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堕天/FREEDOM’S CROWN  作者: イチジク
もう目覚めたから

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30/40

何でもないような事(日常)

とある日の休日――その響きだけで、空気が少し緩む。時計の針はゆっくりと、でも確実に進んでいる。窓の外では柔らかな陽光が街路を撫で、店の前を通り過ぎる人々の足音は、まるで小さな音楽のように溶け込む。


「トマトなんて、人の食べるものじゃない」


ヒルメがカウンター席でぽつりと呟いた。


「えー、そんなこと言う?」イヴが店の奥からひょっこり顔を出す。「トマト美味しいのに。じゃあさ、トマトって誰が食べるの? 妖精? 宇宙人?」


「知らない。とにかく、私は絶対食べない」


昼下がりの店内は静かだった。客はヒルメ一人。イヴは暇そうにカウンターに肘をついて、ヒルメの横に座る。


「店長に見つかったら怒られるよ」


「大丈夫大丈夫。今、店長いないし」イヴはにやりと笑った。「それにさ、お客さん一人しかいないんだもん。接客してるって言えば問題なし」


「これは、接客じゃないでしょ」


「ちっちゃい事は気にするな〜」


イヴは自由奔放だ。店員なのに、こうして平気で客の隣に座る。でも不思議と、ヒルメは嫌な気がしなかった。


付き合いはまだ短い。でも、気が合う。


「ねえねえ、ヒルメ」


「何?」


「太りそうなもの苦手なんでしょ? なのに大食いって、どういうこと?」

「…矛盾してないかなぁ?」


ヒルメは少し恥ずかしそうに答えた。「...たくさん食べるからこそ、気をつけないといけないの」


「なるほどね。じゃあさ」イヴが立ち上がって、冷凍庫の方へ向かう。「これならいいよね?店長のお気に入り!」


手に持っていたのは、氷菓だった。


**「…店長には内緒?」**


ヒルメの目が少しだけ輝く。


「もちろん!」イヴはウインクした。「あんこ入りだよ。最近好きなんでしょ?」


「…誰から聞いたの」


「ヒカリ。この前来た時に教えてくれた」


ヒルメは少し頬を赤らめた。「あのバカ…」


「偉い、偉いじゃん!嫌いだったのに、あんこ。」イヴは二本の氷菓を持ってきて、一本をヒルメに差し出す。「人って変わるんだねぇ」


「イヴは変わらなさそう」


「そう? まあ、私は相も変わらず、刹那主義だからね」

イヴはケラケラ笑いながら氷菓の包みを破る。

「今が楽しければそれでいいの。今を精一杯いきたいな。」


二人は並んでカウンターに座り、氷菓を食べた。


店の窓から日差しが差し込んで、ヒルメの短い黒髪を照らす。ヒルメは気持ちよさそうに目を細めた。


「日光浴、好きだよね」


「うん…こういう時間が好き」


「ヒルメって狼っぽいよね。鋭い目つきとか、日向ぼっことか。」


「そう?」


「あ、じゃあさ」イヴがニヤリと笑う。「狼はトマト食べないよね。だからヒルメもトマト嫌いなんだ。つまり、ヒルメは狼! QED 証明完了‼︎」


「…何それ」


「つまんない?」


「...すごくつまらない」


「あははは!」イヴは楽しそうに笑った。


ヒルメも少しだけ笑った。イヴの言動は本当につまらないけど、なぜか嫌いじゃない。なんだかぽかぽかした気持ちになる。


イヴは活発で明るくて、自分とは正反対だ。おちゃらけているようで、時々妙に達観したことを言う。飄々としていて、本心がどこにあるのか分からない。


でも、一緒にいて心地が良い。


「あーあ、お客さん来ちゃった。」イヴが窓の外を見て立ち上がる。「じゃ、ちゃんと仕事するね」


「うん」


「アイスは…まあ、内緒ってことで」イヴはウインクして、カウンターの向こうに戻った。


ヒルメは残りの氷菓を食べながら、窓の外を眺めた。


日差しが暖かい。


穏やかな午後だった。

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