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破天のモーニング・star  作者: イチジク
もう目覚めたから
15/17

ただ覚悟一つ

地面を蹴ると、体が軽く跳ねた。

背中の漆黒の翼が広がり、加速してピエロに迫る。

拳を振るったが、空を切った。ピエロは鼻で笑うだけだ。

「甘いねぇ、チョコより甘い坊や」

声と同時に、ピエロはじんわりと手を振るった。

その瞬間、ヒカリの口から笑いが漏れた。

「ハハ…あっ?」

笑いが止まらない。

ハハハハハ

喉を伝って身体を支配していく。

クソ....畜生ッ。

「ヒカリ!」

碇が叫ぶ。

だが、碇も笑い出す。

「ハハ…クソ…ハハハ」

ヒルメも笑っていた。

「ハハハ…やめて…ハハハ」

三人の笑いは止まらない。

腹が痛く、呼吸もままならず、視界が揺れる。

ヒカリは膝をついた。

『さぁさぁ、もっと笑いましょう!』

ピエロが近づき、足音がゆっくりと響く。

必死に笑いを堪えようとするヒカリ。

だが、止まらない。

「ハハハ…クソ…ハハハ」

『ヒカリ、落ち着け!』

ルシファーが声を張り上げた。

『これは道化の神の能力だ!感情を支配されている!』

「ハハハ…分かってんだよ‼︎…ハハハ」

でも、止められない。

このまま笑い続けたら、死ぬかもなぁ。

ピエロの拳が顔面を貫いた。

ゴォンッッ!!

体が宙を舞い、壁に叩きつけられる。

頭がガクガク揺れ、視界が波打つ。

息が詰まり、声も呼吸も奪われる。

「がっ…!」

衝撃が骨まで突き抜け、全身が痺れる。

ヒカリの笑いはピタリと止まった。

視界が暗く沈む。

意識が遠のき、みんなの笑い声が薄れていく。

畜生……畜生……。

───

暗闇。

俺は暗闇の中にいた。

「ここ、どこだよ…」

『ヒカリ』

ルシファーの声が響いた。

『お前は気絶している』

「クソ…マジかよ…」

『ああ。道化の神に殴られて、意識を失った』

「くそぉ…!」

俺は拳を握りしめた。

弱ぇ。

俺は、弱ぇんだ。

また守れない...

ヒルメ...碇...――結局、誰も守れねぇ。

「あれっ……」

膝が勝手に折れた。

暗闇の中で、息だけがやけに響く。

「……俺、何のために戦ってんだ?」

───

俺が覚えてる一番古い記憶。

トタン屋根の下。寒かった。

もやがかかったようにぼんやりと、父親がいた。

「お前の母親はなぁ、お前達を産んですぐ逃げた」

父親はそう言って、酒を飲んでいた。

「産み捨てだ。お前等なんかいらなかったんだ」

拳が俺に降り注ぐ。

「てめぇのせいでアイツが出ていったんだ!」

痛かった。

でも、泣かなかった。

泣いたら、もっと殴られるから。

────


俺、逃げたんだっけな?

夜中に、父ちゃんが寝てる間に。

公園で寝たんだよな。寒くてさ。

ゴミ箱漁って、残飯かっ食らったりして。

腹減るんだ。いっつも腹が減ってた。

「飯が食えればもうそれでいい」

って、俺は思ってたんだよな。


─────

ある日、目の前の車屋でガキを見た。

服はピシッと決まって、親と一緒。

親は笑っているけど、どこか鋭い視線を漂わせていた。

ガキは無邪気に「パパ‼︎」と笑う。

でも、その笑顔の裏に、微かに緊張の空気があった。

ヒカリは呟いた。

「いいな…」

普通の生活がしたい。

でも、無理だ。

何もない。


────

十五歳。

リリスさんが、俺を拾ってくれた。

ヒルメは、初めての友達になってくれた。

碇は、戦い方を教えてくれた。

牛島は……現実を突きつけた。

ルシファーは、力をくれた。

温かい飯。

風呂。

布団。

――公安が、くれた。


────


ルシファーと契約して、初めて、自由を手に入れた。

ここに来て、初めて自分の居場所ってやつを見つけた気がしたんだ。

「オレはぁ、他のやつらと違うんだ。」

そう思った。

「これで強くなれる、認められる」

「これで愛される、褒められる」

でも、違ったんだ。

本当に俺が欲しかったのは、そんなモンじゃねぇ。

ただ……幸せになりたかっただけだ。

飯が食えて、暖かいとこで寝れて、

誰かと一緒にいられる、そんな普通の生活。

それだけでよかった。

でも、今は違う。

守りたい奴らができちまった。

碇、ヒルメ。

みんなの自由を守りたい。

誰かの涙なんて、見たくねぇ。

この拳は、全ての自由のためにある。

これが、きっと……俺の戦う理由だ。

─────


暗闇の中、俺は気づいたんだ。

「俺は……殴るのは好きだけど、強さ見せたかったわけじゃねぇ」

「俺は……ただ、守りたいだけだ。テメェらに、奪われてたまるかよ。」

俺は立ち上がった。

「俺とみんなの自由を守る。」

目が光った。

――戦う理由が、はっきり見えた。

「俺は……もう迷わねぇ」

『ヒカリ』

ルシファーの声が響いた。

『やっと気づいたか』

「ルシファー……」

『ヒカリ、今まで不完全だった』

「不完全……?」

『ああ。変身ってのは、心の在り方で決まるんだ。ヒカリは今まで、「戦う」覚悟が完全に定まってなかった』

ルシファーの声がちょっと柔らかくなる。

『でも、今のヒカリは違う。今のヒカリは、本当にやりたいことを選んだ』

「自由……」

『そうだ。ヒカリの力は、自由を得るための力だ』

ルシファーの声が力強くなった。

『さぁ、行くぞ、ヒカリ。完全なる変身を』

「やってやるよ。」

俺は叫んだ。

「変身!」

俺の体から光が溢れた。

「うおっ…なんだ……」

今までとは違う。

もっと強く、もっと純粋な光。

炎が体を包む。

「マジかよ…熱ぇ……でも気持ちイイなぁ…!」

体が変わっていく。

筋肉が膨れ上がる。

背中から黒い翼が生える。

「でけぇ……!」

額に光の角が現れる。

「何コレ……光ってんじゃん……」

そして――胸の中心に紋章が浮かんだ。

『完全体だ、成功だ』

ルシファーの声が響く。

炎が消え、静寂が訪れる。

俺は立ち上がった。

完全なる合一の姿。

力が、もう溢れすぎて止まらねぇ。

「これ……!いいんじゃないか⁈最高ダナァ‼︎おい‼︎」

俺は拳を握りしめた。

ピエロが驚いた顔をしている。

『な、何だ…お前…』

「俺はヒカリ‼︎貴様を倒すもんだぁ‼︎」

俺が前に出た。


その瞬間――


ピエロが吹っ飛んだ。

笑いが、ピタリと止まる。

碇さん、ヒルメ、望月さんの笑いも止まった。

「はぁ…はぁ…」

三人とも息を整えている。

「ヒカリ……」

碇さんが、驚きと安堵の入り混じった顔で俺を見る。

「助かった」

俺は笑った。

「へっ……ざまあみろって感じだな」

ヒルメが立ち上がった。

「ヒカリ、かっこいいじゃない」

ヒカリは腕を組んで、ニヤリと笑う。

「おうよ。国宝級イケメンってのは、俺のことな」

ヒルメはくすっと笑った。

そして、望月も立ち上がった。

「ヒカリ君、あなた…」

彼女の目に、驚きと…そして、希望が浮かんでいた。

「行ける。これなら行ける」

「裁定の神、解を算出して」

碇の頭の中に、情報が流れ込む。

「勝率……98%⁈ ピエロくん、諦めるんだね」

望月が笑った。

代償に感情を捧げ、感情が麻痺しているはずの望月が、笑っている。

碇はその様子を目にして、思わず息を呑んだ。

「そうだ、そうだ。諦めろ。」

周囲の空気が、一瞬静まり返る。

勝利の可能性が、数字として、はっきりと示された瞬間だった。

「碇君、ヒルメさん、私たちも行くよ」

「もちろん、分かってるさ。」

碇さんが刀を構えた。

「ヒカリ、お前が主攻。俺たちが援護する」

「じゃ、お願いします」

俺は地を蹴った。

光の翼を広げて、一気にピエロに向かう。

ピエロが手を振る。

『笑えよ!...笑ってください‼︎なんでもしますから‼︎』

でも、俺は笑わなかった。

「もう効かねぇよタコ」

俺の拳が、ピエロの顔面に叩き込まれた。

ゴッ!

ピエロが吹っ飛ぶ。

壁に激突する。

でも、すぐに起き上がる。

『くっ…小賢しい!』

ピエロが手を広げた。

その手から、無数の球体が飛び出した。

赤、青、黄色。

ジャグリングの球。

『さぁ、爆発のショーです!』

球が飛んでくる。

でも――

碇さんが前に出た。

「させるか!」

碇の体から、光が溢れた。

守護の力が発動する。

光の壁が、ヒカリたちを包んだ。

球が爆発した。

ドォン、ドォン、ドォン。

爆風が劇場を揺らす。

だが、誰も傷つかない。

碇の守護の神が、すべての攻撃を受け止めたのだ。

「おい!」

ヒカリの声が飛ぶ。

碇は膝をついた。

代償が襲ってきている。

守れば守るほど――守る対象が受けるはずの精神と肉体のダメージが、碇自身に跳ね返るのだ。

息が荒くなる。体が重い。

だが、目の前の誰もが無事だ――その事実だけが、碇の胸を支えていた。

碇は苦笑した。

「ふっ、大丈夫……これくらい……」

しかし、口から血が滲む。

「碇君!」

望月が駆け寄ってきた。

その瞳には、心配と焦りが混ざっている。

「無理しないで!」

「無理してねぇ……無事で、よかった」

碇は血を吐きながら立ち上がった。手は震えている。だが、刀を握り直すその手に迷いはない。

「ヒカリ、行け」

「良いのか……」

「いいから行け! 俺たちが時間を稼ぐ!」碇が叫んだ。

ヒルメが身を翻し、水を操る。

「私も援護するわ!」

天叢雲剣から噴き出した水が、ピエロの周囲を包むように飛び、動きを封じる。

望月はすでに構えを取っていた。グロックを据え、視界に情報が流れ込む。ピエロの軌道、弱点の位置、最適な射撃ポイント――彼女の目が鋭く光る。

「最適解は⁈」という問いに、答えは瞬時に返ってきた。

「ピエロの弱点は額!」

引き金の音が小気味よく響く。パン、弾が飛ぶ。

一発。弾がピエロの額を貫いた。衝撃でピエロがよろめき、額から血が迸る。

『がっ、痛い‼︎ ふざけるな‼︎ 馬鹿野郎‼︎ メスブタァッ‼︎』

罵声が空気を裂くが、動きは鈍い。水の檻と一発の銃弾が、ほんの一瞬の隙を作った。

「今だ、ヒカリ! やりなさい!」望月が声を張る。

「任せろ」俺は応えた。

拳に、全力で力を込める。

俺とルシファーの力が集まる。

フルパワー。

光が眩しくなる。

「これで終わりだ!てめぇ、絶対許さねぇかんな!」

俺はピエロに突進した。

ピエロが手を振る。

でも、遅い。

俺の拳が、ピエロの額に叩き込まれた。

ドゴォン!

光が爆発する。

ピエロの体が崩れる。

白塗りの顔が砕ける。

『あぁ…笑いが…消えてしまう…』

ピエロが呟いた。

『でも…楽しかった…ですよ…ありがとう…』

そして、完全に消えた。

ピエロが消えた。

静寂が劇場を支配した。

俺は元の姿に戻った。

炎が消えて、普通の体に戻る。

「はぁ…はぁ…」

疲れた。

めちゃくちゃ疲れた。

でも、やったぜ。

勝った。

「碇さん!」

俺は碇さんに駆け寄った。

碇さんは望月さんに支えられていた。

顔が青白い。

血を吐いている。

「大丈夫か?」

「ああ…大丈夫だ…」

碇が笑った。

でも、その笑顔は痛々しかった。

「田中!田中!田中‼︎」

望月さんが通信機で叫んだ。

「い、いか...碇君が負傷してる‼︎すぐに!」

『了解!今行きます!』

数秒後、田中さんが駆けつけた。

医療キットを手に、田中が駆け寄る。

「碇さん!」

素早く碇の体を診察する田中。

「内臓にダメージがあります……でも、大丈夫です。応急処置をします」

止血剤を注射し、鎮痛剤も投与する。手際が速い。

「すぐに救急車を呼びます」

「いや……被害者を先に……」碇は息を荒くしながら言う。

「碇さん、無茶言わないでください!」田中の声が震えた。

「でも、碇さんの方が優先です。被害者の方々は大丈夫です。死にませんから。」

碇は頷く。

「…そうか」

そのとき、望月が碇の手を握った。

「碇君、ありがとう……私を守ってくれて」

碇は笑う。

「当たり前だろ……望月は……俺のバディだ」

望月は何も言わない。ただ碇の手を強く握りしめ、涙が一筋頬を伝った。

「ごめん……私のせいで……」

「謝るな。俺が勝手にやったことだろ。」

「でも……」

「いいんだ。みんなを守れて、よかった」

二人の手が、固く結ばれる。

互いの呼吸と温もりだけが、静かな空間を満たしていた。

ヒルメがヒカリの肩を叩いた。

「お疲れ様。よくやったわ。」

「お前もな!」

「あなたの変身、かっこよかったわよ。ヒーローみたいね。」

「まぁな」

ヒカリは笑った。

斎藤が通信機で報告している声が聞こえた。

「本部、こちら現場。道化の神を排除しました。被害者は全員保護。班に負傷者一名、重症ではありません」

『了解。すぐに救急車を手配する』

しばらくして、救急車のサイレンが鳴り響き、被害者が次々と運ばれていく。

もう笑っていない。

ただ、虚ろな目をしている。

「大丈夫ですか?もう安全です」

田中さんが一人一人に声をかけている。

優しい声だ。

「お疲れサマー」

望月さんが俺に近づいた。

「ヒカリくん、すごかったね。」

「ありがとうございます」

「キミは成長してる。これからも、その力を大切にしていきましょう!」

望月さんが笑った。

その笑顔は、嘘じゃない、本物だった。

「望月さん」

「なに?」

「さっき、タブレットで何を見たんですか?」

俺が聞いた。

望月さんの表情が一瞬、強張った。

「…何も」

「嘘だろ」

「ヒカリ君」

望月さんが真剣な顔をした。

「裁定の神はね、時々、残酷な最適解を見せるの」

「残酷な?」

「ええ。誰かが犠牲になる解。誰かが死ぬ解」

望月さんが空を見上げた。

「さっき、私が見たのは…私が死ぬ解だった」

「は?」

「でも、それが最適解だった。私が囮になって死ねば、あなたたちは全員助かる」

望月さんが笑った。

「でも、碇君が許さなかった。私を守った。だから、計画が変わった」

「望月さん…」

「ごめんね。心配させて。」

望月さんが俺の頭を撫でた。

「でも、あなたのおかげで、誰も死ななかった。ありがとう。」

「いえ…」

俺は何も言えなかった。

望月さんは、自分が死ぬと分かっていても、最適解を選ぼうとした。

それがあの人の役割だから。

でも、碇が守った。

それが碇の役割だから。

「俺たちは…チーム、なんですね」

俺が呟いた。

「そうよ。だから、支え合う」

望月さんが笑った。

「これからも、よろしくね」

「はい」


────

その日の夜。

病院。

碇さんは一般病棟にいた。

重症ではないから、集中治療室には入らなかった。

俺たちは病室を訪れた。

「碇く〜ん、大丈夫ですか〜?」

「ああ、もう平気だ...馬鹿にしてる?」

碇さんはベッドに座っていた。

顔色は戻っている。

「なんだ、元気じゃん。」

「医者が言うには、三日で退院できるそうだ」

「よかった…」

ヒルメが安堵の息を吐いた。

「でも、無理しないでくださいね」

田中さんが心配そうに言った。

「分かってる」

碇さんが笑った。

望月さんが窓際に立っていた。

「碇君、ありがとう」

「何度も言うな」

「でも、言わせて」

望月さんが振り返った。

「あなたがいなかったら、私は死んでた」

「死なせるか」

碇さんが笑った。

「お前は俺のバディだ。死ぬ訳ないだろ?」

「…うん!」

望月さんも笑った。

涙を流しながら。

俺はその光景を見ていた。

二人の絆。

バディとしての絆。

それは、簡単には壊れない。

『ヒカリ』

ルシファーが呼んだ。

『お前もいつか、望月のような素晴らしい仲間を見つけるだろう。』

「そうかな〜」

『ああ。お前は今日、大きく成長した。完全変身パーフェクトモードを果たした』

ルシファーの声が誇らしげだった。

『これからも、その力を使って、仲間を守れ』

「分かってる。あとお前の目は節穴だな。」

俺は頷いた。

──────

その夜、俺は宿舎に戻った。

ベッドにドサッと倒れ込む。

「疲れた…腹減った…」

今日は色々あった。

イヴに会って、ピエロと戦って、碇さんが血を吐いて、望月さんが泣いて。

「でも、みんな生きてらぁ…」

ちょっと嬉しかった。マジで。

『ヒカリ』

ルシファーが呼んだ。

「なんだよ、寝かせろよ」

『今日はよくやった。誇っていい。褒めてあげよう』

「はいはい」

『キミは成長している。これからも、その調子だ』

「ああ」

目を閉じると、イヴの顔が浮かぶ。

「気をつけて」

あの言葉が耳に残る。

「イヴ…」

答えは返ってこない。でも、また会いに行こう。

またあの笑顔を見に行こう。あと、オムライスも食いたい。うめぇんだよな、あれ。

「明日、退院したら碇とヒルメと一緒に行くか」

俺は呟く。そして、眠りに落ちる。

夢の中。

イヴが目の前に立ってる。

「ヒカリくん」

微笑む。可愛すぎる。

「また来てくれたんだ」

「ああ…会いたくて」

イヴが近づいてくる。顔がどんどん近づく。

でも、突然表情が変わる。笑顔が消える。

「え?」

「ヒカリくん、気をつけてね」

声が、なんか悲しい。

「イヴ?」

手を伸ばす。でも、消えた。

「イヴ!」

目が覚める。

「はぁ…はぁ…」

夢か。いや、妙にリアルだったな。

イヴの声、イヴの顔、「気をつけてね」が頭の中で何度も回る。

『ヒカリ』

ルシファーが呼ぶ。

「なんだ」

『夢を見たのか?』

「ああ。イヴの夢」

『やはりな』

「やはりって?」

『彼女は、ヒカリの心に入り込んでる』

真剣な声だ。

『恋なのか、それとも別の何かかは、私には分からない』

「別の何かって?」

『分からない』

「はぁ…」

俺はベッドから起き上がり、時計を見る。午前二時。

「眠れねぇな…」

窓はない。地下だから、白い壁だけが見える。

俺は呟く。

「なんなんだ…」

答えはない。ただ光が部屋を照らしてるだけ。

再びベッドに横になる。

今度こそ眠ろう。そう思う。

でも、イヴの顔が浮かぶ。笑顔。悲しい顔。「気をつけてね」

何度も繰り返し浮かぶ。

「まぁ、いいか。また会いに行けば分かるだろ」

俺は呟く。

「それより腹減ったな…明日の朝は何食おう」

そして、また眠りに落ちた。

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