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堕天/FREEDOM’S CROWN  作者: イチジク
もう目覚めたから

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3/40

バディパティ



ハンバーグが出てきた時、俺は泣きそうになった。


マジで。


こんな立派な食いもん、見たことない。肉がでかくて、ソースがかかってて、横にサラダまでついてる。


「いただきます」


俺は手を合わせた。誰に習ったわけでもないけど、なんとなく。


一口食べた瞬間、味が分からなくなった。


美味すぎて、脳が処理できない。肉が柔らかくて、ソースが甘くて、こんな味があるなんて知らなかった。


「うまい...うますぎる...」


俺は夢中で食べた。行儀なんて知らない。ガツガツと、まるで獣みたいに。


「ゆっくり食べなさい。誰も取らないから。」


リリスさんが笑いながら言う。


「すいません...でも、こんな美味いもん初めてで...」


「分かってるわ。でも体に悪いから、少しずつね」


俺はうなずいて、でも手は止められなかった。


サラダも食べた。野菜なんて普段食わないけど、これは違った。ドレッシングがかかってて、シャキシャキしてる。


「野菜も美味いんですね」


「そうだね。バランスが大事だからしっかり食べなさい。」


リリスさんが俺の頭を撫でる。


うわあああ。食事中でも美人に頭撫でられるなんて、天国か?


『満足か?』


ルシファーが頭の中で聞く。


『当たり前だろ』


俺は心の中で答えた。


『こんな生活、夢みたいだ』


『...そうか』

なんか最近、ルシファーの声に元気がない気がする。でも俺は気にしない。今は美味い飯に集中したい。



食事の後、リリスさんが俺を案内してくれた。


「明日から基礎訓練が始まるの」


「何するんですか?」


「前回にも伝えたけど体力作りと、一般教養ね」


一般教養?


「えっ、勉強ですか?」


「そうよ。あなた、学校にほとんど通ってないでしょう?」


ばれてる。


「読み書きはできるけど、計算や歴史、理科なんかは全然分からないはず」


げげぇ...その通りだった。俺はひらがなや簡単な漢字は読めるけど、難しい漢字は分からない。計算も足し算引き算くらいしかできない。


「恥ずかしいですけど...」


「恥ずかしがることないわ。これから学べばいいの」


リリスさんが優しく言う。


「この仕事は頭も使うから、最低限の知識は必要なの」


確かにそうかもしれない。神を相手にするなら、ただ力があるだけじゃダメだろう。


「はいっ!頑張ります」


「そうね。でも無理しちゃダメよ」


「はいっ!」


エレベーターで地下二階に降りる。


「ここが訓練場よ」


扉を開くと、広い部屋があった。体育館みたいに広くて、いろんな器具が置いてある。


「すげぇ...」


「筋トレ、ランニング、格闘技の練習ができるの」


格闘技?


「俺、ケンカしかできませんけど」


「大丈夫。基礎から教えるから」


その時、訓練場の奥から声が聞こえた。


「新人?」


振り向くと、俺と同じくらいの年の女の子がいた。


短い黒茶の髪で、犬みたいに鋭い目つき。なんか怖そうだ。


「伊織ヒルメよ。あなたと同期になる」


ヒルメ?変わった名前だ。


「あ、ヒカリです。よろしくお願いします。」


「知ってるわ。初体験で《アバラ》を倒した子でしょ?」


初体験って言い方が恥ずかしいな。下品な女だ。


「まあ、そうっすけど...」


「ふーん」


ヒルメが俺を上から下まで見る。まるで値踏みしてるみたいに。


「痩せてるのね。本当に神を殺したの?」


なんか馬鹿にされてる気がする。


「殺しましたよ」


「へえ。でも見た目は弱そうね、それにバカっぽい。」


むかつく。


「見た目で判断すんなよ」


「あら、怒った?可愛いじゃない」


可愛いって...俺は男だぞ。


「ヒルメ、あまりからかっちゃダメよ」


リリスさんが注意する。


「すみません、リリスさん。でも新人いじりは伝統ですから」


伝統って何だよ。


「いーよなぁ、オメェらみたいなバカはよぉ。伝統とか言ってりゃ何でも許されると思ってて」


腹が立ったので精一杯毒づく。


「あら、随分と偉そうね。学校もまともに行ってない子に言われたくないわ」


ヒルメが言い返す。


「...確かに」


俺は黙った。その通りだった。


「それより、碇くんは?」


「会議室にいるはず。呼んできましょうか?」


「お願いします」


ヒルメが走っていく。足が速い。


「あの子、性格はきついけど、本当はいい子なの」


リリスさんが俺に説明する。


「あまり気にしないでね」


「はいっ...」


でも正直、苦手なタイプだった。


しばらくして、ヒルメが男の人と一緒に戻ってきた。


背が高くて、眼鏡をかけてる。年は二十代前半くらいか?スーツを着てるけど、なんか違う。もっと動きやすそうな服だ。


「碇誠太だ」


男の人が俺に手を差し出す。


「ヒカリだ」


握手をする。手が大きくて、しっかりしてる。


「君のファイルは読ませてもらった」


ファイル?


「骨のアバラを単独で撃破。しかも初戦闘で。なかなかやるじゃないか」


あからさまだな...褒められてるのか、からかわれてるのか分からない。


「運が良かっただけじゃね?」


「運も実力のうちだ」


碇が俺を見つめた。その目は、なんか怖い。鋭すぎる。


「君はこれから我々のチームに加わる。神崎さんが指揮官、伊織が君のバディだ。」


バディ?


「二人一組で行動する。お互いをサポートし合うパートナーのことよ」


リリスさんが説明してくれる。


「えー、私がこの子のバディ?」


ヒルメが嫌そうな顔をする。


「文句があるなら上に言え」


碇が冷たく言う。


「...分かりました」


ヒルメが渋々うなずく。


「よろしく、ヒカリ」


でも笑ってない。


「ああ、よろしくな」


「では、明日から本格的な訓練を開始する。ヒカリ、覚悟はいいか?」


碇が俺に聞く。


「へぇ〜い」


「返事だけは元気だな」


ヒルメが皮肉を言う。


「まあいいわ。どうせ最初はみんなそんなもんよ」


みんなって、他にもいるのか?


「他のメンバーは?」


「任務中よ。そのうち会える」


碇が答える。


「そうかよ」


「では解散だ。ヒカリ、明日は朝六時に起床。食堂で朝食後、訓練開始だ」


六時?早すぎるだろ。寝させろよ。

「へぇ〜い」


「頑張りなさいね」

リリスさんが俺の肩を叩く。


「はいっ!」


俺は自分の部屋に戻った。


部屋に戻ると、ベッドに倒れ込んだ。


柔らかい。こんな柔らかいベッド、初めてだ。


時計を見ると、まだ七時だった。


「もう寝るか」


『早すぎないか?』


ルシファーが驚く。


「いつものことだよ。貧乏な時は、起きてると腹減るから、できるだけ寝てた」


『今は飯が保証されてるだろう』


「分かってるけど、クセなんだよ」


俺はベッドにもぐり込む。


『十一時間も寝るつもりか』


「そんくらいがちょうどいいんだ」


『三年寝太郎か!...で、どうだった?』


ルシファーが聞く。


「疲れた」


『同期の女の子、苦手か?』


「うーん...なんか怖えよなぁ」


『あの子はおそらく強いぞ』


強い?


『神器を扱える。天叢雲剣という、かなり強力な武器だ』


神器って何だ?


『神が作った武器や道具。または神そのモノなど....人間が使えるように調整されたものもある。』


なるほど。それでヒルメは自信があるのか。


『君も負けていられないな』


「当たり前だろ」


俺はベッドから起き上がる。


「オレぁ、神と一体化してるんだぜ。負けるもんか」


『その意気だ』


でも正直、不安だった。


ヒルメは訓練を受けてるだろうし、碇は経験豊富そうだ。俺だけ素人で、ついていけるんだろうか?


『心配するな』


ルシファーが言う。


『君には私がいる』


そうだった。俺は一人じゃない。


「よし、頑張ってやるよ」


俺は拳を握った。


明日からが本当のスタートだ。


───


次の日、六時きっかりに目が覚めた。


昨日の夜は八時に寝た。十時間も寝たのに、まだ眠い。


でも仕方ない。寝てる時間が長いのは、貧乏時代の名残だった。寝てれば腹が減らないから、できるだけ長く寝るクセがついてる。


『まだ眠いのか?』


ルシファーが呆れ声で言う。


「眠いけど起きるよ」


俺は起き上がった。十時間寝ても、まだもうちょっと寝たい気分だった。でも今日から訓練だ。


シャワーを浴びて、着替えて、食堂に向かう。


ヒルメがもう座ってた。


「おはよう」


「...おはよう」


素っ気ない返事。


朝食はパンとスープとサラダ。これも美味い。


「君は何でも美味しそうに食べるのね」


ヒルメが俺を見て言う。


「だって、美味いじゃん」


「まあ、そうね。でも行儀が悪いわ」


行儀?


「パンをちぎって食べなさい。かじりつくのは下品よ」


言われて気がついた。俺はパンを丸かじりしてた。


「すまんな...」


「別に謝ることないわ。知らないだけでしょ?」


ヒルメが教えてくれる。


「スープも音を立てないで飲みなさい。それと、サラダは一口ずつよ」


へー、食事にもルールがあるのか。


「ありがとな」


「どういたしまして。チームメイトが恥かいたら、私も恥ずかしいもの」


素直じゃない。でも、教えてくれるってことは、悪い奴じゃないのかも。


「ヒルメは昔からここにいるのか?」


「一年くらいね。私も家庭の事情で...まあ、似たようなもんよ」


家庭の事情?


詳しくは聞けなかった。でも、俺と同じような境遇なのかもしれない。


「神器って何だよ?」


話題を変えた。


「あ、知らないのね」


ヒルメの目が少し輝く。


「神が作った武器や道具よ。人間でも使えるように調整されたもの」


「それはぐらいは知ってる....で、どんなことができるんだよ?」


「私の天叢雲剣は、水を操ることができるの。洪水を起こすことも可能よ」


すげぇ。


「見せてもらえるか?」


「訓練で見ることになるわ。楽しみにしてなさい」


ヒルメが少し笑った。初めて見る笑顔だった。


意外と可愛い顔してるじゃないか。


『興味を持ったか?』


ルシファーがからかってくる。


『うるせーよ』


心の中で答える。

でも確かに、ヒルメのことが少し気になり始めた。

牛島純一うしじま じゅんいち

所属:警視庁公安部・神性事案対策課(牛島班 班長)

異名:人類最強の男/氷の皇帝/神を超えた男

年齢:二十代後半 身長:183cm

幼少期から柔道を始め、五段。元オリンピック強化指定選手。

柔道を軸に、サンボ・レスリング・打撃術・徒手格闘術を組み合わせ、独自の実戦体系を確立。

生身で神性体を制圧可能な数少ない公安職員。

特級事案を複数解決。

命令には忠実だが、上層部の人間に対しては容赦がなく、理不尽や形式主義を嫌う。

そのため組織内での評価は低いが、現場からの信頼は絶大。

感情を抑えた冷徹な戦闘スタイルから、「氷の皇帝」と呼ばれる。

食生活は高タンパク・低脂肪を徹底。嗜好品を摂らず、生活の大半を鍛錬に費やす。


神崎リリス

所属:警視庁公安部・神性事案対策課(副主任官)

異名:最強の左に座す者

年齢:二十代

身長:170cm前後

出身:日本・東京都

経歴

幼少期から学業・身体能力ともに優秀。

研修を経て神性事案対策課に配属。

危険任務も生身で対応できる優秀な公安職員。

上層部のお気に入りで、評価は非常に高い。

外面は穏やかで礼儀正しく、落ち着いた印象。

感情の起伏が少なく、冷静で合理的。

部下や同期に対しても距離を保つ。

微笑むと柔らかい印象だが、内心は掴めない。


牛島との関係

同期入庁で、かつては危険任務を共にして信頼関係もあった。

ある出来事を境に、互いに距離を取り始める。

現在は表面的には協力するが、心の距離は微妙。

牛島はまだリリスのことを理解しようとしているが、リリス自身は過去を語らない。

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