40 罠
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城を辞した後、俺たちは馬車に乗って門外にある農村へと向かった。
「…うまくいきすぎている」周りを見渡してから、ランドルフがぽつりと呟く。
「家臣の話し声も明らかに疑っているものでしたしね。……スチュアート?」
何か、頭がひどく痛い。キーンと耳鳴りがし、視界がぼやける。
「スチュアートさん、どうしたんですか!?」
「おい、早く拠点に戻るぞ!」
周りの声が遠のき、意識が薄らいでいく。
なぜ、気づかなかったのか。思わず己の情けなさに失笑してしまった。
「大丈夫か、スチュアート!?」
「済まない」意識はそこで途切れた。
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「主」殺風景な作戦室にいたロバート―もとい己の主君に、カリストロは話しかける。
「何だ」
「先ほどマターから、上級速達で報告が入りましたが」
上級速達というのは、術者が速やかに情報を伝達する必要があり、伝達者以外に情報を漏らしたくない場合に用いられるものだ。伝達者の脳内に直接伝達されるため、余程の妨害呪文を受けない限り必ず伝達が可能だ。しかしその特性上大量の情報を伝達することは不可能かつ、術者は伝達する内容が多ければ多いほどかなりの精神力―一般には魔力―を必要とするので文書でのやりとりが一般的である。…緊急時を除いて。
「聞こう」
「スチュアートが敵の攻撃と思われるものを受けたとのこと。今後も妨害を受けると思われますが、いかがいたしますか」
「そのままでいい」ロバートは空を見つめたまま答える。
「宜しいので」その声はさもありなんという風であった。
「わざわざ言わせるな、カリストロ。お前も分かってるだろう。」
「……」ロバートの腹心は何も言わない。ロバートはどこか楽しんでいる様子で口を開く。
「奴らは恐らく、我々を罠にはめた気だろう。
……果たして、罠にはまったのはどちらなのだろうな。」
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「ん…?」光がまぶしい。
「ようやく起きましたか、スチュアート。」
「…本当に済まない、迷惑をかけた。…今日は何日だ?」
「今日は15日、お前が気を失ったのは12日だ。この寝ぼすけめ」ランドルフにマグカップで小突かれる。ぬるめのミルクティーを飲み干し、ベットから出て軽く着替える。
「そういえば、作戦の方は上手く行ってるのか」
「金に糸目をつけずにやったらまあお察しの通り、サクサク進みましたよ。今日中には終わる見通しです」
「…俺も行って良いか?」
「勿論。」
シチューとパンを食べ終えて、早速馬車に乗ろうと外に出る。
「…空気が澄んでるな」
「まあまともに景色なんて楽しめてなかったですしね。」
突然、視界の端で何かが光った気がした。
「スチュアート、危な―」
一瞬、何が起こったか分からなかった。
ランドルフが俺の前に庇うような形で飛び出し、肩の辺りに勢いよく矢のようなものが刺さる。
「馬鹿な…」ランドルフはその場に崩れ落ちる。
その瞬間、俺の中で何かが弾けた。




