38 宿
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翌朝俺たちは城を発ち、ファクトリアー城から少し離れた空き家に入って服装を整えていた。
「ニコル、商人らしい格好とは具体的にどういうものなんだ?」
「…まあ、ランドルフさんのその格好ならギリ何とかなりそうですけど…スチュアートさんのは普通に駄目ですね」
「これのどこが駄目なんだ」
「もうちょっと派手じゃないと城に釣り合わないって言われますよ」
「中々に難しいものだな…」
「ラウル殿は大丈夫で…マター殿はその服で行くなら眼鏡は外したほうが良いと思いますね」
「遠くはあまり見えない方でな…眼鏡はどうしても外せないな」
「じゃあ…ベストをこっちにしてリボンタイつけましょう」
大体の支度が終わり、皆で馬車に乗る。城までの道は割と整備されている方で、妙な所で感心してしまった。
「しかし、果たしてそう安々と商売をさせてくれるのでしょうか…」ラウル殿が少し自信なさげに呟く。
「まあ、正直一か八かってとこだが…どうにかするしかないさ」
「ですよね…」
やがて馬車がゆっくりと止まり、甲冑が擦れる音が近づいてくる。
「着いたようだよ」
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「貴殿らは何用であるか」いかにも生真面目といった門番が問う。俺は馬車を降りて一礼し、口上を述べた。
「我々は王都から来た行商人でございます。此度、領主殿にここ一帯での行商を許可していただくためこちらに参上した次第にございます」
「そうか。今報告する故、今しばらくは城下のこの宿でお待ちくだされ。」門番は地図を渡した後、厳かに門を開いた。
「案外すんなり入れたな。てっきり警備が厳しいものかと」
「いや、泊まる宿を指定してきているのが怪しいですね。今日はなるべく、おとなしくしておくべきでしょう」
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「これは夢か…?」ランドルフが信じられないといった顔つきで驚く。
宿は流石というべきか、やはり豪華絢爛だった。
部屋の家具は質の良い絹がふんだんに用いられ、料理はフルコース。正直、バスタブがあった時は舌を巻いたものだ。
ベッドもフカフカで、皆で護身とか忘れて眠りこけてしまった。
翌朝起きると、すでにランドルフとマターは起きていた。流石朝に強い二人組だ。
「…何か、すごくぐっすり眠れたんだが」
「私もです…」
「…正直、ずっとこのままが良いですね」
コンコンとドアがノックされ、支配人らしき人物が入ってくる。
「おはようございます。こちら、本日の朝食と登城許可証にございます。お代は不要にございますので、ごゆっくりどうぞ」
寝ぼけながらも朝食を食べ、服装を整えて荷物をまとめる。
「…じゃあ、行こうか」俺たちは馬車に乗って城を目指した。




