32 おとぎ話
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最近、旦那様はひとりで部屋に篭っている。何かあったのだろうか。
「旦那様、お茶にございます」
「ああ、済まない。」旦那様は何かの本を閉じ脇に置く。日記か何かだろうか。
「そちらの書物は何ですか?」旦那様は少したじろぎ、やがてゆっくりと話し始めた。
「…これは、先日処刑されたフィリップ…もとい、フィリーが遺していたものでな。写本を今取り終わったところだから、読むといい。」手渡された本は薄いはずなのに、ずっしりと重かった。
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その本にはあるおとぎ話が書いてあった。
ある王国の少女が城での生活に飽きてこっそり抜け出し、つらい思いをしながらも楽しく生きるといった筋書きだ。
読み終えたとき、さっきまですやすやと昼寝していたはずのフィリーが急に泣き出してしまい、慌てて寝かしつけようとする。しかしフィリーは一向に泣き止まない。
「どうしようかしら…」咄嗟に思いついて、さっきの本を読み聞かせる。
「『むかしむかし、とある王国に住むお姫様が居ました。お姫様はお城での生活に退屈して、弟と一緒にこっそりお城を抜け出しました。』」
フィリーは泣き止み、ニコニコと笑顔だ。
「『お城の外には、温かいスープや焼きたてのパン、良い香りが漂うステーキなどおいしそうなものがたくさんありました。お姫様たちはパン屋に入りましたが、あいにくパンを買えるお金も持っていません。
「どうしたんだいお嬢ちゃんたち」いかつい顔をした店主が二人の前に現れました。二人は怖くなって逃げ出そうとしましたが、急に二人のお腹が鳴りました。
「何だ、お腹空いてたのかい。うちのパンは絶品だから食べていきな。」そう言って店主はにっこりと笑い、焼きたてのバゲットに色とりどりのジャムをたっぷり塗ってくれました。
「これはなあに?」お姫様の弟が聞きます。
「これはイチジク、こっちはブルーベリーのジャムだ。出来立てのポトフもあるから遠慮せずいっぱい食べろ。」
「どうして…こんなごちそうを出してくれるんですか?私たち、お金なんて持ってないのに…」お姫様が恐る恐る聞きます。
「子供はしっかり、出来立ての温かいものをまんべんなく食べる。…なかなか、宮殿では出来ますまい。」
「ありがとうございます…!」こうしてお姫様たちはごちそうをたっぷり食べて、それからも時々、こっそり通うようになったそうです。めでたしめでたし。』」
フィリーはいつの間にか寝ていて、本を閉じかけるとー。
「…?」数ページあとに、乱雑にペンでぐしゃぐしゃになっているページがいくつかある。書き間違いだろうか、と思いつつ復元魔法をかけて先を読むことにした。




