49 思案
オクタについて書いていたらいつになく筆が乗りました。遅れてすみません。
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「進軍!」カリストロ様の高らかな声が響く。
この辺りは朝霧がとても深いうえ道幅が狭いため、大軍だとかなり動きづらい。なので、ハンブルク様率いる先鋒隊、ロバート様率いる本隊、そしてカリストロ様率いる我々後発隊の3隊というように兵力を分散することで行軍の速度を上げるという寸法だ。…先鋒隊は夜半の出立だったようで、レイチェルが戻った少し後にここを発った。
……聞かれてないと良いんだが…
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その頃のファクトリアー城はというと―。
「殿下!敵はまもなくこちらへ到着する模様!」
次々と入ってくる報告に、オクタは怒りを隠しきれなかった。
「ええい!兵糧は集まらんのか!」
「それが…」家臣は言い淀む。
「早く申せ!」
「領内の兵糧は、殆ど奴らに買い占められたとのこと…!」
「商人は?!」
「既に買収されている模様っ…!!」
「利に群がるハエどもめ…クソっ!!」
腹いせに椅子を蹴る。椅子は壁にぶつかって無残にも壊れる。
「ぐっ…!」縫い合わせたばかりの傷がまた開き、苦痛に悶える。あの女、次会ったら生かしてはおけん。
「殿下!」
「東の先住民は兵糧を出したのか!?」
家臣は沈痛な顔で黙り込む。
「彼奴ら、30年前の話を持ち出して兵糧の供出を拒みました」少し憎々しげに言うのは腹心のリインだ。
「ああ…斬り捨ててなどいないよな?」
奴らの言う「30年前の話」というのは、俺が生まれる5、6年前の話だ。
父上と母上がちょうどその辺りへ視察に行った際、誤って集落の子供がボールをその馬車へとぶつけてしまった。父上はひどくお怒りになり、その子供の首をその場で落とし、更にはその一家を磔にし火炙りの刑に処した。
その後、見せしめとして奴らは城の普請や鉱山での労働などに充てられた。だが俺が跡目を引き継いだ後は税を軽くしているうえ鉱山で働く者には手当を厚くしてやっている。恨まれる筋合いなど何処にも無いはずなのだが…。
「それが…」リインの顔が曇る。
「怒った使者が長を斬り捨て、長の息子に討ち取られました…。」
あまりの事に、俺は目眩がしてきた。何故だ。俺は焦らず、丁重に交渉しろと厳命したはずだ。
俺には将たる器が無いのか?
「伝令っ!」慌てた様子で伝令兵が入ってくる。
「今度は何だ!」腹が立ち、怒鳴るような格好になる。
「っ、フィクサー山で大規模な山火事、火は麓の農村にまで広がっているとのこと!城門の前には、避難してきた領民が集まっております!」
―フィクサー山は、南部にあるこの州で最も大きい山だ。南部は温暖な気候で、この時期だと雪は
もう降らないはずだ。
「まさか、付け火か…?」自分で口にしてすぐに否定する。単純に領民をこの城へと避難させたかったらそんな回りくどいやり方はしない。
これは本当にたまたまとしか言いようがない。
「…領民を中へ入れよ。」
「しかし…!」
「俺は何も兵糧を分けるとは言っていない。
教会に受け入れの準備をするよう伝えておけ。」
伝令兵は踵を返して立ち去る。
手元にあるのはリインの報告書。
「あと3カ月、か…」今思えば、奴らが宿に泊まった時点で手を下せば良かったのだ。
…いや、今さら後悔しても遅い。オクタはゆっくりと近くのソファに座り、紙と下敷きの本を取り出しペンを握った。




