バディパティ
ハンバーグが出てきた時、俺は泣きそうになった。
マジで。
こんな立派な食いもん、見たことない。肉がでかくて、ソースがかかってて、横にサラダまでついてる。
「いただきます」
俺は手を合わせた。誰に習ったわけでもないけど、なんとなく。
一口食べた瞬間、味が分からなくなった。
美味すぎて、脳が処理できない。肉が柔らかくて、ソースが甘くて、こんな味があるなんて知らなかった。
「うまい...うますぎる...」
俺は夢中で食べた。行儀なんて知らない。ガツガツと、まるで獣みたいに。
「ゆっくり食べなさい。誰も取らないから。」
リリスさんが笑いながら言う。
「すいません...でも、こんな美味いもん初めてで...」
「分かってるわ。でも体に悪いから、少しずつね」
俺はうなずいて、でも手は止められなかった。
サラダも食べた。野菜なんて普段食わないけど、これは違った。ドレッシングがかかってて、シャキシャキしてる。
「野菜も美味いんですね」
「そうだね。バランスが大事だからしっかり食べなさい。」
リリスさんが俺の頭を撫でる。
うわあああ。食事中でも美人に頭撫でられるなんて、天国か?
『満足か?』
ルシファーが頭の中で聞く。
『当たり前だろ』
俺は心の中で答えた。
『こんな生活、夢みたいだ』
『...そうか』
なんか最近、ルシファーの声に元気がない気がする。でも俺は気にしない。今は美味い飯に集中したい。
食事の後、リリスさんが俺を案内してくれた。
「明日から基礎訓練が始まるの」
「何するんですか?」
「前回にも伝えたけど体力作りと、一般教養ね」
一般教養?
「えっ、勉強ですか?」
「そうよ。あなた、学校にほとんど通ってないでしょう?」
ばれてる。
「読み書きはできるけど、計算や歴史、理科なんかは全然分からないはず」
げげぇ...その通りだった。俺はひらがなや簡単な漢字は読めるけど、難しい漢字は分からない。計算も足し算引き算くらいしかできない。
「恥ずかしいですけど...」
「恥ずかしがることないわ。これから学べばいいの」
リリスさんが優しく言う。
「この仕事は頭も使うから、最低限の知識は必要なの」
確かにそうかもしれない。神を相手にするなら、ただ力があるだけじゃダメだろう。
「はいっ!頑張ります」
「そうね。でも無理しちゃダメよ」
「はいっ!」
エレベーターで地下二階に降りる。
「ここが訓練場よ」
扉を開くと、広い部屋があった。体育館みたいに広くて、いろんな器具が置いてある。
「すげぇ...」
「筋トレ、ランニング、格闘技の練習ができるの」
格闘技?
「俺、ケンカしかできませんけど」
「大丈夫。基礎から教えるから」
その時、訓練場の奥から声が聞こえた。
「新人?」
振り向くと、俺と同じくらいの年の女の子がいた。
短い黒茶の髪で、犬みたいに鋭い目つき。なんか怖そうだ。
「伊織ヒルメよ。あなたと同期になる」
ヒルメ?変わった名前だ。
「あ、ヒカリです。よろしくお願いします。」
「知ってるわ。初体験で《アバラ》を倒した子でしょ?」
初体験って言い方が恥ずかしいな。下品な女だ。
「まあ、そうっすけど...」
「ふーん」
ヒルメが俺を上から下まで見る。まるで値踏みしてるみたいに。
「痩せてるのね。本当に神を殺したの?」
なんか馬鹿にされてる気がする。
「殺しましたよ」
「へえ。でも見た目は弱そうね、それにバカっぽい。」
むかつく。
「見た目で判断すんなよ」
「あら、怒った?可愛いじゃない」
可愛いって...俺は男だぞ。
「ヒルメ、あまりからかっちゃダメよ」
リリスさんが注意する。
「すみません、リリスさん。でも新人いじりは伝統ですから」
伝統って何だよ。
「いーよなぁ、オメェらみたいなバカはよぉ。伝統とか言ってりゃ何でも許されると思ってて」
腹が立ったので精一杯毒づく。
「あら、随分と偉そうね。学校もまともに行ってない子に言われたくないわ」
ヒルメが言い返す。
「...確かに」
俺は黙った。その通りだった。
「それより、碇くんは?」
「会議室にいるはず。呼んできましょうか?」
「お願いします」
ヒルメが走っていく。足が速い。
「あの子、性格はきついけど、本当はいい子なの」
リリスさんが俺に説明する。
「あまり気にしないでね」
「はいっ...」
でも正直、苦手なタイプだった。
しばらくして、ヒルメが男の人と一緒に戻ってきた。
背が高くて、眼鏡をかけてる。年は二十代前半くらいか?スーツを着てるけど、なんか違う。もっと動きやすそうな服だ。
「碇誠太だ」
男の人が俺に手を差し出す。
「ヒカリだ」
握手をする。手が大きくて、しっかりしてる。
「君のファイルは読ませてもらった」
ファイル?
「骨の神を単独で撃破。しかも初戦闘で。なかなかやるじゃないか」
あからさまだな...褒められてるのか、からかわれてるのか分からない。
「運が良かっただけじゃね?」
「運も実力のうちだ」
碇が俺を見つめた。その目は、なんか怖い。鋭すぎる。
「君はこれから我々のチームに加わる。神崎さんが指揮官、伊織が君のバディだ。」
バディ?
「二人一組で行動する。お互いをサポートし合うパートナーのことよ」
リリスさんが説明してくれる。
「えー、私がこの子のバディ?」
ヒルメが嫌そうな顔をする。
「文句があるなら上に言え」
碇が冷たく言う。
「...分かりました」
ヒルメが渋々うなずく。
「よろしく、ヒカリ」
でも笑ってない。
「ああ、よろしくな」
「では、明日から本格的な訓練を開始する。ヒカリ、覚悟はいいか?」
碇が俺に聞く。
「へぇ〜い」
「返事だけは元気だな」
ヒルメが皮肉を言う。
「まあいいわ。どうせ最初はみんなそんなもんよ」
みんなって、他にもいるのか?
「他のメンバーは?」
「任務中よ。そのうち会える」
碇が答える。
「そうかよ」
「では解散だ。ヒカリ、明日は朝六時に起床。食堂で朝食後、訓練開始だ」
六時?早すぎるだろ。寝させろよ。
「へぇ〜い」
「頑張りなさいね」
リリスさんが俺の肩を叩く。
「はいっ!」
俺は自分の部屋に戻った。
部屋に戻ると、ベッドに倒れ込んだ。
柔らかい。こんな柔らかいベッド、初めてだ。
時計を見ると、まだ七時だった。
「もう寝るか」
『早すぎないか?』
ルシファーが驚く。
「いつものことだよ。貧乏な時は、起きてると腹減るから、できるだけ寝てた」
『今は飯が保証されてるだろう』
「分かってるけど、クセなんだよ」
俺はベッドにもぐり込む。
『十一時間も寝るつもりか』
「そんくらいがちょうどいいんだ」
『三年寝太郎か!...で、どうだった?』
ルシファーが聞く。
「疲れた」
『同期の女の子、苦手か?』
「うーん...なんか怖えよなぁ」
『あの子はおそらく強いぞ』
強い?
『神器を扱える。天叢雲剣という、かなり強力な武器だ』
神器って何だ?
『神が作った武器や道具。または神そのモノなど....人間が使えるように調整されたものもある。』
なるほど。それでヒルメは自信があるのか。
『君も負けていられないな』
「当たり前だろ」
俺はベッドから起き上がる。
「オレぁ、神と一体化してるんだぜ。負けるもんか」
『その意気だ』
でも正直、不安だった。
ヒルメは訓練を受けてるだろうし、碇は経験豊富そうだ。俺だけ素人で、ついていけるんだろうか?
『心配するな』
ルシファーが言う。
『君には私がいる』
そうだった。俺は一人じゃない。
「よし、頑張ってやるよ」
俺は拳を握った。
明日からが本当のスタートだ。
───
次の日、六時きっかりに目が覚めた。
昨日の夜は八時に寝た。十時間も寝たのに、まだ眠い。
でも仕方ない。寝てる時間が長いのは、貧乏時代の名残だった。寝てれば腹が減らないから、できるだけ長く寝るクセがついてる。
『まだ眠いのか?』
ルシファーが呆れ声で言う。
「眠いけど起きるよ」
俺は起き上がった。十時間寝ても、まだもうちょっと寝たい気分だった。でも今日から訓練だ。
シャワーを浴びて、着替えて、食堂に向かう。
ヒルメがもう座ってた。
「おはよう」
「...おはよう」
素っ気ない返事。
朝食はパンとスープとサラダ。これも美味い。
「君は何でも美味しそうに食べるのね」
ヒルメが俺を見て言う。
「だって、美味いじゃん」
「まあ、そうね。でも行儀が悪いわ」
行儀?
「パンをちぎって食べなさい。かじりつくのは下品よ」
言われて気がついた。俺はパンを丸かじりしてた。
「すまんな...」
「別に謝ることないわ。知らないだけでしょ?」
ヒルメが教えてくれる。
「スープも音を立てないで飲みなさい。それと、サラダは一口ずつよ」
へー、食事にもルールがあるのか。
「ありがとな」
「どういたしまして。チームメイトが恥かいたら、私も恥ずかしいもの」
素直じゃない。でも、教えてくれるってことは、悪い奴じゃないのかも。
「ヒルメは昔からここにいるのか?」
「一年くらいね。私も家庭の事情で...まあ、似たようなもんよ」
家庭の事情?
詳しくは聞けなかった。でも、俺と同じような境遇なのかもしれない。
「神器って何だよ?」
話題を変えた。
「あ、知らないのね」
ヒルメの目が少し輝く。
「神が作った武器や道具よ。人間でも使えるように調整されたもの」
「それはぐらいは知ってる....で、どんなことができるんだよ?」
「私の天叢雲剣は、水を操ることができるの。洪水を起こすことも可能よ」
すげぇ。
「見せてもらえるか?」
「訓練で見ることになるわ。楽しみにしてなさい」
ヒルメが少し笑った。初めて見る笑顔だった。
意外と可愛い顔してるじゃないか。
『興味を持ったか?』
ルシファーがからかってくる。
『うるせーよ』
心の中で答える。
でも確かに、ヒルメのことが少し気になり始めた。
牛島純一
所属:警視庁公安部・神性事案対策課(牛島班 班長)
異名:人類最強の男/氷の皇帝/神を超えた男
年齢:二十代後半 身長:183cm
幼少期から柔道を始め、五段。元オリンピック強化指定選手。
柔道を軸に、サンボ・レスリング・打撃術・徒手格闘術を組み合わせ、独自の実戦体系を確立。
生身で神性体を制圧可能な数少ない公安職員。
特級事案を複数解決。
命令には忠実だが、上層部の人間に対しては容赦がなく、理不尽や形式主義を嫌う。
そのため組織内での評価は低いが、現場からの信頼は絶大。
感情を抑えた冷徹な戦闘スタイルから、「氷の皇帝」と呼ばれる。
食生活は高タンパク・低脂肪を徹底。嗜好品を摂らず、生活の大半を鍛錬に費やす。
神崎リリス
所属:警視庁公安部・神性事案対策課(副主任官)
異名:最強の左に座す者
年齢:二十代
身長:170cm前後
出身:日本・東京都
経歴
幼少期から学業・身体能力ともに優秀。
研修を経て神性事案対策課に配属。
危険任務も生身で対応できる優秀な公安職員。
上層部のお気に入りで、評価は非常に高い。
外面は穏やかで礼儀正しく、落ち着いた印象。
感情の起伏が少なく、冷静で合理的。
部下や同期に対しても距離を保つ。
微笑むと柔らかい印象だが、内心は掴めない。
牛島との関係
同期入庁で、かつては危険任務を共にして信頼関係もあった。
ある出来事を境に、互いに距離を取り始める。
現在は表面的には協力するが、心の距離は微妙。
牛島はまだリリスのことを理解しようとしているが、リリス自身は過去を語らない。




