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堕天/FREEDOM’S CROWN  作者: イチジク
もう目覚めたから

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23/41

罪悪感

リリスのオフィス。

静まり返った廊下に、白い照明の光だけが満ちている。

ヒルメは扉の前で足を止めた。

金属のプレートには〈神性事案対策部一課 神崎リリス〉。

その刻印が無機質な光を淡く返している。

息を整え、職員証をリーダーにスライドさせた。

短い電子音とともに、ロックが外れる。

胸の奥が、ひとつ脈を打った。

ヒルメは、ためらいを押し込むようにしてノックした。

「入って」

リリスの声が静かに響く。

ヒルメはドアを開け、中へ足を踏み入れた。

室内は午後の日差しが穏やかに差し込み、静かに沈んでいた。リリスは窓辺に立ち、外の灰色の空を眺めている。

ヒルメの気配に気づいたリリスがくるりと振り返った。顔にはいつもの穏やかな微笑みが浮かんでいる。

「ヒルメちゃん、どうしたの?」

リリスの声は優しく響く、ヒルメは胸の中の緊張が少しほどけるのを感じた。

ヒルメは一歩、静かにリリスの方へ近づいた。

声に少し震えを含ませて、問いかける。

「リリスさん…ヒカリは…?」

リリスは目だけで微かに頷く。

「...目を覚ましたわ」

声は絹の様に柔らかく、まるで自然な安堵を伝えるかのようだ。

ヒルメの胸が温かさで満たされる。

「本当によかった…」

小さく顔を綻ばせるその表情に、心からの優しさが滲む。

リリスはヒルメの微かな安堵の表情を、静かに見つめていた。

その瞳の奥には、何も漏らさぬ冷静さがあった。

やがて、柔らかさを保ったまま、言葉を選ぶように口を開く。

「でも、斎藤くんと田中ちゃん...望月さんの三人は…失ったわ」

ヒルメの胸の奥が締めつけられる。視界が一瞬、揺れた。

「私、何もできなくて…」

思わず俯いて言うヒルメに、リリスは静かに声をかけた。

「ヒルメちゃん、あなたのせいじゃない。

悪いのは全部、聖桜教団よ。

覚えておいて――あなたは正しい...そう、正しいの。

ここにいるのも、あなたが私と一緒にいるべきだから。

だから、自分を責めなくていい。

恐れなくていい。私と一緒に、戦いましょう」

その言葉にヒルメの目から涙がこぼれ落ちそうになる。リリスはそっとヒルメの肩に手を置いた。その手は暖かく、優しさに満ちている。

「でも……」

震える声で言いかけるヒルメに、リリスはそっと口を開いた。

「でも、じゃないの。今はみんなで前を向くのよ。分かった?」

リリスの声は母親のように柔らかく、ヒルメの心に沁みわたった。

ヒルメは小さく息を吸い込み、ゆっくりと顔を上げた。

「はい…私も、戦います」

ヒルメは震える指でリリスの手を握り返した。

「ええ、喜んで。」

リリスは頷き、微笑んだ。ヒルメはリリスの目を見上げ、その微笑みに励まされた。

そのとき、リリスの携帯が短く鳴った。

指先でスッと拾い上げる動作に、わずかなぎこちなさが混じる。リリスは少し驚いたように電話に出る。

「もしもし、リリス。俺だ。明日、対聖桜教団作戦も兼ねた会議だ。ほとんどの主力メンバーが集まる。だから、来い。」

リリスは落ち着いた声で応答する。

「承知しました、牛島くん。私も必ず参ります。」

受話器を置く前に、窓枠に指先を軽くトントンと打つ。

小さな動作は、ヒルメの視界にも、電話の相手にも気づかれない。

電話を切ると、リリスは静かに外の街並みを見つめた。

「明日からよ、私たちの反撃は。聖桜教団には、夜明けの光が夜に巣食う影を照らし出すように、こちらが迫っていると知らしめるの。」

リリスの声が低く響く。力強さと確信のある声色に、ヒルメは胸が熱くなるのを感じた。

ヒルメはそばに立つリリスに目を向けた。夕暮れの淡い光が二人を包み込む。

「さぁ...行きましょう、ヒルメちゃん」

リリスが笑顔で言った。

「はい!」

ヒルメは深く頷いた。リリスの背中を見つめながら、ヒルメは心の中で深く決意した。

『リリスさんを信じて、私も頑張ろう』

ヒルメの瞳は、さっき程より少しだけ澄んでいた。

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