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堕天【 FREEDOM’S CROWN 】 ~生きる為、怪物と契約した男~  作者: イチジク浣腸
聖桜教団編

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30/65

自由だ

午後十一時、東京の路地。黒いバンが息を殺して停まっている。

窓越し、カメラはゆっくりと車内へ侵入する。フードを深く被った男の腕が映る。腕時計の針が「カチッ」と小さく刻むたび、室内の空気が張る。

「…クソだ。屈辱。」

男は呟く。隣には黒い戦闘服、覆面を被った部下が腰掛けている。色のない街灯が二人の輪郭を引き締め、ネオンの残光が遠くで揺れている。二人とも、教団の指示に金で従っている傭兵だ ―― 立場は仕事、忠誠心は札束の厚みだけ。誠意は金。

「あの、次の指示は?」覆面が平坦に訊く。

フード男は腕時計を見やり、時間を噛みしめるように答える。

「待機だ。雑魚には理解できないんだろうが、牛島純一は規格外だ。ヤツを正面から討てる奴などいない。...やりづらいな、不自由だ。」

覆面は短く頷く。情報と金が仕事を回す世界。計画はいつも冷徹である。

「じゃ、どうするんです?」

「別の方法を考えるしかないな。

まぁ、どの道ヒカリを捕獲する。それが俺達の目的だろ?」

答えは簡潔だ。目的があるから手段がある。二人の視線は窓外の灰色の東京へと流れ、通りを行き交うシルエットをなぞる。

リーダーであるフード男の目が遠くを射抜く。小さな笑みが滲んだようで、すぐ消えた。

「全てを利用し、この世の王になる。それが、俺の天命。」

バンは静かに動き出す。テールライトが赤い点のように夜へ溶け、影が街に溶け込む。カメラはゆっくりと引いていき、二人の背中をフレームに残したまま画面が暗転する。


────


訳あって入院していたヒカリ。

仕事終わりの夕、なんとなく。

灯るいつもの店へと足を運んだ。

「...ヒカリくん!」

イヴが明るい声で迎えてくれた。しかし、すぐに探るような視線をじーっとヒカリに向ける。

「名探偵イヴちゃんの目は誤魔化せませんぞ!...最近来なかったけど、何かあったの?」

「はっはははっ、ははっ、なんもねぇよ……元気100倍」

ヒカリは笑った――口先だけの笑みで、心の奥のざわめきを隠すように。

イヴはしばらくヒカリの顔を見つめていたが、それ以上は追及せず、ふっと表情を和らげた。

「……じゃあさ、明日、遊びに行こっか」

「え?」

「ダメ? 明日、空いてるでしょ?」

突然の誘いに、ヒカリは一瞬口元を歪め、軽く笑った。

「へっ……別に、どうってことない。大丈夫」

「じゃあ決まり!楽しみにしてるからね〜」

イヴの笑顔を見て、ヒカリの胸が不意に高鳴る。

その夜。

休日の空は暗雲に覆われ、雨が降り注いでいた。

ヒカリは碇の家で、薄暗い天井をぼんやり見上げ、頭の後ろで手を組む。イヴの言葉を何度も反芻しながら。

碇の家にいる理由は簡単だ。今日は碇とホラーゲームをするつもりだから。

「遊びに行こっか……」

言葉が胸の奥で弾けた。心臓が急に早鐘を打ち、体がふっと軽くなる。部屋にいることが耐えられなくなり、ヒカリは傘も持たずに戸を開け放った。

「おい、ヒカリ、ご飯ができ……あれ?」

廊下に残った碇の声は途中で途切れ、雨の音がそれを飲み込む。ヒカリは止まらなかった。

雨に濡れながら、繁華街を歩く。まだ人通りは多い。傘をさした人々が行き交っている。

「はは……ははは!俺は自由だ!」

嬉しさのあまり、自然と体が動き出す。抑えきれない感情が溢れ出す。

雨の中、ヒカリは踊り始めた。

ステップを踏み、腕を広げ、くるくると回る。人混みの中で、ただ一人、雨に打たれながら。

「明日が……楽しみだ!」

周囲の視線が集まる。

「……なに、あの人」

「雨の中で踊ってるよ……」

「ヤバくない?」

「関わらない方がいいって……」

「俺ダンサーだけどなんだアレ!?」

奇怪なものを見るような目。ヒソヒソと交わされる陰口。

しかしヒカリは気にしない。いや、気にする余裕もないほど、心が浮かれていた。

やがて人混みを抜け、静かな裏通りへと足を踏み入れる。

人の気配がなくなった路地裏。街灯の明かりだけが雨に濡れた地面を照らしている。

「あ?」

ダンボール箱の横に、小さな影が見えた。

近づいてみると、そこには雨に濡れた子猫がいた。

「にゃあ……」

か細い鳴き声。ダンボール箱には誰かが捨てた傘が一本入っていた。

ヒカリは傘を取り出すと、それを開いて子猫の近くに立てかけた。

「これで、少しは濡れねえだろ?よかったな。」

子猫は傘の下に潜り込み、安心したように丸くなる。

ヒカリは自分が雨に濡れていることなど気にせず、その場を後にした。



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