7 旦那様の好物
投げるの遅くなってすみません!!
「いってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくる。」
旦那様を見送ったあと、私はエルサに話しかける。
「…旦那様は大丈夫でしょうか…?」
「大丈夫でございましょう、いざというときは私の息子のロレーヌもおりますし。」
ロレーヌは旦那様と同い年で小さいころからの遊び相手でもあり、教会見習いや魔術学校などについていったという。
特に魔術学校は二人とも学費が無償の特進クラスで旦那様が主席、ロレーヌは次席で卒業したというから主従そろって優秀なのだ。
まあ、私も貧富関係なく成績優秀者が集まる特別クラスで主席卒業しようと思ったら先の内乱でそもそもの学校がなくなったのだが。
そんな話をしていたらあっという間に午後になった。
「そういえば、旦那様の好物などをエルサは知っていますか?」
「確か主は、野菜と煮込んだ鶏とポトフがお好きですね。」
「…!早速、レシピを探して夕飯に向けて作ってみます!」
「ええ、ご一緒します。」
そうして書庫に入り、文献をいくつか探すうちに、ふと目についたものがあった。
「『トマト料理』…あっ!」
「どうされました?」
「鶏肉と一緒にナスをトマトソースで煮込むのはどうでしょう!」
「それは名案ですね!
そういえば、主はこのレシピのポトフがお好きでしたよ。」
「ありがとう、エルサ!」
早速材料を集めに厨房に行く。
「おお、奥様にエルサ。どうなされました?」料理長がにこやかに尋ねる。
「旦那様の夕食を作りたくて…野菜と鶏肉のトマトソース煮とポトフの材料はこちらにありますか?」
料理長はしたり顔になりながら答える。
「ここにはトマトがないから、庭のものを使うといいでしょう。
厨房も昼から奥のほうを開けておきますんで、どうぞご自由に。」
「ありがとうございます!」
早速トマトを庭に取りに行って、作り始める。
旦那様、喜んでくれるだろうか。
◇◆◇◆◇◆
俺が仕事から帰ると、レイチェルが迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま。早く中に入って夕飯を食べようか。」
「ええ、」レイチェルの顔が心なしか暗い。何かあったのだろうかと思いつつ言い出せずにテーブルについた。
食事が出される。
「鶏肉とナスのトマトソース煮…?
料理長、これを作ったのは?」
「奥様にございます。」レイチェルは顔を赤らめて目をそらす。
「ああ、ありがたく頂くとしよう。」
鶏肉は弾力があり、トマトソースが絡むことでさっぱりとしている。ナスも柔らかくこれもおいしい。
ん…?
今気づいたが俺の好物、ポトフがあるじゃないか。
味付けが絶妙なバランスを上手く保てていて、具材一つ一つの甘さが引き出されていておいしい。
「ああの、お味は…?」
気づいたら俺はレイチェルの額にキスをしていた。何でだ!?自分でも理解できない。
「ひゃっ!?」
「あ…
…今日の料理、全て筆舌しがたいほど美味かった。…ありがとうな。」
最後の方は小さい声で聞き取れなかったかもしれん。お互いに赤面したまま、久しぶりに無言で食べた。