあ、いいか」


「いいのか?」


「地下よりはマシだろ」


ヒカリが笑う。


「それに、アンタとなら——退屈はしなさそうだ」


「……そうか」


牛島が立ち上がる。


「じゃあ、荷物をまとめろ。明日、引っ越しだ」


「了解」


ヒカリが頷く。


牛島が部屋を出ていく。


ヒカリは、天井を見上げた。


(……地上か)


(良いじゃん。)


-----



翌日。


ヒカリは段ボール箱を抱えて、エレベーターに乗り込んだ。


「これで最後だな」


呟きながら、荷物を確認する。


服、本、プリクラの入った財布——たったそれだけだ。


地下での生活は、もう終わりだ。


ヒカリはエレベーターのボタンを押す。


地上階へ。


-----



東京都内、とあるマンション。


一般の住人も暮らす、ごく普通のマンションに見える。


だが、ここには警察関係者が多く住んでいる。


ヒカリの部屋は、3階の角部屋だった。


隣——というか、同じフロアの隣の部屋には、牛島が住んでいる。


「着いたぞ」


牛島がヒカリに鍵を渡す。


「これがお前の部屋だ」


「サンキュ」


ヒカリが鍵を受け取り、ドアを開ける。


中は——


シンプルな1Kの部屋だ。


ベッド、机、クローゼット。


最低限の家具が揃っている。


「……悪くねぇ」


ヒカリが呟く。


「ルールは分かってるな?」


牛島が腕を組む。


「外出時は連絡、門限は夜10時、暴れたら即座にアンタが殺しに来る」


「そうだな」


牛島が頷く。


「それと——何か困ったことがあったら、すぐに俺に言え」


「……あんた、意外と優しいんだな」


「勘違いするな。ヒカリが問題を起こせば、俺の責任になるんだ。だから先回りして潰すだけさ。加えて俺の後輩が心配性なんでね。」


「あ〜、はいはい」


ヒカリは笑って、部屋に荷物を置いた。


-----



引っ越しから数日が経った。


ヒカリは、少しづつ新しい生活に慣れてきていた。


朝は牛島と一緒に朝食を取り、午後は訓練施設で体を動かす。


夜は部屋で漫画を読むか、スマホをいじるか。


平凡な日常——だが、ヒカリにとっては新鮮だった。


そして、今日は久しぶりの休日だった。


「買い物でも行くか」


ヒカリは部屋を出て、牛島の部屋のドアをノックした。


「牛島さんよ〜、買い物行ってくるわ」


「待て」


ドアが開き、牛島が顔を出す。


「どこに行くんだ?」


「どうせGPSか何かでわかんだろ?はぁ...渋谷あたりだよ。服買いたいし」


「……分かった。夕方6時までには戻れ」


「...了解」


ヒカリは軽く手を振って、マンションを出た。


-----



午前10時30分。


ヒカリは丸ノ内線の電車に乗っていた。


休日ということもあり、車内はそこそこ混んでいる。


家族連れ、カップル、学生。


みんな、楽しそうに話している。


ヒカリはイヤホンを耳に入れ、音楽を聴いていた。


(平和だな……)


ぼんやりと窓の外を眺める。


電車は地下を走り、次の駅へ向かう。


その時——


車内のアナウンスが流れた。


『次は、霞ヶ関、霞ヶ関です』


霞ヶ関駅。


官庁街の最寄り駅だ。


ヒカリは、少しだけ表情を曇らせた。


(…はぁ、この近くだな。嫌な事思い出した、休みなのに。)


電車が減速し、ホームに滑り込む。


ドアが開く。


何人かの乗客が降り、新しい乗客が乗ってくる。


その中に——


一人の男がいた。


面を被り、大きなバッグを抱えている。


顔は見えない。


ヒカリは、一瞬だけその男に目をやった。


(……?)


何か、嫌な予感がした。


男の動きが——不自然だ。


周囲を警戒するような、怯えたような——そんな雰囲気。


(……まさかな)


ヒカリは視線を外す。


だが、警戒は解かなかった。


ドアが閉まる。


電車が動き出す。


-----



電車が次の駅に向かって走り出した、その数秒後——


車内に、異様な臭いが漂い始めた。


「……ん?」


ヒカリが顔をしかめる。


刺激臭。


鼻をつく、何かが焦げたような臭い。


「なんだコレ……」


周囲の乗客も気づき始めた。


「なんか臭くない?」


「うわ、何この匂い……」


ざわざわと、車内が騒がしくなる。


そして——


「うっ……!」


一人の女性が咳き込んだ。


「げほっ……げほっ……!」


次々と、乗客が咳き込み始める。


「な、何……!?」


「目が……目が痛い……!」


「息が……苦しい……!」


パニックが広がる。


ヒカリも、目に激痛が走った。


「……チッ」


涙が溢れる。


呼吸が苦しい。


喉が焼けるように痛い。


(毒ガスか)


ヒカリは咄嗟にシャツで口と鼻を覆った。


しかし、すでに遅い。


車内は、毒ガスで満たされている。


乗客たちが次々と倒れていく。


「助けて……!」


「誰か……!」


悲鳴が響く。


ヒカリは、視線を巡らせた。


そして——


見つけた。


床に転がる、ビニール袋。


その中から、液体が漏れ出している。


液体が空気に触れ、気化している。


それが——毒ガスの正体だ。


「……」


ヒカリは、お面の男を探す。


もういなかった。


(クソっ)


ヒカリは、冷静に状況を判断する。


(次の駅まで、あと2分くらいか?)


(それまでに——できることは)


ヒカリは、床に転がるビニール袋に近づいた。


他の乗客は倒れている。


誰も動けない。


ヒカリは息を止め、ビニール袋を掴んだ。


(……熱ィ)


液体が手につく。


皮膚がじりじりと焼けるような痛み。


だが——ヒカリは動じなかった。


痛みのブレーキが、壊れている。


ヒカリはビニール袋を、窓の隅に押し込んだ。


少しでも、拡散を防ぐために。


そして——


電車が、次の駅に到着した。


-----



ドアが開く。


乗客たちが、必死にホームへ逃げ出す。


「助けて……!」


「誰か……医者を……!」


ホームは、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


倒れている人。


咳き込んでいる人。


嘔吐している人。


ヒカリも、ホームに降りた。


「げほっ……」


視界がぼやける。


涙が止まらない。


だが——意識は、はっきりしていた。


(……まだ動けんな)


ヒカリは、駅員に声をかけた。


「毒ガスだ‼︎換気‼︎」


「え、あっ、はい!」


駅員が慌てて無線を取り出す。


ヒカリは、周囲を見回す。


倒れている人々。


その中に——


子供がいた。


小学生くらいの男の子。


意識がない。


「……チッ。マジかよ。」


ヒカリは、子供の元へ駆け寄った。


呼吸を確認する。


弱いが——ある。


「おい、誰か救急車呼んだか!?」


ヒカリが叫ぶ。


「呼びました!もうすぐ来ます!」


駅員が答える。


「……よし」


ヒカリは、子供を抱き上げた。


そして——


ホームの端、換気口の近くに運ぶ。


少しでも空気の良い場所へ。


「……頑張れ」


ヒカリが呟く。


その時——


ヒカリの視界が、ぐらりと揺れた。


「……ん?」


膝をつく。


体が重い。


毒ガスの影響が、じわじわと効いてきている。


(……畜生、クソっタレ。)


ヒカリは、壁にもたれかかった。


意識が遠のく。


そして——


倒れた。


-----



東京メトロは、すぐに全線を停止した。


消防、警察、救急が現場に急行する。


防護服を着た隊員たちが、駅構内に突入する。


「被害者多数!」


「毒物の特定を急げ!」


「換気を最優先に!」


怒号が飛び交う。


ヒカリは、担架で運ばれた。


意識は朦朧としている。


(……くそ、またかよ。)


救急車に乗せられる。


サイレンの音が、耳に響く。


そして——


病院へと搬送された。


-----



その日の午後。


全国のニュースで、事件が報じられた。


『東京メトロ丸ノ内線で、毒ガステロ発生』


『死者13人、負傷者数十人』


『犯人は逃走中』


『使用された毒物は、神経ガスの一種と見られる』


テレビ画面には、駅の映像が映し出される。


防護服を着た隊員。


担架で運ばれる被害者。


パニックに陥る人々。


日本中が、震撼した。


-----



ヒカリは、病院のベッドで目を覚ました。


「……ここは」


視界がぼやける。


酸素マスクが顔についている。


「気がついたか」


声がした。


ヒカリが顔を向けると、牛島が立っていた。


「牛島さん……」


「無事で良かった」


牛島が椅子に座る。


「毒ガステロに巻き込まれたそうだな」


「……ああ。やられたなぁ」


ヒカリが苦笑する。


「犯人は?」


「逃げた」


牛島が苦い表情をする。


「お面の男が、車内にビニール袋を置いて逃げた。中身は、VXガスに似た化学物質だ」


「VXガス……」


「神経ガスの一種だ。殺傷力が極めて高い」


牛島が腕を組む。


「死者は13人。ヒカリを含め、数十人が病院に搬送された」


「……チッ」


ヒカリが拳を握る。


「また聖桜教団か?」


「俺の予想では、おそらく」


牛島が頷く。


「犯行声明が出た。『神に頼らぬ国を』だそうだ。

裏に奴らが居るのはまず間違いない。」


「……」


「ヒカリも、標的だろうな。」


牛島が真剣な顔をする。


「クラウンと合一した存在——奴らにとって、最も邪魔な存在だ」


「……だろうな」


ヒカリが天井を見つめる。


「望月も、斎藤も——奴らに殺された」


「……ああ」


牛島が頷く。


「今回のテロも、警告だろうな。次は——もっと大規模な攻撃が来る」


「……」


「ヒカリは、しばらく安静にしてろ。動けるようになったら、また連絡する」


牛島が立ち上がる。


「それと——」


「ん?」


「子供を助けたそうだな」


牛島が、少し笑った。


「碇の言う通り...キミは人間だ。」


「……うるせぇ」


ヒカリが顔を背ける。


牛島が部屋を出ていく。


ヒカリは、天井を見つめた。


(聖桜教団……)


(許さねぇ)


-----


ヒカリは、ベッドで横になっていた。


体はまだ重い。


スマホが鳴る。


イヴからのメッセージだった。


『ニュース見たよ。大丈夫?』


ヒカリは、返信する。


『大丈夫。ちょっと巻き込まれただけだし。』


『心配したよ。無事で良かったよ。』


『ありがとな』


ヒカリは、少し笑った。


(イヴ……)


もう一度、メッセージを打つ。


『落ち着いたら、またどっか行こうな』


『うん。楽しみにしてる』


ヒカリは、スマホを置いた。


窓の外を見る。


夜の東京。


いつもと変わらない景色。


だが——


この平和は、脆い。


いつ崩れるか分からない。


(俺が守る……)


ヒカリは、静かに決意した。


-----


その頃。


東京郊外の、とある建物。


聖桜教団の本部だ。


広い会議室に、数人の男女が集まっていた。


中央の豪華な椅子に、一人の男が座っている。


白い法衣を着た、50代の男。


教団のリーダー——山本匡夫やまもと・まさおだ。


丸い顔に、油じみた笑顔。


その両脇には、若い女性信者が二人、寄り添っている。


「いやぁ、大成功だったな!」


山本が高笑いする。


「死者13人!負傷者数十人!素晴らしい成果だ!」


女性信者たちが、山本を持ち上げる。


「さすが教祖様です」


「教祖様のご英断のおかげです」


「はっはっは!そうだろう、そうだろう!今夜は楽しみにしておけ!」


山本が女性の肩を抱く。


会議室の隅——


一人の男が、静かに立っていた。


穏やかで知的な雰囲気を纏った、三十前半の男。


白いシャツに黒いスラックス。


教師のような、落ち着いた佇まい。


大神璽王おおがみ・じおう


教団の「支援者」として、会議に出席している。


「大神さん、どうだった?」


山本が大神に声をかける。


「素晴らしい成果でした」


大神が穏やかに微笑む。


「これで——公安の目を逸らすことができました」


「そうだろう、そうだろう!」


山本が得意げに笑う。


「公安は、俺たちのアジトを特定しつつあるらしいんだ。強制捜査も近いってよ」


「ええ」


大神が頷く。


「だからこそ——今回のテロが必要だったのです」


「地下鉄で大混乱を引き起こせば、警察の目はそっちに向く!俺たちへの捜査は、先延ばしだ!」


山本が拳を振り上げる。


「はっはっは!俺って天才じゃねぇか!」


「……」


大神は、何も言わず微笑んでいる。


目は、笑っていなかった。


「で、次はどうするんだ?」


山本が大神に尋ねる。


「次は——もっと大規模に行きましょう」


大神が地図を広げる。


「邪魔者を根絶やしにします。」


「ターゲットは?」


「標的は変わらず『神性事案対策部』です。そのために、陽動と本命を分けました。

まずガスを撒いた。あれで捜査は混線し、現場は無意味に騒がしくなった。十分でしょう。重要なのは、その先です」


大神はレーザーポインターを走らせ、古びた地図の片隅――都市の“汚点”のような一点で止めた。


「この『特区』。表向きは管理区域ですが、実態は違う。

クラウンが定着し、繁殖し、支配している地帯です。人間が主導権を失った時点で、あそこは都市ではなく“巣”になった」


淡々と続ける。


「内部に残っているのは、クラウンの影響を受けた潜在的な神契者――通称『異端者ヘレティクス』。

または、犯罪者や体制から弾き出された者たち。国に居場所を失い、流れ着いた残骸です。」


わずかに口角が動く。

それは嘲笑ではない。評価ですらなかった。


「自制も理性も持たず、自分を特別だと誤認した失敗作の群れ。

救済の対象ではありません。

教義上、存在そのものが誤りであるゴミ共。」


間を置き、淡々と続ける。

「もっとも、ただ廃棄するのは非効率ですがね。

――ゴミでも、燃やせば熱にはなる。」


一拍置き、言い直す。

「なので、利用させてもらいましょう。

最前線に放り込む。弾薬として、です」


赤い点が東京全域へと滑る。


「異端者に同時多発的な行動を起こさせる。制御不能な害獣が街に散れば、公安は否応なく対応に追われる。

結果、敵と生きる価値のない塵芥が同時に摩耗する。互いに噛み合い、潰し合う――『対消滅戦術アンチ・マター・タクティクス』」


大神の声は、終始一定だった。

「我々は手を汚さない。

異端者は役目を果たして消える。公安も同時に削れる。

首都機能は麻痺し、東京は一時的に“空白”になる」


レーザーが消える。


「その後で、山本先生に立っていただく。この国の上に、正しい秩序として。

ガス事件により、神性対策部の視線は、無駄な方向に引き裂かれている。連中は気づかない。東京が最初から“奴らの墓場”として指定されていたことに。」

静かに、結論だけが落とされた。


「――Xデーは近い」


「フハッ……最高だ!その熱狂、この血が滾るのを止められん!」


山本が興奮する。


「神契者なんて、化け物どもだ!全員殺しちまえ!」


「……その通りです」


大神が穏やかに言う。


「神に頼らぬ国を——我々の手で作りましょう」


「そうだ、そうだ!」


山本が、ゆっくりと立ち上がる。


「神に縋る連中は、みんな同じだ。

考えることを放棄して、責任を投げ捨てている」


一拍、間を置く。


「この国を動かすのは、神じゃない。

――俺たち人間だ。日本人だ。」


空気が震えた。


女性信者の一人が、恍惚とした声で呟く。


「……やっぱり、教祖様は分かっていらっしゃる」


──それが合図だった。

誰も拍手はしない。

ただ、同じ言葉が静かに重なっていく。


「正しい」


「間違いない」


「教祖様は、いつも正しい」


山本が満足そうに笑う。


大神は——


静かに、その様子を見つめていた。


穏やかな笑顔を浮かべたまま。


(愚かな男だ)


心の中で、冷徹に思う。


(だが——利用価値はある)


大神の目には、暗い炎が宿っていた。


山本は、気づいていた。


自分が——大神に利用されていることを。


だが——逆らえない。


大神の背後には、何かがある。


──圧倒的な暴力。

──逃れることの出来ない危機。

それは、DNAにまで刻まれた原初の恐怖だ。


山本は、それを感じ取っていた。


だから——従うしかない。


大神の言う通りに動くしかない。


「じゃあ、次の作戦の準備を進めよう!」


山本が声を上げる。


「公安共を、一掃してやる!」


「……はい」


信者たちが頷く。


大神は、静かに微笑んでいた。

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#異能バトル #グロ描写 #ダークファンタジー #現代ファンタジー #サスペンス #群像劇 #裏社会 #犠牲 #ヒーロー #アクション #グロ描写 #男主人公#サイコスリラー #宗教描写 #ローファンタジー #怪物#チート #国家 #戦争
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