彼女の声、仕草、口調
警視庁公安部、ヒカリの病室。
ヒカリは退院が決まり、荷物をまとめている。
ドアが開く。
「よう、退院おめでとーさん」
碇が入ってきた。
ヒカリは顔を上げずに言う。
「退院してたのかよ」
「昨日な」
碇が笑う。
ヒカリは小さく息を吐く。
「……お互い、しぶといな」
二人は、握手した。
互いの掌に、熱が伝わる。
「なぁ、アンタは――死ぬなよ」
「あぁ……勿論だ。」
その時。
ドアがノックされた。
「……はいはい、どーぞ」
ヒカリが肩越しに声をかける。
ドアが開き、リリスとヒルメが入ってきた。
「ヒカリくん、退院おめでとう」
リリスは微笑んでいた。
柔らかい笑みなのに、どこか心の奥が読めない。
手には小さな花束が握られている。
「リリスさん!」
ヒカリの声に、リリスは一歩近づく。
「これを受け取って」
花束を差し出すその手つきは、優雅さとも慎ましさとも違って、ただ――何かを確かめる人のように静かだった。
白い百合の花弁が、天井のLEDライトに照らされ、薄く息をしているように光った。
「ありがとうございます」
ヒカリが受け取る。
「ねえ、みんな」
リリスが静かに言った。
声の調子は柔らかいのに、不思議と部屋の空気が引き締まる。
碇もヒルメも、思わず動きを止める。
リリスは小さく息を吸い、告げる。
「今日は、みんなで出かけましょう」
リリスの声は、硝子を撫でるように澄んでいた。
「出かける?」
「ええ。植物園に」
その言葉には、慰めとも予告ともつかぬ響きがあった。
「最近、ずっと辛いことばかりだったでしょう? 皆んなには、少し、息抜きが必要よ。」
「植物園……」ヒルメが呟く。その声音は、土に落ちた夜露のように小さかった。
「いいですね。」
「さすがリリスさん。僕も、賛成です」
碇が静かに頷く。
その眼には、まっすぐな敬意が宿っていた。
リリスは短く微笑み、視線を返す
「ヒカリくんも来るよね?」
「もちろん俺も行きます、行きま〜す!」
ヒカリの笑顔は、あまりに無垢で、むしろ場の静けさを痛々しく照らした。
「じゃあ、決まりね。」
リリスの唇がわずかに弧を描く。
「午後三時に、螺座露御苑で」
その名を聞いた瞬間、空気が静まった。
まるで何かを告げに来る羽音が、遠くで響いたようだった。




