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破天のモーニング・star  作者: イチジク
もう目覚めたから
17/17

急襲

午後3時25分。

都内某所のファミリーレストラン。

ヒカリは窓際の席でコーラを飲んでいた。向かいには望月が座り、コーヒーカップを手に取っている。隣のテーブルには斎藤と田中が座り、何やら書類を確認していた。

内偵任務が終わり、休憩中だ。

今日の任務は、神と契約した疑いのある宗教団体の監視。だが、結局何も起きず、空振りに終わった。

「お疲れ様、ヒカリくん」

望月は微かに笑った。二十代前半の若い女性捜査官だ。普段は冷静でクールな印象だが、最近は柔らかな笑みを見せることも増えている。

「お疲れだよ、疲れたぁ〜」

「今日は何もなくてよかったね」

「なんかあったら色々かったりぃからな」

ヒカリはテーブルに肘をつき、ぼんやりと窓の外を見た。

「仕事終わりは炭酸のきっついヤツだな!」

炭酸が喉を刺激して、少しずつ疲れが溶けていく。窓の外の景色も、いつもより少しだけ優しく見えた。

「でも、こういう日の方が多いのよ」

望月が続ける。

「派手な戦闘ばかりじゃない。地道な内偵と監視。それが公安の仕事」

「あー、正直…めんどくせぇよな」

「正直ね」

望月が笑う。

隣のテーブルで、斎藤が田中に何か説明している。

「だから、この書類はこう記入するんだ」

「あ、なるほど。ありがとうございます、斎藤さん」

斎藤は優しい。

田中にも、ヒカリにも、誰にでも優しい。

望月もそうだ。

人を傷つけるより、手を差し伸べる方を選ぶ。

それが自然で、当たり前のことのように思えるくらいに...

最近、ちょっとだけ分かってきた気がする。

これが、優しさってやつかもしれねぇな。

これが、温もりってやつかもしれない。

まだ全部は理解できねぇけど……なんか、気持ちいいなぁ。

その時。

ヒカリの携帯が鳴った。

着信。リリスからだ。

「はい、もしもし」

『ヒカリくん、今すぐそこから離れて』

リリスの声は切迫していた。

「あぇ?」

『聖桜教団が動いたみたい。私たちが留守の隙を狙ってる』

「聖桜教団?今日の任務のヤツのこと?」

「そうだよ」

「……マジかよ」

『田中美咲ちゃんが情報を流してたみたい。スパイだったのよ』

「田中さんが……?」

ヒカリは隣のテーブルを見る。田中が斎藤と笑顔で話している。

「なンだよ、それ……アリかよぉ。」

『本当よ。家族を人質に取られて、情報を流してたみたい。あなたたちの位置も、今、敵に知られてるの』

「くそっ……」

『すぐに逃げてね。援軍は私が手配するから。』

「わかりました。」

ヒカリは電話を切った。視線は田中に釘付けのまま、心臓が激しく打つ。

「どうしたの?」

望月が聞く。

「ヤバい、敵が来る。」

「え?」

その瞬間――

ガラスが砕け散った。

パリィィン!

窓から何かが飛び込んできた。黒く、鈍い光を帯びた筒状の物体が、ヒカリの目の前で床に転がる。

「ッ手榴弾!」

斎藤が叫ぶ。

「伏せろ!」

ドォォォォン!!

爆発。

店内が揺れる。テーブルが吹き飛び、椅子が転がる。悲鳴が響き、煙が立ち込める。

ヒカリは床に伏せていた。耳が痛い。キーンという音が響く。

「うわっ、痛ぇ!」

ヒカリはそのまま立ち上がった。

望月が近くにいる。頭から血が流れているが、まだ動いている。

「大丈夫…」

斎藤もいた。腕を押さえながら、かろうじて立っている。怪我は深そうだが、表情には動揺がない。

ヒカリは辺りを見回す。煙と破片が舞う店内で、次に何をすべきかなんて考えず、ただ動くしかなかった。


そういえば、田中は――。

「田中ァァ!」

視線を下ろすと、田中が倒れて動いていなかった。

「田中!」

ヒカリが駆け寄る。

だが、その時――

店の入口が開いた。

黒いコートを羽織った男たちが五人、すっと入ってくる。全員、自動小銃を構え、額には旭日旗の鉢巻、腕には不気味なマークの腕章。

「神性事案対策課だな」

男の一人が低く言い放つ。

「殺せ」

タタタタタン!

銃声が鳴り響き、店内の混乱がさらに増す。煙と破片の中、ヒカリは床に伏せながら、直感だけで動こうとした。

「ちっ、仕留めるしかねェな!」

「変身」

ヒカリは首にナイフを当てた。刃先が皮膚に触れ、痛みがぴりりと走る。だが、我慢する。

血が一筋流れ落ちた瞬間、体を炎が包んだ。

筋肉が膨張し、骨格が歪む。背中に黒い翼が生え、額に光の角が立つ。力がみなぎり、心臓の奥から何かが溢れ出す。

自由――ルシファーの力。

炎は静かに消え、変わり果てた自分をヒカリは確かめた。

「行くぞ!」

声は震えず、しかし決意を帯びて店内に響いた。

ヒカリが地を蹴る。床のタイルが割れ、光の軌跡を残して突進する。

男の一人に拳を叩き込む。

ゴッ!

男が吹っ飛び、壁に激突する。動かなくなった。

「次ィ!テメェは俺の下‼︎」

もう一人に蹴りを入れる。

ドガッ!

男が床を転がる。

「クソっ、化け物が!」

残りの三人が一斉に発砲する。

タタタタタン!

弾がヒカリに向かってくる。だが、遅い。

ヒカリは体を捻り、弾をかわす。

「ヒャッハァァァハハハハハハハハハハハハッッ!!!

もう終わりかァ⁈」

突進し、三人をまとめて殴り飛ばす。

ゴッ、ドガッ、バキッ!

三人が吹っ飛び、床に転がる。動かなくなった。

「オイ、大丈夫か⁈」

「ええ、なんとか…」

望月が立ち上がる。だが、足元がふらついている。

「斎藤は?」

「俺は平気だ」

斎藤も立ち上がる。腕の傷は深そうだが、動ける。

「田中は…」

ヒカリが振り返る。

田中が倒れている。動いていない。

「田中!」

斎藤が駆け寄る。田中の首に手を当てる。

「脈がねぇ…」

「嘘だろ…」

田中が死んでいる。

爆発の衝撃で、即死だったのか。

「そっか…」

その時、店の外からエンジン音が響いた。

黒いバンが停まり、十人以上の男たちが降りてくる。全員、黒い戦闘服に自動小銃を構えている。

「なあ!待った!チートだろ‼︎反則‼︎指導‼︎」

「ヒカリ!逃げるよ」

望月の声が届く。

「いや「逃げるの!」

望月が叫ぶ。

「斎藤くん、ヒカリを連れて裏口から!」

「分かった」

斎藤がヒカリの腕を掴む。

「行くぞ、ヒカリ」

「オイ、望月さんは!」

「私が時間を稼ぐから」

望月はグロック17を抜き、前に立つ。

「早く行きなさい!」

「なンだよそりゃ…!」

「良いから早く!」

斎藤がヒカリを引っ張り、二人は裏口へと向かう。

背後から銃声が響く――タンッ、タンッ、タタタタタン!

望月が戦っている。

「…」

「行くんだ、ヒカリ!」

斎藤が裏口を開け、二人は外に飛び出した。

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