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堕天/FREEDOM’S CROWN  作者: イチジク
もう目覚めたから

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25/41

彼女の声、仕草、口調

警視庁公安部、ヒカリの病室。

ヒカリは退院が決まり、荷物をまとめている。

ドアが開く。

「よう、退院おめでとーさん」

碇が入ってきた。

ヒカリは顔を上げずに言う。

「退院してたのかよ」

「昨日な」

碇が笑う。

ヒカリは小さく息を吐く。

「……お互い、しぶといな」

二人は、握手した。

互いの掌に、熱が伝わる。

「なぁ、アンタは――死ぬなよ」

「あぁ……勿論だ。」

その時。

ドアがノックされた。

「……はいはい、どーぞ」

ヒカリが肩越しに声をかける。

ドアが開き、リリスとヒルメが入ってきた。

「ヒカリくん、退院おめでとう」

リリスは微笑んでいた。

柔らかい笑みなのに、どこか心の奥が読めない。

手には小さな花束が握られている。

「リリスさん!」

ヒカリの声に、リリスは一歩近づく。

「これを受け取って」

花束を差し出すその手つきは、優雅さとも慎ましさとも違って、ただ――何かを確かめる人のように静かだった。

白い百合の花弁が、天井のLEDライトに照らされ、薄く息をしているように光った。

「ありがとうございます」

ヒカリが受け取る。

「ねえ、みんな」

リリスが静かに言った。

声の調子は柔らかいのに、不思議と部屋の空気が引き締まる。

碇もヒルメも、思わず動きを止める。

リリスは小さく息を吸い、告げる。

「今日は、みんなで出かけましょう」

リリスの声は、硝子を撫でるように澄んでいた。

「出かける?」

「ええ。植物園に」

その言葉には、慰めとも予告ともつかぬ響きがあった。

「最近、ずっと辛いことばかりだったでしょう? 皆んなには、少し、息抜きが必要よ。」

「植物園……」ヒルメが呟く。その声音は、土に落ちた夜露のように小さかった。

「いいですね。」

「さすがリリスさん。僕も、賛成です」

碇が静かに頷く。

その眼には、まっすぐな敬意が宿っていた。

リリスは短く微笑み、視線を返す

「ヒカリくんも来るよね?」

「もちろん俺も行きます、行きま〜す!」

ヒカリの笑顔は、あまりに無垢で、むしろ場の静けさを痛々しく照らした。

「じゃあ、決まりね。」

リリスの唇がわずかに弧を描く。

「午後三時に、螺座露御苑で」

その名を聞いた瞬間、空気が静まった。

まるで何かを告げに来る羽音が、遠くで響いたようだった。

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